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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第694話 見栄。




 エアから『絵も描ける最強のドラゴンが大樹の森にいる』という話を聞いて……。



 『…………』



 ……なんだろう。それはまさにうってつけで、とても有難くも頼もしくも感じた訳なのだが。

 それとは別に私の『心』の中には、不思議と他の感情がむくりと起き上がった気がしたのだ。


 同時に、何故だか急に私はまた翼を『ぱたぱた』とさせたくもなったのである……。



 正直、自分でもどうしてそんな感覚になっているのか、よくわかっていない。

 ……ただ、ちょっとだけ『最強のドラゴンならここにもいますよ!』と、エアへと自己主張したくなってしまっただけにも思える。



 だから、きっと近しい言葉で今のこの感情を言い表すのだとしたら……たぶん『やきもち』が近いのだと思うのだった……。



 『…………』



 ……現状、私の『欠けた記憶』の中には『大樹の森』に居るのは『精霊達だけ』という思いもあって──そこに自分の知らぬ存在が居る事と、そしてその存在がエアとも凄く親しい間柄だという事を聞いていると……段々と何故だか無性にムズムズとしてしまったのである。



 『バウ』と言う名のドラゴンは、あの『微笑む二人の絵』の傍にも描かれていた『幼竜』の事だろう。


 ……因みに、私自身が最初それを自分の事だと思いこんでいたのは確かだし、その影響もあって『聖竜()』とその『バウ』がとても似た見た目をしている事も理解はしているのだ。



 『…………』



 ただ、そんな見た目が酷似している事も影響しているのだろう……なんとも言えない『負けん気』が私の『心』の中で顔を出していた。



 本来なら『意識状態』になって『大樹の森』を注意深く視れば、その存在バウが本当に居るのか、その姿は本当に私と似ているのかなど直ぐに確認できる筈なのに──私はそれもしようとはしていない。



 なんだか、それをするだけで妙に『負けた気分になりそうだ』と感じたので、『バウ』なるドラゴンの姿を見るのは『大樹の森』にいって直接対面するまでは我慢しているほどであった。



 『……何故?そんな事をしているの?』と言われるかもしれないが、正直これに対しては自分でもよくわからない感覚である。



 ……でも、言うならばきっと『あれってすごくいいんだよっ!絶対に試してみて!ねえねえ使ってみてよ!』と、積極的に何か良いものを薦められている時ほど、逆に何となく距離を置きたくなってしまう様なそんな天邪鬼感覚に近しい……まあ、上手くは説明できないけど、それに似た気分なのだ。



 エアが良く褒めるからこそ逆に、『ふーん、そんな凄いドラゴンがいるのね~。へ~~』と、なっちゃう私が居る事は否定できなかった。



 ……まあまあ、その子も凄いと思うけど──でも私の方がきっと『ぱたぱた』は上手く出来ると思うけどね~?とか、そんな無駄な張り合いもしちゃう。意固地も張れるだけ張っちゃう……みたいな、そんな複雑な心境だったのである。



 『…………』



 ……自分と似た存在が居ると、どうしてもこう、なんとも言えない気持ちになる事はないだろうか。たぶん、それと一緒だと思うである。



 無論、『絵』を描いてほしい気持ちは確かにあるものなので、面と向かって『バウ』に喧嘩を吹っ掛けたりは当然するつもりもない。……寧ろ、積極的に仲良くなりたいとは思っている。


 ……ただ、今の所は内心で『ふーん』って思ってしまう──という、ただそれだけの話であった。



 それにまあ、私はこんな『幼竜』に近しい見た目をしているけれども、その実ちゃんとした『聖竜さん(大人)』なので、対応は弁えるつもりなのである。


 ……うむ。これからは大人の雰囲気をもう少し出して、余裕を醸しておこうかなっと。



 ──ぱたぱたぱたぱた……。



「きゅー?」


 『…………』



 ……え?なんで急に『ぱたぱた』の練習をし始めたのかって?た、偶々そんな気分だっただけなのだ。そうそう、ただそれだけ。ほんとにほんと。


 別に、『大樹の森』に行った時に、その『バウ』なるドラゴンに対して精神的優位を取るため、今の内からこっそりと練習し直していたわけではないのである。……なにも、向こうに着いたら友好の印として『ぱたぱた勝負』を仕掛けるつもりなんてこれっぽっちも考えていな──



「……きゅー」


 『…………』



 ……あっ、そんな事よりもお腹が減ったのね。はいはい。今すぐ作るから。少し待っていなさい。


 ──あれ?でも君、さっきはエアからも『ご飯』貰ってなかったか?



「……きゅ、きゅー!」


 『…………』



 ……ほう。身に覚えがないと?そうかそうか、それなら仕方がないな。


 それに、まだまだ君は細身だからな。確り食べなさい。ほらほら。



「きゅー!きゅ、きゅー!」


 『…………』



 ……ふむ。食後のデザートはやっぱり別腹だと?もう二、三個は余裕?

 ま、まあ、慌てずゆっくりと食べて欲しい……。


 ただ、『人の街』に入って宿屋に一泊しただけなのに、『水竜の子』は随分とニッチな言葉をどこかで聞き覚えたらしい。君は賢いな……。ほれほれ。



「きゅー!」



「……ふふふ、仲良しさんだねっ。なんか二人を見ているだけでも一日過ぎちゃいそう。ほっこりする──けど、お昼の休憩もそろそろ終わりにしないとね!あと少しこの道を歩けば小高い丘がある筈だから、それを超えたらまた『大きな街』が見えてくると思う……だから、今日はその街まで行って泊まろっか!続きは宿でもいいかな?」



「きゅー!」


「よーしっ!ダッシュだーっ!」


「きゅー!!きゅ!きゅー!」



 『…………』




 ──ただ、そうして『聖竜()』と『水竜の子』をむぎゅっと抱きあげると、『白銀のエア』はそのまま軽やかに丘も駆け上がり、終いにはそこから街まで『空』をもかけていったのだった。


 ……丘上から見える街の全景に『水竜の子』は興奮の声を上げている。



 因みに『聖竜()』の方は、未だ一度も『ぬいぐるみのフリ』が上手くいっていないので若干街が近づいてくるとそれだけで少し緊張してしまったのだが。


 ……ただ、『今回こそはバレずに街に入りたい!』と、密かにそんな目標も立ててみる。


 なーに、話では『バウ』なるドラゴンにはできた事なのだろう?ならば大人な雰囲気が漂う今の私であれば、きっと今度こそは見事に『ぬいぐるみのフリ』もできる筈で──



「うおっ!ドラゴンだっ!」


「おおー、あんたがギルドから話もあった『竜使い』かっ!この街へようこそ!」


「二匹もいるぞー!すげー俺、間近でドラゴン見たのは初めてだよっ」


「きゅー!」


「おおっ!こっちのは愛想がいい!やっぱ人に慣れているとドラゴンも可愛いもんだなっあはは!」


「こっちの白いのはうんともすんとも言わないけど……どうした?具合が悪いのか?大丈夫か、ほれ、動け。ほれっ」



 『…………』



 ──無論、結果は敢えて言うまい。


 ……ただ、や、やめてほしいのだ。突かないで……くすぐったいから……。




またのお越しをお待ちしております。

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