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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第693話 宝箱。

……おや?とある森の中で、大樹に寄り添いながら白いドラゴンが何かを描きつつ、考え事をしている様です──。


(珍しい事に少しだけ『バウ視点』の話となります。……ただ、次話からはまた『主人公視点』に戻ります。区切りは少々微妙ですが、現状はそういう仕様なんだとご了承ください。)





 ──『人』の生き方だと、時に身分や種族に縛られて、場合によっては『なりたいものになれない』状況や『したいことができない』なんて状況は珍しい事でもないらしい。


 ……そんな話を精霊達から聞いた覚えがある。



「…………」



 ……だから、僕みたいな『ドラゴン』も本来ならば『絵を描きたい』と興味を持ったとしても、それを実際に行う事──絵筆を持って色を重ねる、なんて事はしたいと思っても出来ないことなのだと。



 それに、『ドラゴン』としての生き方だと、『人』の真似事をするのはあまり良い事だと思われない風潮があるとかで、『天動派』『地動派』『水流派』、そのどの派閥に生まれたとしても白い目で見られるのは間違いないらしい。


 ……そんな話を赤竜さんから聞いた覚えもある。



 『お前は『ドラゴン』なんだから、『人』なんかと同じ事は出来ないんだ』と。


 『そんなに『絵』が描きたいなら、手を使って地面にでも好きなだけ描けばいいだろう』と。



 ……精々、そんな事を言われてお終いなのだとか。


 ──要は、『諦めろ』と遠回しに言われるだけらしい。



「…………」




 ……だから、『ドラゴン』である僕が、こうして『大樹の森』で絵筆を持って、今日も『絵』を描き続けていられるのは『奇跡』に近しい事なのだと思う。



 身分や種族に縛られたり、なりたいものになれないなんてことは一切なかった。


 『ドラゴン』でも、『人』の様に『歌を歌ってもいいし、絵を描いてもいいんだ』と。


 時にはお祭りで好きなだけ踊ったっていいんだと。



 『表現する』という事に関して、僕は色々な事をやってきたし、見てきたし、学んできた。


 旅をする中で、色々な景色も見て、様々な出来事を経験してきた。


 そして、その度に僕が描きたいものはどんどんと増えていった……。



 純粋に『好きなものは好きと言っていいんだよ』と。


 『興味があると思える事には、もっと積極的に取り組んでいけばいいんだ』と。



 僕はそう言われて育ってきた。


 ……それがどんなに特別な事か、今なら分かる気がする。



「……ばうっ」



 ……僕は、この『世界』が好きだ。愛している。


 身の回りの全てを──『大樹の森』を──ここで暮らす仲間達みんなを──可愛らしいお嫁さんとその家族を。



 ──そして一番は、僕を育ててくれた『(ロム)(エア)』を心の底から愛している。




 『人』だからなんだ。『ドラゴン』だからなんだと。

 絶対にこうしなくちゃいけない『在り方』なんてないんだと。


 『力』は使い方次第だ。その『在り方』も望むがままにしなさいと。


 全力で応援するからと。



 僕は、僕である事と、その生き方を、あの『二人』の沢山の愛情と支えなしには選べなかっただろう。


 ……いや、もし選んでいても、結局は流されて『諦めて』居たかもしれない。


 だから、こうして居られることは『父さんと母さん』のおかげだと思うんだ。



 ほんとに感謝が絶えない。それを思う度にいつも『ありがとう』と言いたくなる。


 ……ただ、最近はちょっと二人とも『大樹の森』に居る時間が少ないから、その『ありがとう』が言えていない。


 だから、もうちょっとだけ多めに帰って来てほしい気はする……。



「…………」



 ……でも、そう言えば『バウ』って名前には──『宝箱』っていう意味があるらしい。


 僕は、そんな自分の名がとても気に入っている。


 僕の中には、きっと数え切れないほどの『大切なもの』で溢れていると思うから……。


 そして、僕はその自分の中の『大切なもの』を『絵』に描き続けていきたいと思うから……。



「…………」



 ……ただ、敢えて言うと、困ったことに僕は『二人』から貰ったそんな『大切なもの』を──その気持ちを、どうすればお返しできるだろうかとずっと悩んでいる。



 とにかくそれが難しいんだ。あの『二人』はほんとに凄いから。なんでもできてしまう。


 僕達が手助けできる隙なんて殆どない。


 どんなに大変だと思える状況も『二人』で解決してしまうし、なんでも作り上げてしまう。



 だから、僕も『精霊達』も『兎さん達』も、いつも相談してるんだ。


 『何か手助けできる事ないかなー』って。……でも、決まってその度に『うーん、ないねー』ってなる。


 だから、時々で良いから……『弱い部分も見せていいんだからね?』とは思うんだ。


 そしたら、僕らがいつでも飛んでいくから──と。



 ……でも、偶に『父さん』がポンコツな部分を見せても、直ぐに『母さん』が喜んで助けに行っちゃうから……やっぱり難しいのかもしれないとは思った──



「…………」



 ──け、けどっ!そんな事を思ってたら最近になって、『父さん』から『あるもの』を僕は預かって欲しいと頼まれ、それを任されることになったっ!!



 『兎さん達』や『精霊達』は、それを見て『……う、羨ましくなんかないんだからねっ』と言っていたけど……お察しである。



 ただ、当然それを任された事自体はとても責任が伴うものなので、油断はできないと思った。



 ──だって、何しろそれは『大樹の森』の『鍵』とも言える程に大事な存在であり……。



 『父さん』が培った知識と経験の全てに近しいもの。


 あるいはその技術、または持ち得る魔法感覚の導そのもの。


 『父さんの空間魔法』に、その『虚』に『干渉』する為の術の一解。



 ……言うなればそれは、『内側のエフロム(ドッペルオーブ)』と呼ぶ様なものだったのだから──。





またのお越しをお待ちしております。

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