第692話 生動。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「……ふふっ、ドラゴンの姿になってからのロムってなんだか積極的に『ちゅー』してくれるようになったねっ──あっ、嬉しいって意味だからねっ!ロム、ありがとっ」
「きゅー!きゅー!」
「水竜ちゃんも、ふふっ、ありがとねっ。もうっ二人とも可愛いなーっ!バウに会うのも楽しみだねっ!きっと驚くぞーっ!ふふふっ──よしっ、さあ今日も行くぞー!」
「きゅー!きゅー!」
『…………』
小さな『白銀のエア』にむぎゅっと一緒に抱きかかえられながら、私達は海沿いの街を出てまた歩み進んでいく──。
……ただ、きっと『聖竜』にはわからない(覚えていない)色々な思いを、『白銀のエア』が抱えているのは、何となくその腕から伝わってきた気がしたのだ。
『大事なものをもう失くさないように。しっかりと抱きしめておきたい』と。
『……正直、生きていけば色々と悲しい事に気づく事も多いけど、逆に嬉しい事もそれ以上に沢山あるからっ!その事も忘れちゃいけないんだ!』と。
『そんな沢山の想いを抱きしめて、わたしは歩きたいっ!ロムやみんなと一緒にっ!』と。
『…………』
『幸せの形』は目には見えないものだけれど……。
──もしも、その『幸せ』の一片を『一枚の絵』に残せるのだとしたら……。
その内の一枚はこんな光景もいいのではないかと……そんな事をちょっとだけ思った。
無論、『幸せな抱擁』は他にも沢山あるだろう。
……だが、今『この瞬間』はきっと、私達にとっては特別な時間だと思ったのだ。
『…………』
恐らく、全部が全部『幸福』なだけだったら、ここまで記憶に残したいとは思わなかっただろう……。
でも、今は私達にはそれぞれに色々な葛藤があり、それを乗り越えようと成長している途中だったようにも思えた……。
『聖竜』も、『白銀のエア』も、『水竜の子』も、『何かを失いながらも、何かを得ようとしているのだ』と。
そして、そんな今を『意識』し、その『意味』を理解し、自らの『心』を前に進ませようとしているのだと。
──『意識して歩く』為には、『身体』だけではなく『心』も必要だ……。
……同時に、その『幸せ』もただ漠然と享受するのではなく、『愛に溺れる』でもなく、その『価値』を真に『大切に想える』からこそ、より『尊く』も感じるのだと。
だからか、そんな『意味のある一瞬』を、私は『絵』にしたいと思ってしまったのだ……。
『…………』
……だがまあ、残念ながらも『聖竜』にはそれを現実に残せる『力』はなかったので、『誰か』にお願いしたいと思った。
どこかに、この『思い』を伝えたら、それを直ぐに『絵』にしてくれるような──そんな素晴らしい『力』を持つ『ドラゴン』は居てくれないものだろうか……。
『…………』
だがしかし、当然の様に『そんな都合のいい存在がいる訳ないよなぁ』とは理解もしている。
……それも『ドラゴン』が『絵』を描いてくれるだなんて──そんな『奇跡』に近しい事が在り得る筈もないだろうと。
でも、今の『聖竜』の思いを伝えようと思ったら、それこそ『人』では難しいと思うし。
だから、もしもどこかにそんな──
「──えっ?ドラゴンに『絵』を描いてほしいの?……ふふっ、じゃあ、ちょうどいいねっ」
『……??』
「──居るよっ!今のロムの『お願い』を叶えてくれる素晴らしい『力』を持つドラゴン──そして、あの子もきっとその『力』をロムの為に揮える事を喜ぶと思うっ」
『……!?』
──だが、そんな『在り得ない』と思える様な話でもエアに相談してみた所……彼女からはそんな予想外の言葉が返ってきたのだった。
……それも、エア曰く『大樹の森』には最高の『画家』であり、最強の『ドラゴン』が居るのだと。
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