第691話 弧飛。
『腕輪』で使われていた魔力に関する話をエアへと相談すると『──えっ?それって『白銀の館』の事でしょ?』と返された。……どうやらエアはその場所の事を知っているらしい。
『……今わたし達が目指してるのも、その『白銀の館』にある『第三の大樹の森』だから──そこから『水竜ちゃん』も連れて一緒に帰るんだよね?』と。
『…………』
……すると、その言葉を聞いてようやく私は『ああ、なるほど。あの場所の事か!』と、ピン!と来たのだ。
そもそも『世界の支配者』として、私達が遠回りしながらも目指している『第三の大樹の森』が、『とある館』に存在する事くらいはちゃんと認識していたが──
その屋敷の外観は全く『白銀』ではない上に……現在は、その館に『暮らしている者達』もいた為に、その場所の事を言っているとは最初結びつかなかったのである。
──『誰も入れない館』でもないし、『白銀の館』でもない、だからきっとその場所が怪しいんだろうと、そんな『勘違い』をしてしまっていた訳だ……。
『…………』
でも、エアのおかげでそんな『勘違い』も晴れた為、翌日からはもう普通に『街』を出て私達はその場所を目指して旅に戻る事にした。
『水竜の子』も殆ど宿屋の中で寝ていただけだったとはいえ、初めての『人の居る街』を目に出来てとても嬉しそうだった。
その子曰く『また来てみたいと思った』とのこと。
……なので、翌日からの旅ではまた『大きな街があったら今後も一泊していこうか!』という話に決まったのである。
『…………』
……因みに、『密猟団』に関してだが、その後の対応は完全に『街』に任せる事にした。
流石に、街中に『魔物達』が捕まって居るという事で、その情報くらいは伝えておいた方が良いかと判断し、『冒険者ギルド』にその話をエアは報告に行ったのだが──それ以上はこの件に関与するのをやめておいた方が良いだろうと思ったのでさっさと私達は『街』から離れる事にしてしまったのである。
まあ、何しろ『密猟団』と『街』には少なからず繋がりの様なものがあるようだし──『見逃されている状況』らしい話を『聖竜』は彼らの話で聞いてしまったので、『街』を離れる選択は当然だった様に思う。
なので、本当はあの後にギルドマスターからも『密猟団の捕縛にも協力してくれ!』と、金石冒険者である『白銀の竜使い』に依頼はあったのだが、エアはそれを『旅を急ぐから』とすげなく断ったのだった。
……まあ、あまりにも怪しかったから仕方がない。面倒事の臭いしかしなかったのだ。
下手したら、どさくさに紛れて『聖竜』と『水竜の子』に『街』が襲い掛かって来る場合も考え、この選択でよかったと思うのであった。
『…………』
……ただ、そうして『街』を出て、余所の大きい街の『冒険者ギルド』に立ち寄った際、エアは『密猟団』に関して追加でこんな話を聞いたらしく、少しだけ驚いたのだとか──。
というのも『腕輪を失ったお頭』率いる『密猟団』は……どうやらその後『魔法道具を使って普通に【転移】して逃げさったらしい』のである。
無論、それだけでも『……ん?』となってしまう様な話ではあったのだが──。
彼らが拠点としていた倉庫内に『魔物達』がいるという情報を元にし、『密猟団の捕縛』とその『お頭が持つという魔法道具の回収』を目的に『街の兵士や高位冒険者達』がその『倉庫』へと向かうと……。
そこには数多くの『空の檻』と、『密猟団の頭』だけが残っていたのだという。
……その他には、『魔物達』もお頭以外の『密猟団』の姿も一切なかったらしい。
そして、その話によれば、態々捕縛しに来た者達の前に姿を晒した『お頭』は、彼らに対してこんなことを告げてきたのだとか──
『──あっやっべ、もう来やがったかっ!?……だがまあ、ある意味ちょうどいいっ!──おいお前らっ!お前達の中に俺の『腕輪』を盗んだ奴が居るかは知らねえが、そいつに会ったら伝えとけ……無駄な努力ご苦労さんってな?──ふへへへ、いつ忍び込んだのかは知らねえが、あの『腕輪』はな、実は『俺専用』だから他の奴には使えねえんだよ!ばーかっばーかっ!……じゃあな、そんだけだ。俺は『予備の腕輪』を使ってさっさと逃げさせてもらうぜっ!だはははっ!!』
『…………』
……無論、『予備の腕輪』があった事なんて当然の様に私は知らぬし、『密猟団』が既に『街』の者達に気づかれない内に逃げ去った事にも驚きを覚えるが──エアが『少し驚いた』というのは私が驚いたそれとは『別の事』だった。
というのも、彼女は『お頭の言葉』でとある事に『気づき』を得たらしい……。
『あれ?『専用品』?……なら、もしかしたらその『腕輪』って、ロムが作ってあげたやつじゃないの?』と。
──実は、『使用者を限定する魔法道具』というのは、例外はあれど軒並み『高級品』であると知られているそうで……。
その技術は『ダンジョン産』以外では、エアが知る限り『完全なる個人専用品』は『ロム作』しか見たことがないのだそうだ。
無論、そんな技術がどこか他で開発されたという話があればもっと有名になっている筈だろうと。
──もっと言えば『天才の魔法道具職人達』でも、『お頭個人への専用品』は作り得なかっただろうというのがエアの判断であった。
そもそも『聖竜』には微々たる違いしか感じなかったのだが、『あの腕輪』を作るにはとんでもない『魔力』が必要になるだろうと彼女は感じていたそうで……簡単にその魔力量を言い表すとしたら、『何もない部屋の中に森を一つ作るくらいは必要なんじゃないだろうか?』とエアは言うのである。
だから、それはつまり、それだけの魔力を備えるのは今のエアを含めて『差異』を超える魔法使い達くらいしかいないだろうし、その上で『魔法道具』にも精通していて更にはそれが『個人識別機能付きの専用品』を作れるとなればもう──そんなのは『ロム』しか考えられないんじゃないかと。
そうすれば、『ロムの魔力が勝手に使われている』事にも簡単な説明が出来るし──
中でも一番の理由としては……『あの腕輪もなんかやっぱり、あったかい感じがした』と彼女は語るのである。
『…………』
無論、それも『気のせい』や『勘違い』だと断じる事は容易かったが……。
よくよく見れば、『あの腕輪』は、少しだけお酒臭くはあるもののとても大切にされた跡があり……。
エアは『どこかで見た気もする』と言って、彼女の腕にもある『古い木製の腕輪』と何度も見比べて、それとの『作りの類似点』をいくつも私に嬉しそうに語り続けるのであった……。
──要は、結論として『お頭はきっと『魔法道具職人の子』だったんだよ』と、エアはそう断定し、その現実に驚きを覚えたのだという。
『魔法道具職人一家』と付き合いがあって、恩を売って、代わりに作って貰ったんではないのだと。
その品は唯一無二にも近しい『家族との思い出の品』であり──きっと彼の本当の『宝物』であったのだろうと。
『白銀』を異様に恐れて、泥酔してしまったのも、もしかしたらと……。
見覚えのある『ドラゴン』に似ていると感じたからか、『聖竜』に対しても不思議と過剰な拘束をしなかったのも……。
そして、最後まで一人で残っていたのも『残っていれば、あの人達に会えるんじゃないか……』と、本当はそんな期待がそこにはあったのかもしれないと……。
『…………』
……限りなく当たっていそうな憶測と、その『腕輪』に、エアはなんとも言えない表情を浮かべていた。
その表情はまるで『悲しくも懐かしい』と語っているようである……。
でも、なんだろうか……。その表情を見ていると、それだけで私の『心』もきゅっと痛んだのである。
──だからか、見かねた『聖竜』は自然とまた、気づけばエアのほっぺにちょこんとだけキスをしてしまったのだった。
……すると、それを見た『水流の子』も私の真似をしてか『──エアを元気づけよう』として反対のほっぺに『ちゅっ』としていたのである。
「──!?」
ほぼ同時に、私達二人から両頬にキスされたエアは最初『きょとん』とした顔としていたが、すぐさまにその意味に気づくと……『むぎゅー』っと私達を抱きしめ、また不愛想なまま器用にも綺麗な微笑みを浮かべるのであった──。
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