第690話 銘心。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「ロムッ、また一人で解決したでしょっ!なんでわたし達も呼ばないのっ!!ほらもう、そんな悪い子はここをこうしてほっぺをグニグニしちゃうからねっ!」
『……ぐにぐにっ』
『密猟団のお頭』から『腕輪』を回収し、エア達が泊まっていた宿屋へと【転移】で帰ると、早速『聖竜』はエアからおしかりを受け……ほっぺを揉み解されていた。
『もう一人で突っ走らないでっ!みんなで一緒に行けばよかったでしょ!』と。
『それに、ロムなら【転移】させられても直ぐに戻ってこれた筈!もっと早く帰って来てよ!』と。
『……心配したんだからね?』と。
『…………』
……なので、私はそんなエアの言葉に一切の反論をする必要もなく、全面的に謝ったのだった。
元々、『敵の巧妙な罠』にハマってしまったから仕方がなかったとは言え──何もその対応を一人で全てする必要はなかっただろうと。
私達は仲間なのだから……。もっと助け合えたでしょと。ロムと支え合いたかったよと。
『全て一人で背負い込む必要はない』と言ってくれるエアのそんな言葉通りだったと私も思った。
『音の別荘作り』の時にも言ってもらっていた筈なのに──またも繰り返してしまったのだから……。
……だから、ほんとごめん。
「──ううん。わたしはロムが無事なら、それが一番だから……。それにね、わたしも今回の事は改めて気づかされた事が多い気もするんだっ。ロムの話を聞いて、『腕輪』の事に関しても気にかかったけど、それ以上にロムの見ている視点ってほんとに広いんだなって改めて思った。まさか『籠の気持ち』まで考えてそれを救いに走り出すだなんて、思いもしてなかったから……ほんとに、凄いなって。
──けど、そっかぁ。そうだよね。『道具の心』かぁ。物言わぬから『心が無い』と決めつけるんじゃなくて……『在るかもしれない』と考える。そして、その『在り方』までも大事に慮るのかぁ……うん、だからこそロムの作る『ゴーレム君達』は特別なのかもしれないね?今ならそう思うよ」
『聖竜』のほっぺを気が済むまで『ぐにぐに』し終えたエアは、私の拙い話を聞いて『自分なりに得る物』を見つけようとしていた。
……本来、誰もが『くだらない』と──『無駄』だと──そう判断して一瞥し、その後は見向きもしなくなるような事柄からでも、彼女は『自己の成長』に繋げようとしているのだろう。
そんなエアの方こそ、私は広い視野を持っていると思った。
……私のやった事なんて大した事ではない。ただの『衝動的な行動』でしかなかったのだから。
だから、彼女の方が余程に素晴らしいと私は感じたのである。
……きっと、彼女の驚くべき『成長速度』の秘訣には、そんな部分も大いに影響しているのだろう。
他者より多くの事に気を向ける事が出来るのはそれだけで『才能』と呼べる──だが、そこから更に一歩を踏み込み、具体的に『何が自分にとっての糧になるか』を意識して行うのはとても難しい事だと思う。
『才能』を『十全に活かす』というのは、『意識』しなくば不可能なのだと。
誰にでもできる事ではない。……いや、ほんとは誰にでもできる事なのかもしれないが、『やるもの』と『やらないもの』ではとても大きな『差』があると感じるだろう。
『…………』
……だが、そんな素晴らしい彼女の方は、『籠の気持ち』に目を付けた私の方を称賛してきた。
そこに意味を見出せるのはとても『ロムらしい』と言い、そして不愛想な表情で器用にも微笑むのである。
『ロムの作る道具には『心』が宿っている気がする』と。
『服も家も、大樹の森も全部があったかい』と。
特に『ゴーレム君達』という存在を例に挙げると、エアは彼らに宿る『心』に対して未だ『原理』は分からないけど『意味』は分かったのだと語った──。
「──きっと、あの子達はロムに『心が在ったら嬉しいな』と望まれたから生まれたんだね。……いや、きっと『心が在るんだろう』ってロムは信じたんだ。あの子達も『幸せ』になれたらいいなって──だから、やっぱりロムは凄いんだよっ」
『…………』
『道具』は使い方次第……『活かすも殺すも』使用者に委ねられる。
だが、それを『生み出した者』の願いと、そこに宿り得る『心』を、エアの言葉を聴いて私も大事にしたいと思った。
何気なく身の回りにあるその『道具』の一つ一つに、ちゃんと『意味と価値』がある。
そして、そこには『心』の繋がりがある事も忘れないでいたい思う……。
──要は、『物は大事にしよう!』という、ただそれだけの話なのかもしれないが……。
……それはとてもとても、大切な事だと。
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