第689話 酔歩。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
(あれれ?おっかしいな……最初は、この時期に合わせて『糖度の高い話』を予定していたのに……どうしてこんな『お酒に対する注意喚起』みたいな内容に?……不思議ですね)
『…………』
『酒は飲んでも飲まれるな』と、一度はその言葉を耳にしたことがあるだろうか。
……まあ、『聖竜』である私はお酒を飲んだ覚えがないので、果たしてそれ(お酒)が美味いのか不味いのか、それすらもよく分かりはしないのだが──
「やーだぁーやーだぁー、おれはまだ飲みたいんだぁーー」
「うるさいっ!一回吐いたからって気持ちよくなってんじゃねえぞっ!」
「ぐごぉぉぉずぴぃぃぃ、ぐごごごーずっ……………………ずぴぃぃぃぃ」
「お頭っ!てめえは起きろっつってんだろうがっ!!くそ、だから深酒すんなってあれほどっ!『笊』なあんたがそうなるってどんだけ飲んだんだよまったくっ。こんな一大事にっ」
『…………』
──とりあえず、『飲み過ぎるとどうなるか』だけは、何となくわかったのである。
そして、『気を付けなければいけないもの』である事も何となくだが察したのだ。
ああして一人、『密猟団』の中にも現状を何とかしようと頑張っている者がいるが……あの人を見ていると『大変そうだなぁ』とも思った。
だから、周りに迷惑をかけたくないと思うならば、過度な使用は控えた方がやはり良いんだろうなと。
『酒だから……』と安易に考える事は多いかもしれないが、結局はこれもまた各々の『道具』の使い方次第という話に繋がって来るのだろう。……それこそ、扱いに自信のない者、未熟な者は『ほどほど』を心がけた方がいいのだと。
「──くっ、だめだっ。お頭が全く起きる気配がねえ。こうしている間にも『ドラゴン』がっ。これでもし逃げられるようなことがあれば、明日の取引が……大金が……。仕方ねえ、もう動ける奴だけ総動員して全力で探しに行くぞっ。おいっ『竜騎士ごっこ』!お前はここでお頭の事起こし続けていろっ!間違ってもこれ以上は酒を飲むなよっ!今は緊急事態だからなっ!!」
「えぇぇぇえええええぇええぇっぇぇえーー……やだ」
「うるせえっ!拒否不可だっ!──残りは探しに行くぞっ!」
「おうっ!!」
「……ちぇ、なんだよなんだよ。良いじゃねえかよ。目出度い時くらい酒を好きに飲んでもよぉ。『ドラゴン』だって今頃、どっかの酒場に行ってんだよ。空飛んでよ。そうだよ。きっとそうにちげえねえんだ……」
『…………』
……他人事だけれども、やっぱり『大変そうだなぁ』と重ねて思う。
現状、私は隠れてそんな彼らの様子を窺っている状態なのだが、どうやらほんとに『密猟団』は二手に分かれる事にしたらしい。
それも、目当ての『腕輪』がある方が『熟睡しているお頭』と『泥酔の竜騎士』しかいない状態だ。
……正直、これも『罠』だと疑いたくなるほどに、中々ない好機だと感じる。
酔いどれ二人組は明らかにまともに立ち上がれないような状態だった。
……ならば、ここは密かに近づいて『腕輪』だけを回収し、後はもうさっさとエア達の元まで【転移】で脱出してしまえばいいと、私はそんな企みを抱く。
なので、実際それを行うため、もう少し静かに『ペタペタ』と私は更にゆっくり歩み寄っていくことにしたのであった──
「──でもどうせ、こんな夢みたいな状況。いずれは覚めちまうんだろ?そうなんだろ?おれはちゃんとわかってんだよ。だから、今は飲まなきゃやってられないんだっ。……こんな上手くいってんのもさ、きっと今の内だ。それこそ子供の時の夢の様に、気づけばあっという間に、消え去っちまうんだよ。きっとそうなんだ……」
『…………』
……すると、酔いどれ二人の片割れである『夢見る竜騎士』がそんな事を呟き始めた。
「……お頭だって、きっとわかってる。だから、この人も珍しくこんな潰れるまで飲んでんだ。そうにちげえねえ……ほんとは今回の件だって、お頭は『受けたくない』って言ってた。『白銀の竜使い』だもんな?お頭の気持ちはよくわかるぜ……『白銀』にだけは手を出しちゃいけねえって……昔から『裏』ではよく言われてる話だろうによぉ──」
『…………』
「──それなのに、若い奴らはみんな『迷信だ!そんなのホントに居るわけねえ』って信じちゃいねえ。……でも、お頭は『屋敷』の連中から話を聞いたことがあるって言ってたから。その『屋敷の主』も『白銀』だって聞いたことがあんだとよ。だから『白銀』は実在するんだって知ってんだ──なあ、お頭。そうだよなぁ?おれはお頭をしんじるぜぇ。手を出しちゃいけねえもんに手を出せばどうなるかなんて分かりきってんだ。分を弁えなきゃいけねえ。……だから、これまではやってこれたんだ。……それなのによ。悪い予感がずっと止まんねえんだよ。……だからもう、酔わなきゃやってらんねえんだぁ……」
『…………』
──『これはきっと夢なんだ』と、現実をそう語る彼の言葉は、不思議と私の胸を打っていた。
……なんでだろう。
その『泥酔する夢見る竜騎士』の言葉が無視できなくて、歩みも自然と止まってしまった。
『生きていれば辛い事はあるものだ』と。
そして、上手くいく日もあれば、そうでない日もまたあると……。
だが、『日常』と言うのは、本来彼からしてみればそんな『上手くいかない日』の連続だったのかもしれない。
きっと『上手くいっている』と、『よくできた』と、そう思い込んで自分を誤魔化しているだけなんじゃないかと……。
そして本当は『ずっと何かを見落としていて』、今もなお『夢を見続けているのではないか』と。
……そんな『錯覚』に捕らわれ続けてしまう事があるんだと。
『…………』
でも、それを見分けられる術なんてないから……。
『夢に酔ったままでも生きなければいけないんだ』と。
……ただ、この『酔夢』はいつか覚めるものなんだと、それだけは覚悟しておかなければいけないんだと。
いつだって、『平凡』な生き方を選ぶしかない存在にとっては、そんな『夢』でさえも現実だ。
だが、せめてその『夢』が覚めても落ち込まないように。また、その『夢』で自分が傷つかないように備えておかなければいけない。
だから、最初から『夢』である事に対しての覚悟だけは決めておく必要があるのだと。
そして、実際彼はそうして酒に泥酔しているように見えるが──
その実……『本当はただ酔っぱらっているんじゃない。こうする事で、現実と向き合う覚悟を高めているんだ』と。
『…………』
……彼はそうして酔う事で、言外に『ドラゴン捕獲なんて、本当はするべきではなかった』と、そう思っているのかもしれない。
寧ろ、『失敗した方が良い』とまで思って、そんな行動をとっているのかもしれないと私はそう感じたのだった。
『……やりたくない事でも、やらねばならない時があるから』と。
生きていれば様々な柵があり、避けようのない現実がある。
だから、こうして時には『酔っぱらうしかないんだ』と。
そしてその気持ちは『お頭』こそが一番抱いている感情でもあるから……と、そんな風な事を言いつつ『泥酔する夢見る竜騎士』は『お頭』の事を慮りながら、彼の隣りで同じように眠りへと落ちるのであった……。
『…………』
……だが、もしかしたらそんな気持ちを抱く『お頭』を一人にしないようにと、敢えて彼はそんな行動をとった部分もあるのではないだろうか。
正直、本音は彼にしか分からないけれども──仲間の中で一人でもそんな相手がいれば、『お頭』はきっと孤独ではないだろうと、私はそう思うのだった。
そして、そんな二人の泥酔する姿に──なんとなくだけれども、私も段々とこの『密猟団』の事が憎めなくなってきている……。
『…………』
……ただ、そうして眠りに落ちた二人にひっそりと近づいていくと、私は予定通り若干お酒臭くなった『お頭の腕輪』をその両腕からスポンスポンと外して、『籠』に入れさっさと【転移】しエア達の元へと帰還するのであった──。
──えっ?彼らの事、憎めないんじゃなかったのかって?……いや、勿論それはそうなのだが。
『それはそれ』、『これはこれ』でもあるのだ……うむ。
だから、例えどんな事情があろうとも、どんな『道具』であろうとも、お酒に限らず『ほどほど』にして気を付けなければいけないのだと『聖竜』はそう思うのであった……。
またのお越しをお待ちしております。
(因みに、『クリスマス』は個人的に、家族や仲間とのイベントだと認識しております。はい。『クリスマス』は、家族や仲間達とのイベントだと……)
……なので、そんな『小説好き』な仲間達へ──(飲み過ぎないようにご自愛ください)。




