表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
688/790

第688話 強酒。




 『…………』



 『腕輪』の不思議な部分について考えながら歩いていると、いつの間にか倉庫内で一番広そうな天井の高い場所へと私は入っていた。



 それもその薄暗い倉庫の中、未だに『籠』をむぎゅっとしながら『ペタペタ』と歩いていた私の目の前には、自分が入っていた物より一回り以上大きな檻がいくつも並んでいるのを見つけたのである。



 ただ、その中を少しだけ覗いてみると思わず──ビクッ!?となった。

 ……そこには薄暗い檻中で完全に身動きが取れない状態で厳重に繋がれ固定されている『魔物達』の姿があったからである。



 どうやら物音一つたてられないようにきつく拘束されているらしい。

 ……この薄闇の中、その瞳だけが異様にギラギラと強く輝いている。



 無論、そんな彼らは私と同様に『密猟団』に捕まった存在──恐らくは売られようとしている『魔物達』なのだと直ぐに気づいた……。




 『…………』



 『魔物達』──彼らの正体は『人』を喰らいし『神兵達』である。

 その存在は『淀み』を介して生まれ出でた者達であり、その実『魔力の影』とも言える存在だ。


 また、彼らは『世界』の所謂『自浄作用』の一つにもなっており、私が『世界』を作り直しても変える事の出来なかった『世界の仕組み』の一つでもあった。



 ──言わば、彼らは既に『精霊達』と同様に『世界の性質』の一部になってしまっているのである。



 彼らは『喰らった相手の性質』を受け継ぐことが出来る『人の闇』とも言える存在……。

 だが、その存在を消滅させる事で間接的に『淀み』を解消できると言えば、その『仕組み』にある自浄効果も分かり易いかもしれない。



 ただ、ここに繋がれた彼らは皆『異形化』している事から……既に『人を喰らった後』である事も一目で分かったのだ。



 『…………』



 ただ、近年では『魔物達』は独自の生態系を形成し始めるに足り得る能力を持ち、集落的な場所を作ったり、『子供を作る力』までをも備えているという『噂』もあるらしい……。



 そんな『噂』を鵜吞みにするのであれば、『人を喰らわず』とも魔物達の数は自然と増えていっているのかもしれないとは思う……。




 ただ、実際『魔物達』はそうして『人』を襲い、『喰らう』存在ではあるけれども──

 こうして檻に入れられたその姿を見ていると、『人』もやっている事は同じなのだと、少しだけ思うのだった。



 まあ、『人の性質』を受け継いでいるのだから、ある意味では当然な事……なのかもしれないが。


 『人』と『魔物達』は互いによく似ていると私は思った。


 どちらも互いに『喰らい合う』存在なのだと……。



 『…………』



 それにしても、『魔物達』を捕まえている『密猟団』はやはり油断がならない存在だと感じる。

 無論、それも『腕輪の力』があったからこそなのかもしれないが。


 そんな『腕輪』に『ロムの力』が一部なりとも使われているのだとしたら、やはり気分的にはいい気はしなかった……。



 それに、暴れなかったから私はここまで厳重な拘束はされなかったけれども──もし最初から暴れていたら同じような処置をされていたのかもしれないとも思った……なので、その場合は私も『ロムの力』で拘束されていたかもしれないという話になる。



 という事はだ。それはつまり、『自分(ロム)の力』で自分が動けなくなるという話で……。



 『…………』



 ……それを想像するとなんとも間抜けな話だと思った。

 『自分の力』で自分が拘束されていたら情けなさ過ぎると。



 だがまあ流石に、『魔法道具』一つでこの『世界の支配者』たる『聖竜』が拘束される訳はないとは思う。うむ。



 でもやはり、ここは万が一の事も考え、一応は油断しないでおこうか……。

 例の『ふらぐ?』という奴も怖いから。今度はちゃんと用心しておこうと思うのだった。



 ……因みに、全体的な檻の数の多さに比べて、中に入っている『魔物達』の数はそれほどまで多い訳ではなく──全部で十人ほど、だけである。



 一部で『ゴブリン』と呼ばれ始めているらしい比較的小柄な種類の『異形化した神兵達』が半数ほどを占めており、その他には『オーク』と呼ばれる者達が三人ほど、あとは『トロル』と、そして『オーガ(・・・)』が一人ずつ居る様だった……。




 『…………』



 『オーガ』……それも男性型の『鬼の魔物』は、私も初めて目にした個体だった。


 話では聞いたことがあったが、間近で見るのはこれが初めての事である。


 ……ただ当然、いくら『オーガ』にも『角』があろうと、エアや他の『鬼人族』達とは正直似ても似つかないとは感じたのだ。



 まあ、その身体はまるで鋼の様に屈強そうには視えるが……。

 目の前の『オーガ』からは、エア程の存在感を感じない。



 それも一番の違いはその額にある『血晶角』で──元々の綺麗な赤い輝きはすっかりとくすんでしまっており、完全に赤黒く淀んでしまっていたのである。


 その『角の様相』を見ただけでもう異なる存在なのだと私には直ぐにわかってしまった。



 『…………』



 ……ただ、そもそもの話として、その『オーガ』は『喰らって』生まれた存在なのだろうか。


 それとも、普通に『オーガの子』として生まれ、ここまで育ったのだろうか……。



 私にはその判別がよく出来なかったのである──。



 『…………』



 ──ん?いやまあ、別にその判別が出来なくとも困りはしないのだが……。


 ……何故だろう。不思議だった。なんで私は、そんな事が急に気になったのだろう……。





 『…………』



 ──だがまあ、それよりも今はそろそろ酔いも深まっただろうと思えるくらいの時間になってきたので、気を取り直して『密猟団』が酒盛りをしているだろう場所へと私は向かう事にした。



 ぎらつく『魔物達』の視線を背中に少しだけ感じつつ、私はぎゅっと『籠』を抱えながらその場を離れ、再び『ペタペタ』とゆっくり歩みを進めていく──



「──おいッ!いねえぞっ!!お頭大変だっ!!逃げやがったっ!あのドラゴンがいねえ!ちょっとだけ『竜騎士』になりてえって言う俺の子供の頃の可愛い夢を叶えたかっただけなのにっ!あいつが俺を乗せて飛んでくれねえんだっ!どうしてだよっ!!」


「んわっ!ばっかばっかっ、ばかやろうっ!!あの竜に跨るのは俺だ俺だ俺だっ!!俺が真っ先に乗ってやるんだっ!」


「ちげえって!お頭っ!だからその『ドラゴンくん』がどこにも居ねえんだってっ!特製の檻もいつの間にかねえっ!無くなってるっ!盗まれたんだっ!返してくれよっ!俺たちの『ドラゴンくん』をっ!」


「なんでだーーっ!お前っ、一人だけ楽しんで『竜騎士ごっこ』してやがったなっ!このやろっ!俺の『ドラゴンちゃん』とイチャイチャしやがってっ!!」



「……おいおい!お頭もみんなも酔い過ぎだろっ!ほれ、水持ってきたぞ。これでも飲んで正気に戻ってくれっ!一大事なのはほんとなんだっ!」


「──ぷはっ!うめえ。水がうめえっ!!」


「……ぅぅぁぁ、夢だったんだ。あれが俺の小っちゃい頃からの夢で。竜にのって空を飛んでみてえって、ずっと前から、ずっとぅぅ──おろろろろろ……」


「わかった。わかったから泣くな!吐くなっ!寄りかかってくんなっ!俺はドラゴンじゃねえっ!や、やめ、やめろ。俺に乗ってくるな!来るんじゃないっ!──めんどくせっ!!お頭っこいつは一旦寝かさないとダメだ。ちょっとだけ拘束して──」


「……ぐがあぁぁあああー」


「ばっかやろう!なんで、てめえが先に寝てやがるっ!おいっ!誰でもいい!動ける奴は全員で先に倉庫中探しまわっとけっ!俺はこの馬鹿(お頭)を絶対に起こす!──それに早くその『竜騎士』も邪魔だから運んじまえ!ゴミ箱にでも放り投げてろっ」


「──おうっ!!」



 『…………』



 ──だがそうすると、行こうかと思っていた矢先、都合よく向こうの方からやってきてくれたのだった。



 ……それも、本命である『腕輪』を持っている『密猟団の頭』は寝息を立てているので……、私は逆にそのまま隠れつつ、密かに近づいくことにしたのである──。





またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ