第686話 原器。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
どこぞの薄暗い倉庫の檻中で、何を『小難しい事』を考えているのだと、自分でもそう思う。
……だが、『籠』をぎゅっとして『パタパタ』していると、ふと考えてしまうのである。
もし、『その道具がなかったら、どれだけの人が傷つかずに済んだのだろうか』と。
逆に、『その道具が生まれたことで、どれだけの人が幸福になれたのだろうか』と。
──要は、『道具』の価値に『人の幸不幸』を天秤にかけたら、そのどちらに傾くのだろうかと。
そして、その天秤が『不幸』にもし傾いているのだとしたら、その『道具』は生まれるべきではなかったのか、それとも……と。
『…………』
先の『密猟団の頭』の話と、彼に『腕輪』を贈ったという『魔法道具職人』の話を聞いて、私は無性にそんな事を考えてしまった。
『道具』の『力』を得てしまったが故に、彼はその生き方を選ばざるを得なかったという。
生きていくためにはそうする以外になかったんだと……。
だが、その『力』は簡単に彼から離れてしまうかもしれないものである。
……その不確かな『力』には不安が付きまとう。
だからこそ、逆に彼はその『力』に依存せずにはいられなくもなっている。
自らそれを手放すことは死んでも考えられないだろう。
その『力』がなくなれば、彼はもう今の彼ではいられなくなる程に……。
その『まやかし』は彼を幸福にし……その実、確実に『不幸』にもしているのである……。
『…………』
……そして、その上で敢えて言うが──私はこの後、そんな『不幸』に彼を突き落とすことになるだろう。
というか、そもそもなんでこんな話を先ほどからずっと続けているのかと言うと──
実は私、【転移】させられたことに対する反撃を内心ずっと考えていたのである。
つまりはそう、先程の話にあったその例の『腕輪』を……私が頂いてしまうのが一番反撃として有効なのではないかと、そんな悪い考えを『籠』と一緒に抱いていたのであった。
『…………』
無論、『腕輪』を大事にしている『密猟団』からすれば『この人でなしっ!』と、そう思われる様な所業だろう。
それがどれだけ『密猟団の頭』にとって大事なものなのか、さっきの話を聞いてれば痛いほどに分かる筈だと。
実際『密猟団』とは言われているけれど、その実彼らがやっているのは『人の為になる事ばかりなのに!』と。
捕まえてるのは『魔物』や『珍獣』ばかり、『ドラゴン』を捕まえたのだって、その『素材』から『人の為になる薬』や『武器防具』を作る為なんだと。
『…………』
──でも私、『聖竜』なので……。その『素材』にされる側からすると、当然そんな話許容できるわけもないのだ……。『良い話だなー』とは全く思わなかった。
寧ろ、ここで見逃せば他の『ドラゴン』達も襲われるかもしれないし、彼らの『力』の起点となる『腕輪』を回収しない理由の方がないと思ったのだ。
当然、そんな敵の弱点を突く事こそ正道かと思っている。
『…………』
なので、彼らはこの後どうやら倒れるくらいまでお酒を飲みそうな雰囲気があるので、酔いつぶれるまで待ってから私は動き出そうと思うのだった。
そこで一旦、『籠』をむぎゅっと抱きしめたまま、私は密かに『パタパタ』していた翼に魔力を込めると、そこで巻き起こした微風と砂埃を介し少しだけ魔法を使ってみる。
それにより、私を閉じ込めていた鉄檻は一瞬にして細切れになったのだ……。
──シュンと、少しだけ音は鳴ってしまったけれど、細切れにした破片は全て『籠』で受け止めて隅へと上手くまとめておいた。……うむ、どうやら『密猟団』に気づかれた様子はない。成功である。
さっそく『籠』も活躍してしまったのだ。
……さて、それではこれより『密猟団の頭の腕輪』を求め、隠密行動を開始したい──。
『…………』
──そんな訳で、どこぞの倉庫の中を『ペタリペタリ』と、私はゆっくり歩き出したのだった……。
またのお越しをお待ちしております。




