第685話 道具。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
薄暗い倉庫の様な建物の中、そこにある檻の一つへと【転移】させられてしまった私は……『籠』をむぎゅっと抱きかかえながら『パタパタ』を繰り返して現状を受け止めようとしていた。
『…………』
……うんまあ、なんと言うのか『裏の裏をかかれた』と──ははは、そんな気分である。
因みに、『それって表のことでは?』とかそんな正論は言わないで欲しい。
……どうかそれもまた各々の『心』の内にそっと閉まっておいてください。
流石は噂に名高い『密猟団』だったと。相手もやるものだな!と、そういう事にしておこう。
自らを下げるよりも、時として相手が上手だったのだと褒める事も必要なのだ。……うむ。
「──おっ!一匹入ってるっ!『籠の仕掛け』はちゃんと発動したなっ!外回りの奴らも上手くやったじゃねえかっ!」
「お頭っ!うっそだろ!まじかよっ!絶対にあんな『罠』じゃドラゴンなんか捕まえられっこないって思ってたのにっ!ほんとに捕まえちまったぜっ!」
「お頭って実は天才……?」
「お前ら、ばっかばっか、言ったろー!ドラゴンだって野生動物なんだから、興味を擽られる物に弱いんだって!言わば、あれよ、本能に訴えかけるわけよ?わかる?……それも、子供ならばもう『なんだあれ?』って思わせたらこっちの勝ちなんだって。そんだけでほらっ、後はちょちょいのちょいでぽんっ!でドゴンよっ!なっ?」
「いや、まったく何を言ってんのかさっぱりなんだけど……」
「と、とりあえずは作戦通りって言いたいんじゃね?」
「そうっ!その通り!いやーっ、俺は自分の才能が怖いねー。全て読めちまうっ。かぁーっ、自分で言うのも何だが『天才』ってのは俺の為の言葉だなーっ!わーはっはっはっは!……っておっと、笑ってる場合じゃねえや。取引先に『成功』の合図送ってこねーとっ!だはっ」
『…………』
「……お頭、『運だけの男』ってこの前自分で自分の事言ってなかったか?」
「……いやまあ、実際あの『二つの腕輪』を使いこなしているだけで十分すげーとは思うし、いいんじゃね?【転移】をあそこまで使えるのって普通に魔法使い達だって無理なんだろ?」
「ああ、そうらしいな。……だがまあ、聞けばお頭のあの『魔法道具』も、元は『どっかの屋敷』にあった『古いの魔法道具』のレプリカだって聞いたぜ?──なんでもそこにある『誰も入れない屋敷』には、ダンジョン産の『魔法道具』を軽々と超えるこの世の物とは思えない様な逸品ばかりが溢れてて、『魔法の力』で守られてるんだと」
「……そんで、お頭は偶々その『屋敷』から来たっていう『魔法道具職人一家』と知り合って、子供の時からその一家と家族ぐるみの付き合いをしてたんだっけか?」
「ああ。そして偶々その『一家』が狙われているらしいって情報を耳にして教えたとかで、それで『一家』が恩を感じて、あの『魔法道具』をお頭に贈ったらしいな……てか、『天才』なのはその『魔法道具職人』の方だとは思うが、【転移】なんて機能を持った『道具』を作れば──そりゃ、当然の様に国からも目を付けられるだろうしなぁ」
「間違いねえだろっ。そんな『力』があれば、戦争では絶対に役に立つ!」
「俺達の様な『密猟者』や『盗賊』達も喉から手が出るほどに欲しい逸品だしな」
「おう、ちげえねえっ!何しろ捕まらねえからなっ!それにお頭のもう片方の腕輪には、『強力な【拘束】効果がある腕輪』もあんだろ?無敵じゃねえーかっ」
「元々その『職人一家』が逃げる時に、お頭も巻き込まれそうだってんで、特別に用意して貰ったって言ってたな……ただまあ、その『職人一家』もまさか、その時の子供が今となっては『凄腕の密猟者』になるだなんてちっとも思ってなかっただろうがな。へへへ」
「だな。……だがまあ、お頭もそんな『道具』を持っちまったらもう手放せないだろうし、元の生活にだってまず戻れないだろうしな」
「……ああ、下手したらその『腕輪』に対しても追手がかかるから、か」
「だな。そんな『道具』を手に入れたばっかりに……お頭はこれ以外の生き方がなかったっても言ってたな」
「……難儀な話だぜ」
「──まったくな。だがまあ、そのおかげで俺達は今上手くいってんだろっ!それでいいじゃねーか!」
「そうだなっ。それに今回の『魔物』とこの『ドラゴン』を売れりゃ、大金が手に入るっ!」
「そうすりゃっ!俺達は──」
『…………』
「──おーいおいっ!お前らっ!外回りの奴らも帰って来たみたいだぞっ!前祝に用意してた酒飲もうっ!早く来いっ!」
「おうお頭っ!今行くぜっ!」
「お頭っ、あんたが飲み過ぎると明日の交渉でとちるかもしれねぇっ!俺達がいっぱい飲んでやるからっ!あんたは控えて安心して歯磨いてケツ拭いて早寝してろっ!」
「ばかやろうっ!俺もがんばっただろっ!俺が先だ俺が先だ!飲ませろ飲ませろっ!!飲むぞ飲むぞ飲むぞーっ!!」
「……へへへっ、あの人はまったくよー。子供みてえな人だよなー」
「まあなっ。根は悪い人じゃねえんだよ。……俺たちが専ら捕まえろって言われてんのも『魔物』と『珍獣』だけだしな。……つまりはそういう事だろう?。だから、一部のギルドだって俺たちの拠点を見逃してくれてる」
「……だな。あの『力』があればもっと悪い事にも使える筈だが……あの人はそうしなかった。『人』の為になる事をしてきたからな。──まあ、この『ドラゴンの子』には気の毒だがよ。色々と良い『素材』にはなるんだろ?詳しくは知らねーけど?」
「……らしいな。薬になったり、武器防具になったり、上手く育てれば一匹だけでも戦力にもなる。──だがそれにしても『こいつ』随分と大人しい『ドラゴン』だな?あんま戦えなさそうだし『素材』になるだけか……そもそも、なんで大事そうに『籠』なんか抱えてんだ?」
「ん?さあ?──まあ、その『籠』の中が巣だとでも思ってるんじゃねえか?……きっと、そこで『寝たい』んだよ」
『…………』
「……そうか。まあ、大人しいのはいい事だな。面倒もかからんし──って、いけね。このままだとほんとにお頭にぜんぶ飲まれちまうぞっ!あの人『笊』だからなっ。酒の味なんかお構いなしにぶっ倒れるまで飲み続けやがるっ!!」
「──そうだなっ!まずいぞっ!!」
「おうっ!いそげいそげいそげっ!」
『…………』
『道具』があったからこそ、今の生活がある。
……だが、その『道具』のせいで、今の生活になったとも言える。
『道具』がなければもう、生きてはいけぬと依存する者達も居る……。
それはつまり、『道具』に支配されているとも──ある意味では言えるのかもしれない。
ただ、きっと『人』は敢えてそれに気づかないフリもしているのだと思う。
無意識下で気づかない様にと、抑えている部分が誰しもにあるのだと……。
使っているようで、その実それに『使われている』──のかもしれないというそんな現実にすら、『人』は時として『まやかし』をかけているのだと……。
ただそれで、結果的に一時の『幸せ』でも感じられれば、それで事足りていると言えるのだろうか?
それとも、その『まやかし』を晴らし、現実と向き合い『不幸せ』を確りと認識させるべきなのだろうか?
確りと歩き続けるために必要な事は、果たしていったいどちらなのだろう……?
『…………』
無論、『人』それぞれで考えは異なるとは思うが……。
『密猟団』の彼らの話を聞きながら……そんな事をふと『聖竜』は考え続けるのであった──。
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