第684話 有形。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『道具』は使い方次第で如何様にも変わる。
使う者次第で、人を幸せにも不幸にもする。
ただ、そんな事は今更言うまでもなく──誰でも『知っている事』なのかもしれない。
だが、その本質として『人』は『人』でありたいならば、『道具』がある事に慣れ過ぎて、それを基準とした生活を考えるべきではないと私は思うのだ。
──要は、その『力』とは、その『道具』に付随するものであり、自身の『力』ではないからである。
だから、その『道具』がいくら素晴らしかろうとも、その『力』に頼り切っていては『人』は自身の『力』を見失う事にもなり得るのだと。……言わば、その『力』は『まやかし』にとても近しいものだから。本当は、その『力』を借りているだけだからである。
だから、極論を言うなら、寧ろその『道具』を使わずに済むように『人』は『力』を揮うべきだと私は思う……。
そして、特に『文明』等においては、便利になることを求めるなとは言わぬが、求めすぎることは良くない結果を生むだろうと私は思うのだ。
……だから、尚更にどこかで『ほどほど』を見極めるべきなのだと。
そして、それは『いずれ』の話などではなく、『今まさに』の話なのだと。
『…………』
何しろ、それを突き詰めた先には『人』は要らなくなるからだ。
『道具の力』で全てが完成される様な便利な『世界』にもしなったならば、そこに『人』の居場所は必要なくなるからである。
それこそ、その時はもう『人』は逆に道具の一部になるか、『人』である事を辞めるかの選択をしなければいけなくなってしまうだろうと。
そして、そうなる事が嫌ならば、そうならない様にした方がいい──だなんて、本当は多くの者達が気づいている事なのだ。
それか、逆にそうなる事を初めから望んでやっているか、しかないのである。
……だから、それを根幹から避けたいと強く思うのであれば、最初からそうならないようにと、私は『道』を選んで歩むべきだと思うのだった。
『その時が来てからでいい』では、きっと手遅れになるから……。
そして、その時には『人』はより『大きなもの』を失う事にもなるだろうからと……。
自分には関係ないからと思っている事は……実はきっと身近な事でもあるのだ。
だからこそ、その為の計画を立てておくべきで──『いつまでも歩ける』ならば話は別としても、そうでないならば尚更に、止まれるように備えをしておくべきだと私は思うのだった。
……考えなしに、いつまでも追求し続けるばかりではいずれ破綻し痛い目を見る事は明らかである。
それか『急停止』を見据えているにしても、その時には多くの者達を傷つける事にもなると、知っておくべきなのだ。
『…………』
それはある意味で、魔法使いが『差異』を超え『意識状態』になるのと似ており──また、全く別方向の『力』の『在り方』でもあるからと……。
当然、『再構成』の仕方を知らなければ、『呪術師達』と同様に怨念となるのみなのだと。
『…………』
だから、そのなんとも幼稚に見える『罠』を見つけて、私は少しだけムッとしていたのである。
その『道具』の使い方の拙さに、『在り方』の誤り方に、無性に小さな憤りも覚えたのである。
エアはケタケタとベッドの上で笑っているけれども、内心『聖竜』としては、あの『罠』に引っかかる事は絶対に出来ないと『別の意味』でも思ったのだ。
そして、それが『古代の秘宝』と言う、そんななんとも尊大な『魔法道具』に起因する『力』の『在り方』であるならば尚更に、その『道具』が生み出された意味を見失っている事にも悲しさを覚えたのだった。
──要は、そこに『在る』だけではなく、ちゃんと『意味あるものでありたい』と、そう願う『道具』であったのならば、きっと『あれ』は嘆いているだろうからと。
……本当はそんな『使い方』ではないんだと、怒ってもいるだろうからと。
それを思うと、なんとも滑稽な話かもしれないが──ある意味で『領域』と言う『道具』そのものでもある『聖竜』としては、『それ』(籠)に自分を重ねてしまっていたのである。
……なんとも言えない話、それは極端な話かもしれないが、あの『籠』が自分に思えてならなくなった。
『…………』
『空っぽ』で、たった一つの支えと繋がりを大事にして、ただ一つ残った『心』だけで何かを為そうとする……そんな自分に思えてしまったのだ。
だから、尚の事ちょっとだけムカついてしまった。
その『籠』は何かを受け止める事が出来る素晴らしいものなんだぞ!と。
木の枝も紐も、そしてポツリと残された『エサ』の様な何かだって、もっと別の『使い方』をされればちゃんと輝けたんだぞ!と。
何となく、そんな代弁もしたくなった……。
ここで、笑われたりするためにあったんじゃない。
馬鹿にされる為に生み出されたんじゃない。
私達が『その罠に捕まるお馬鹿』だと思われている方がまだマシだったと。
そんな『使われ方』に──同じ『道具』視点の立ち位置から──可哀想で仕方がなかったのだ。
『…………』
……なので私は、いまこそ『世界の支配者』たる『聖竜の力』をみせてくれようではないかと思い立った。
そんな『使い方』しか出来ぬなら、その『籠』は私が貰い受けてやると。
私がその『籠』をもって、一緒に『パタパタ』して空を飛んでやると。
そして、飛んだ先では木の高い場所に実った美味しそうな果実を手に取って、その『籠』にいっぱいにしてやるんだと。
その果実を食べた『誰か』はきっと、その美味しさで笑顔があふれる事だろうと。
私は──『籠』は──そんな『道具』で『在りたい』のだと。
『…………』
いつしか、そんな不思議な感情移入をしてしまっていた私は、気づいた時には部屋を飛び出して宿屋を出ていた。
そして、あからさまに仕掛けられたその『罠』へと横から近づくと、私は丁寧に『籠』をむぎゅっと手に取ったのである。
『これからは私がちゃんと使ってやるからな!』と、通じるわけもないのに、『籠』に『心』で語りかけてもいた。
さながら私は、助けを求めていた存在(……ただの『籠』です)を、見事救い出した英雄の様な出で立ちである(……そんな心象風景だった)。
そして、『籠』の次は、『木の枝と紐も』と手を伸ばしたそんな次の瞬間……。
──しゅぽんっ!と何かの音が鳴り……。
気づけば私は、どこぞの薄暗い倉庫のような場所にある檻の中へと【転移】させられてしまっていたのであった……。
『…………』
……うむ。あのー、先ほどまで言っていたことは全て、どうか忘れて欲しいと思う。
どうやら、『愚か』だったのは私だけだったようだ……。
見事に引っかかってしまったのであるっ。あぁ、やっちゃった。捕まっちゃった。
……そうして、どこからかエアの『ロムーーっ!!』と言う悲痛の叫びも夜空に響いた気がしたのだった──。
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