第683話 堤籠。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『…………』
……どうやら、エアと『精霊達』の間では『ロムが口にした言葉はフラグになり易い』と言う、そんな微妙なジンクスが『暗黙の了解』としてあるらしい。
『……ふふっ、こわいんだぞぉー、こういう時のロムの言葉は実際に問題が起きなかった事の方が少ないんだからねぇー』……と、言う事だそうだ。
ただ、それを言った『白銀のエア』はベッドにゴロンと仰向けに寝ころぶと、ジト目の不愛想な表情のままでくすくすと器用に笑っていた。
そしてエアは一緒のベッドに居る『聖竜』と『水竜の子』に対して、自分の『お腹』を枕にする様にも促してくるのである。
……無論、最初は小さなエアのお腹に私達の頭を乗せたらエアが苦しかろうと思って断ったのだが、『寧ろ乗せて欲しい!』と本人の強い希望があったために、ならばと私と『水竜の子』は左右から顎先をちょこんとだけ乗せたのだった。
「フフっ……」
──すると、小さなエアはそうして自分のお腹に私達の頭が乗る様をみながら、嬉しそうに私達を撫で始めてくるのだ。
……そして、『こんな気持ちだったのかなぁ……』と、無自覚な呟きも零している。
その声音はとても柔らかい……。
宿の中、特に何かをする訳でもなく、そうしてのんびりとした時間を私たちは過ごしていた……。
暫くすると、『水竜の子』もウトウトとして、すぅすぅと寝息を立てる。
無論、『眠らない』私とエアは、その様子を見て微笑ましい気持ちになった。そして、その眠りを邪魔しない様にと、魔法で文字を描きながら言葉を交わし続けたのだ。
──そして、まさにそんな状態の時に、先の『ロムのフラグ』の話が出てきて、エアはクスクスと小さく笑いを零している状況なのである。
部屋の壁際には四人の精霊達の姿もあり、彼らも『うんうん』と深く頷く。
……意外とこの部屋の中は大所帯だ。
だが、逆にそれがなんとも言えない『あたたかさ』を感じさせて、心地良くもあった。
……不思議となんだか『森』を感じる。
『…………』
……でもまあ、それはそれとして、私としては『ふらぐ?』に関してはどうしようもないとは思うのである。
素直な思いをそのまま話しただけなのだから……。そこには他意もなにもない。
純粋にお話を楽しんでいただけなのだ。
それにその『ふらぐ?』になりそうな言葉は私だけではなくエアも途中で言ったりしているのである。
『『古代の秘宝』とかって言うけど、実は大したこと無い気はするよねっ!』とか。
……きっと、それだってその『ふらぐ?』ってやつだと思うのだ。
だから、私はエアにそれを伝えてみたのだけれども──
『──ううんっ、わたしは不思議とならないんだっ!ざんねんだけど、ロムみたいには中々ね……』と。
──どうやら、ならないらしい。
『あっ、でも、そこでロムがまた『……そうだな、実際はあんまり大したことがなさそうだ』なんて言ったら、途端にそっちはフラグになっちゃうからねっ?ロムは言っちゃダメなんだよっ?』
……えー、難しい。私にはわからない。なんとも不思議な話だと感じた。
だがまあ、とりあえずは『やるなよ』と言われた事を、態々天邪鬼的に『やる』様な事はしないでおこうとは思ったのだ。なので、それだけは安心はしてほしいのである──。
『…………』
そんな『強力な魔法道具』があるなんて全く思えない……なんて、『心』の中でちょびっとだけしか思わなかった。
それに、先の『そんな都合よく『密猟団』が現れるわけがないだろう』と言うのも、ちょっとした言葉の綾であり、実際にはほんとに『密猟団』などが現れたりもしないだろう事も私はちゃんと分かっているのである。
だから例えばの話、ここでちょっと『権能』を使い、宿の周辺を『世界の俯瞰図』で見たとしても、何も問題なんて──
『…………』
『……ん?どうしたのロム?』
──な、『ない』と言いたかったのだが……あれれ?何故だろう。『人』が居る。それもかなり大勢が宿の周辺に集まって来ていたのだ。……えーっと?何やら、怪しい雰囲気だぞ?
『……えっ、ほんとに来たのっ!わはははっ!きちゃったかぁー』
……そ、そろそろ日も落ち、既に辺りはかなり暗くはなっている。
当然、世間一般的に出歩く者も殆どいない筈の時間帯で、なおかつ彼らはどうやら音を出さない様に気を付けながら行動しているのが『俯瞰』しながらでも視てわかったのだった。
それも、敢えて言うならば、ここ以外にも宿は周囲にいくつもある。
だから深夜の新規宿泊希望客なのだとしたら、何もこの宿の周辺にだけに集まってくる必要は全くないのだ。……そもそも、彼らの様に徹底して音を潜める必要だって勿論ない。
その上、現状彼らは着々と宿を包囲する様な陣形をとっており、『何が怪しい』というよりはもう、『全部が全部怪しい』と言う風以外に逆に言い表せなくなってきているのだ……。
『…………』
……ふむ。こ、これは……本当に言い逃れが出来ない状況になってきている……?
でも、これが本当に『ロムのふらぐ?』と言うものの影響力だとしたらとんでもない話だ。
だから、『聖竜』としては勿論偶然であってほしいと思う。
それに、ここまできたら逆に恐ろしさも感じてしまった。
エアや『精霊達』が騒ぐのも納得だと……。
『…………』
……ん?
『……どうロム?更になんか動きがあったりした?もしかして、もう突撃してくる感じ?』
……いや、そういう訳でもないのだが──。
一つ、気になるものを私は発見してしまったのだ。
『……気になるもの?何があったの?』
……いや、見間違いでなければの話なのだが──どうやら宿の周囲を包囲している者達が『罠』を仕掛け始めた様に見えるのである……。
『……へぇー、『そんなもの』まで使って来るってことは本気なんだね?──それか、もしかしたらそれが『噂の魔法道具』だったりするのかな?『古代の秘宝』だっけ?その呼び名に相応しい『強力さ』はありそう……?』
……い、いやぁ、どうなのだろう。でも、まさか。だがしかし、あれは……。
『……どうしたの?』
……籠なのだ。『かご』にしか見えないのである。
『……へ?かご?』
……うむ。籠が逆さになっていて、その籠を木の枝で支えてあって、その木の枝には紐が繋がってて、それでその籠の下にエサっぽいものがポツンと一つ置いてあるのである──。
『…………』
『…………』
「……ねえ、それって……くすっ」
『…………』
「うふふふっふ、くくく、それはすごい『古代の秘宝』が現れたねっ!くくくっ、だめ、お腹痛いっ」
……ぐぬー、あんなっ、あんな『罠』にかかると本気で思われているのだとしたら──
私達は本気で怒っても良いと、そう思うのだった……。
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