第681話 海市。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『大樹の森』を目指し、私達はのんびりと大陸の外周を回りながら、海にほど近い道を歩いていた。
『大樹の森』に行くだけならば【転移】をしたほうが余程に早いけれども……もしかしたらその途中で『水竜の子の家族』が海からひょっこりと顔を出すかもしれないと、そう思ったから……。
『…………』
……ただまあ、水面は水平線の先まで穏やかで、顔を出してくれそうな雰囲気は今の所は皆無である。どうやらそんなに『奇跡』の安売りはしてくれないらしい。
でもその代わりに、なんとものんびりとした良い旅路を私達は歩めていた。
……『水竜の子』も変わらずエアの背中で『きゅー!きゅー!』と少し興奮気味に『世界』を眺めている。感動の連続らしい。毎日が新しい発見で飽きが来ないのだとか。
そして、『白銀のエア』はそんな『水竜の子』を背負いながら、まるで似た様な光景をどこか昔に見たことがあると言いたげな……そんな何かを懐かしむような表情を浮かべるのだった。
一方、『聖竜』の方は、時に『精霊達』から過剰なスキンシップを受けつつも──最近では『ぱたぱた』も進化しており、ジャンプも混ぜながら『ぱたぱた』して歩くようになっている。
……無論、未だ空は遠い。
ただ、若干翼の動きは以前よりも滑らかになってきた気はするのだ。
だからまだまだ、このまま頑張っていこうと思う……。
『…………』
……因みに、『魔法を使えば普通に飛べるのでは?』と、既に頭に思い浮かべた者が居たとしたら、それはその『人』の心の内にどうかそっと秘めておいて欲しいとも思うのである。
まあ、エアと精霊達は既に気づいていたそうだが、私は全く気づいていなかったのだ……。
昨晩、教えてもらったばかりなのである……。
──でも……今更それを言われても、正直もうこんなに練習してきたのだからと……ちょっとだけ意固地にもなってしまうのだった。
『心』のどうしようもない部分が私に言うのである──『聖竜』としては、ちゃんと翼を使って飛んでみたいんだ!と。
……魔法で飛行補助をするにしても、その全部を魔法に頼るよりも、ちゃんと翼も使って優雅に空を羽ばたきたいんだ!と。
『…………』
確かに、魔法は良き『力』である事に違いはない。
……だが、例えばの話で『魔法で空が飛べるからと言って……足は要らないか?』と問われれば──当然の様に『否!』と思うだろう?
『魔法で物を運べるからと言っても手は要るだろう』し、『魔法で『世界』が視えるからと言っても、目でも景色を見たいのだ』……。
だから、要は『翼』もそれと一緒だと私は思うのである……。
……つまりは『翼には、翼で在る事の意味があるのだ』と。
私が何を言いたいのか伝わっているだろうか?
……正直、私は半分以上勢いで話している気しかしない。
でも、そんな言い訳をちょっとだけ自分にしつつも、練習を続けたかったのだ。
……きっと、自分自身がちゃんと納得できるまでやりたかったのだ。
何かしらの結果を得るまでは諦めきれないと……『心』がそう震えていた──。
『…………』
──ただ、無論それとは別にして、魔法が如何に便利な『力』であろうとも、その『力』の使い方を誤ってはいけないのは冗談でも何でもない。
『魔法使い』がより大きな『力』を引き出そうとして、『差異』を超え、『魔力体』になったり、『意識状態』になり、それに見合うだけの『力』を引き出せるようになったとしても、『在り方』を誤れば、『音や私』の様に何かを失くしてしまう事は十二分にあり得るのだから……。
だから『魔法使い』に限らず──『力』の扱いにいまいち自身が持てない者は、『ほどほど』で在る事を目指すのがいいと私は考えるのだ。
──要は、何事もとりあえず『全てにおいて極める事のみが正道』ではないのだと。
『知らなくてもいい事』や『やらなくて良かったと感じる事』なんてものは沢山あるのだと……。
『…………』
ふぅ。全て、先ほどまでの自分に跳ね返ってきそうな話ではあるが……。
なにもこれは私だけに関係する話ではなく、誰にとっても同様の事が言えて──身近で言えば、『文明』等においてかなり似た様な状況が起こり兼ねない話だと私は思っているのである。
と言うのも、『人』が作り上げるものが如何に素晴らしく感じても、その便利さに傾倒し過ぎれば魔法と似た状況は簡単に起きてしまうのだと。
──そして、現に私達は海沿いの街にある『冒険者ギルド』で、こんな話を聞く事にもなったのである……。
「──えっ?ここら辺は『密猟団』が有名?……それも魔物や珍獣を狙って『強力な魔法道具』を使う集団?『金石冒険者』や『国の軍隊』でも手を焼いているほどって、ほんとに……?」
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