第679話 撫子。
『世界』と『大樹の森』と『音の別荘』、そんな三つの『領域』を管理維持することになった私とエアは、現状『水竜の子』を連れて『世界』を歩いている。
本来であれば『意識状態』じゃないと出来なかった事も、エアと分担する事で出来る様になった。
今こうして普通に『世界』を出歩けているのも全てエアのおかげである。
そして、『水竜の子』の親となる存在を探すためにも使った『力』──言わば『管理者』と言う権限を持つ者に付随する能力──『権能』とでもいうべきその『力』を新たに使う余裕を得た私は、それを用いて『世界の俯瞰図』を眺めていた訳なのだが……そこでふと、気になる存在達を発見してしまったのだった。
『…………』
……因みに、その『権能』に関してだが、魔法で『探知』を行うのとあまり大差はなかったりする。
『出来そうだからやってみようか』と思い使ってみた訳だが、使った感覚の違いとしては『権能』の方は『領域』内であれば使っても『魔力消費がない』と言う事くらいだろうか。
……ただ、私は魔力量だけは多いので、その『利』をあまり感じなかったという訳である。
『…………』『…………』『…………』『…………』
まあ、偶々使った事で運よくその存在を『権能』で発見できたことは良かったと思う。
……その存在──正確には四人ほど居るのだが、彼らはいずれも木の陰に隠れながら私達を寂しそうに見つめているのだ。
ただ、気になるのは見つめてくるだけで悪意や敵意などは全く感じられないという事。
もっと言うなら、あれらは間違いなく『精霊』であり、それも『火と風と水と土』と言う異なる『属性』を持つ者達が一緒に居る事自体が大変に珍しい光景だった。
なんでこんな場所に居るのかは凄く不思議だ。……そもそもどこの『大樹』から彼らは来たのだろうか。今はまだ『精霊達』もその多くが『大樹の森』に集まっていると思っていたのだが……。
「──ん?立ち止まってどうしたのロム?……えっ、向こうに誰かいるって?……んーどこ?」
……ただまあ、それを考えるにしても、先にエアにはその四人の事を伝えておこうと思う。
だが、そうするとエアは『──あっ』と声を漏らし、その存在達へと大きく呼びかけるのだった。
「──おぉーいっ!みんなぁ!かーくん達ぃっ!どうしたのそんなに離れてぇー?……わっ、一気に走ってきたっ。凄い速いっ……って、どうしたの四人共──えっ!?わたし達に『もう忘れられちゃったかと思って?だから離れてたって?』もうなんでよっ。忘れるわけないでしょっ!」
『……だよなぁ。でも旦那がさぁ、こんなに可愛くなっちまってよ──おーよしよしよしっ』
『……もし二人に『四人とも誰?』とかって言われたら間違いなくわたし達泣いちゃってたよねっ──でも、そうじゃなくてほんと良かったっ。はーいわたしも、よーしよしよしっ!』
『…………』
『ええ、ですから『少しだけ離れて見守っていよう』って、四人で話して様子見してたんです。エアちゃんの髪の毛もいきなり『白銀』になっちゃったんで『もしかしたら、エアちゃんもわたし達の事を忘れちゃってるかも……』とか、そんな風に色々と深く考え過ぎちゃいまして──あっ、でも凄くお似合いですよ!綺麗な『白銀』です。じゃあ、えっと触りますね。えへへ、よしよしよし』
……すると、どうやらエアとも深く知り合いだったようで──呼びかけに応じた『精霊達』は驚くほど全速力で走り寄って来たわけなのだが……。
ただ、エアとそんな言葉を交わすと──何故だろう。彼らはその後『聖竜』の頭を四人で入れ替わりに撫でていくのである。
……な、なんで私は撫でられてるのだ?そういう挨拶か?
ち、因みに、『火の精霊』『風の精霊』『土の精霊』は比較的短めで撫で終わったが、無言の『水の精霊』だけはずっとその挨拶を続けている状態だ。……ちょっと頭部が摩擦で少し熱く感じる。
でも、そんな『聖竜』と『精霊達』の様子を見ると、エアは少し不愛想なまま『ニヤリ』とした笑みを浮かべるのだった……。
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