第676話 白頭。
(前話『675話』は書き直しをしております。書き直し前の話を読んでしまった方々は申し訳ございません。ご注意ください)
泣いているエアの涙を止めようと奮闘しつつ、言い出し難くはあるが『さよなら』と告げなければいけないそんな状況の最中、まさにそれを伝えようとしたその瞬間に──目の前でエアの綺麗な黒の髪が、いきなり真っ白に変わってしまったのだ。
『──!?』
……な、なにが起こったんだ?いきなりどうしたんだ?と、それを見た『聖竜』の頭の中も真っ白になる。
もしかしたら、先ほどから泣いている彼女だから、『悲し過ぎたが故』にショックのあまり髪色まで変化してしまったのだろうか?と最初は思う。
「──わぁっ!」
だが、白に……もっと言えば『聖竜』の身体の色とほぼ一緒の『白銀』色に髪が染まった彼女は一瞬きょとんとすると、自然とその涙も止まっており、そんな妙に喜色に富んだ声をあげながら自らの髪色を見て、そこはかとなく嬉しそうな雰囲気を発し始めたのだった。
……それもなんとも不思議な事に、表情だけはいつの間にか至極不愛想なものに変わっており、目つきもきつく、鋭く冷たくなって、普段の柔らかで愛らしい微笑みはすっかり消え失せてしまっていたのだ。
小さなエアはその表情の変化には気づいていないのだろうが、自身の耳元辺りの髪を目線の高さに持ってくると『おー、ロムみたいっ!』とか、『キラキラしてるっ』とか言ってその髪色に夢中になっている。
なので、一応私は『表情も変化しているよ』と、魔法で文字を綴って教えてあげた。
「わあっ!ほんとだっ!わたしの顔がまるでロムみたいっ!わーっ!嬉しいっ!」
『…………』
すると、そんな私の言葉(文字)を目にした途端、エアはすぐさま魔法で水鏡の様な物を作りだし、それで自分の顔を確認している。……それもどうやら嬉しいらしい。
普段の柔らかな表情の方が私は素敵だと思うのだが。
……まあ、本人が嬉しいのなら余計な事は言わない方が良いだろうと思い直す。
彼女は自分の顔をペタペタと触りながら、自分の見た目の変化を堪能していた。
……だた、その途中で『そんな場合じゃなかったっ!』と気づき、彼女はその不愛想な視線で私を『ジトーっ』と見つめると、私にこう言ってきたのである──。
『──ねえ、ロム。わたしにも『領域』の管理維持を手伝わせて欲しい』と。
そして、『……もしも手伝わせてもらえるなら、わたしには新しく作る『音の別荘』を任せて欲しいんだ』と……。
『…………』
……い、いきなりどうしたの?とまたも思った。
ただ、詳しく聞くと彼女は今、これまでにないほどに『力』に満ち溢れている状態なのだという。
なので、この状態ならば私がこれから行おうとしている事も手伝えるのではないかと。
そして出来る事ならば、その『音』に対応するのは是非とも自分に任せて欲しいのだと。
──と言うのも、エアは私がこれから行おうとしている事……『領域』としての役割を、『ロム一人でやるべきではない!』とそう考えたらしい。
『全てを一人で背負う必要はないんだよ』と。
『わたしだって、ロムの抱える重みを、少しくらいなら背負えるんだからっ』と。
『…………』
……すると、その言葉を聴いた瞬間から、不思議と私の『心』は何かで満たされた感覚があった。
それは、少し前まで『そこ』にあったものが、また戻ってきたような感覚だ……。
失くなっていたことすら今の今まで忘れていたが、それはきっと元々あったものなのだろうと。
私はそれを上手く言葉で言い表せなかったが、その『あたたかさ』は知っている気がしたのだ。
『絵の二人』が微笑み合っている光景を実際に見たいと、そんな『理想』を叶えたいと、そう思いここに来た訳だが……その意味を少しだけ理解できた気がした。
──きっと私は、失った何かを求めてここに来たのだろうと。
そして、それはきっと彼女に対する私の執着であり、また私が『その絵の片割れ』──『ロム』であったからなのだろうと。
そんな思いが急にストンと『心』に落ちてきて、ピッタリとハマる感覚があったのだ。
……完全に思い出した訳ではない、とは思う。だが、何かが帰ってきた感覚が『心』にあった。
──いや、もっと正確に言えば、彼女が歩み寄ってきてくれたのだ。
私が在ろうとする場所まで、彼女がよじ登って来てくれた。
そして、私が気づけないでいた事を彼女が教えてくれたのだ。
私が失くしてしまったものを、彼女が見つけて、持ってきてくれようとしているのだと感じた……。
──ぽた、ぽた、ぽた。
「……ロム!?」
『…………』
……なので、気づけば先ほどまで泣いていた彼女の雫が、私にも少し移ってしまったかの様に──私の目元からもちょっとだけ、雫が零れ落ちてしまったのだった……。
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