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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第673話 素寒貧。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『無い袖は振れない』……とはいうが、今まさに私もそんな状態だった。



 現状、私の『力』は『世界』の魔力調整と管理、『大樹の森』の管理維持、更にそこから新たに『音』専用の『別荘』作りと──そんな大きく言えば三つの『領域』に『力』を割り振って使っている状況なのだが、そこまで割り振ってしまった後になってから自分の『力』がもう殆ど残ってない事に私は気づき……『あっ』となってしまったのである。



 『…………』



 ……迂闊だ。迂闊がすぎた。

 それのせいで『聖竜』の身体に戻る『力』すらも碌に残っていない……。



 無論、今すぐに取りやめれば何とかなる話ではあった。

 それに、一応は無理を通せば振り絞って何とかなる気もしなくはないが……。



 ──だが、当然取りやめたくはないのである。……手を差し伸べておいて、今更それを引っこめると?

 それならば、最初からそんな手など差し伸べるべきではないだろう。差し出したからには責任を負うべきと私は考える。

 衝動的に差し出しただけだとしても、既にその覚悟を決めていた私としては、当然そうするべきだろうと思っていた。実際、私の『心』もそう告げている。




 ──ただ、当然の様に無理をするのも選びたくはない。……もしもの場合、失敗した時には『世界』も『大樹の森』も消えてしまう可能性がある。なので、そんな危険を冒したくなかった。



 そもそも、少し経てばある程度の『力』の回復は望めるはず……。

 ……ただまあ、一つ大きな問題としてあるのが、前提として『世界』と『大樹の森』の管理運営をするだけでも『聖竜状態』の時ではいっぱいいっぱいだった所だが──。



 『…………』



 ──要は、この上さらに新たな『別荘作り』までする事になれば、当然許容量を超える事になるのは言うまでもないのである。


 今まで『一秒』に詰め込めていた状態も──静止している様にすら感じるくらいの作業処理速度も、大幅に落ちてしまうだろうと。



 だから、もしかしたらこの先は状態に関わらず普通に時を刻むのと変わらないくらいの速度になってしまう可能性が高くなった。



 つまりは、『意識状態』であっても現実的に時間がかかる様になってしまうだろうと。

 三つの『領域』を管理しようとするのであれば、どうしたって手が足りないのだ……。



 今までよりも大幅に時間はかかってしまうという事は……どうしたって『聖竜状態』では尚更に不可能になってしまう。



 よって、エアの所に戻るという選択をすると『別荘作り』が出来なくなってしまい──逆に、『別荘作り』をしようと思えばエアの所に帰れなくなる、のである。



 ……いや寧ろ、例え『別荘』が完成したとしても、この後もずっとその三つの『領域』を管理運用していく事を考えれば、ずっと『意識状態』でいなければいけないかもしれない。


 『意識状態』でなければ、完全なる管理運営は不可能にも思えた……。



 だがそうすると、私がエアの傍に居られるのは……今だけ、なのかもしれない。

 もしかしたら、これを逃せば私はもう帰る事すら出来なくなってしまう……?



 『聖竜状態』のままで、どうにかして三つの『領域』を管理できる方法はないものだろうか……。



 『…………』



 ……ならば、やはりそんな危ない『音』の事なんて捨て置いて、『別荘作り』も辞めて、『エアの所に戻る事を優先すべきだろう!』と、そんな選択も考えるべきかもしれないとは思った。


 何が大事で、何を優先したいのかを考えれば、悩むまでもなくそれが一番だからだ。


 『……絵の二人に会いたい』。唯一残った私の『心』にあるのは、ただそれだけだから。



 ──ただ、先も言った通り、私は既に手を差し伸べてしまっている。



 それはある意味で『約束』を結んだのと同義でもあり、魔法を扱う者としてはその『約束』がどれだけ重たいものなのかは言うまでもない。


 今更『やっぱりやめた!なかったことにしたい!』だなんて、そんな言葉を軽々しくも口走る様な存在にはなりたくないのだ。


 いや、そもそも魔力の規模的にはそんな事を口にした瞬間に反動で『領域』ごと消し飛びかねないだろう。……当然、私と言う『領域』はそんな事になる訳にはいかないのだ。

 私が抱える腕の中には、既に数えきれないほど多くの者達がいるのだから……。



 『約束』を違える事など、許されはしない。



 『…………』



 ……それに、弱まっているように感じるとはいっても、未だ何をしてくるか油断ならないのが『音』でもあった。

 実際、まだ完全に矛を収めた訳ではないだろうし、『あわよくば』の精神でひたすらに呪詛をまき散らしつつ、私が弱ったり隙を出すんじゃないかとずっと窺っているのは間違いないだろう。



 だが、そんな危険な彼らが『呪術師達の成れの果て』である事を知ってしまった私としては、もう憎めなくなっているのだ。そして、『受け入れたい』と強く思ってしまってもいる。



 これは『精霊達』や『ドラゴンの子』を助けたいと思う気持ちととても近いものであった。



 ……それに、そもそも私が簡単に諦めて見放す様な存在だったならば、『精霊達』も『ドラゴン』も『大樹の森』に安心して暮らせていないだろうとは思うのだ。開き直る様だが、それをしない事こそ私の唯一無二とも言える『長所』なのではないだろうか。



 あやふやな『心』しか残ってない私と言う『領域』だけれども、それでも皆の『心』が安らげる場所でありたいと思っている……。



 その為には、土台が確りとしているからこそ、そんな安心も信頼も生まれると思うのだ。


 だから私はそんな、太い根と幹で支えられたどっしりとした『立派な大樹でありたい』と思うのである。



 ……エアを泣かせたまま、こんな場所に居る時点で『何を言っているんだ?』と思われても仕方のない愚か者ではあるけれども──そんな愚かな私でも、せめて愚直にも前に進み続ける存在ではありたい。



 ──それに、これこそがまさに、話に聴いた『ロム』なる人物の取りそうな行動でもある様に私は感じるのだ。



 聴いたところによると、だいぶ不器用でポンコツな存在らしいからな──やはり、私がその『ロム』なる人物である気が増してきたのである。……いや、きっと私は『ロム』なる存在なのだろうと思った。うむ、もうそう思う事にしよう。



 私は『ロム』だ……。



 『…………』



 ……だから、今すべきなのは、一番の気がかりを解消する事であり──それはつまるところ『エアの涙を拭いに行く事』だと私は思ったのだ。



 そして、一緒に居られるのはもう短い時間かもしれないが……ちょっとだけでも会って、彼女の涙を確りと拭って──ちゃんと『さよなら』も告げて、これからは『意識状態』でもちゃんと見守っている事を彼女に伝えたいと思ったのである……。





「…………」



 ──無論、『彼女がなんで泣いていたのかも聴こえずにいた──何もわかっていなかった私』だったから……その行為がどれだけ彼女エアの『心』を傷つける事になるのか、その時には本当に分かっていなかったのである。



 ……だがまあ、後々になって思う事ではあるものの、『本当にこの時の私は一番ポンコツだったなぁ』と、自らの事ながらも頭を抱えたくなったのは言うまでもないのである。



 本当に、本当に、いつもいつもエアには迷惑をかけてばかりで、深く反省するばかりであった──。




またのお越しをお待ちしております。

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