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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第672話 朔。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 ──カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。



 『…………』



 『調整』をしながら、私はそんな『音』の恨みつらみを延々と聴き続けている。


 ……と言うか、実際には問いかけてもいないのに向こうから次々と勝手に語りかけてくる感じだった。嫌でも聴かざるを得ない状況になっているだけである。



 ただまあ、その『音』はとても小さく。まるで弱っている様だった。

 ……でも逆に、その小ささのせいで気になってしまい、話が耳に残ってしまう。


 私は不思議とこういう声を無視できなかった……。



 『呪術師達の集合体』とも言えるその存在──『音』から吐き出される『呪詛』の殆どは『ロム』(『泥の魔獣』)へと向けられる憤りであり、慟哭でもあった……。だから、『ロム』なる人物の事を知れる意味でも、少しだけ興味が湧いてしまったのもある。



 彼らは延々と『泥の魔獣』の不平不満を語り続け、その異常性とポンコツ具合をそれはもう罵詈雑言を交えながら語りかけてくるのだ。


 『世界』との『繋がり』を奪われた事を根に持って、ひたすらにグチグチと、『お前はダメだ』『酷い奴だ』『俺の大事なものを奪った盗人だ』『簒奪者だ!』と、延々と延々と繰り返していた。



 その恨みはとても深く、語りつくせぬほどであると……。



 『…………』



 ……だがまあ、そのおかげと言えるのか、なんとも皮肉な話だが、私は自分の知らぬ『私の事』──つまりはその『ロム』なる人物の事を深く知る事が出来た訳で。



 ひいては、それに相まって何となく『己がロムである自覚』も段々と芽生え始めてきたのである。

 ……まあ素直に言うと、『聖竜』の姿を再構成した時にも同じ感覚があったので『完全に思い出した!』と言う訳ではないのだが。



 ただ、なんとなく『そんな気がする』『そうなのかもしれない』という思いが少しだけ強くなったのだった。



 『…………』



 ……ただ不思議なもので、その感覚があるだけでだいぶ私の『心』は前向きになれたのだ。


 何というのか、一つでも『良いと思える所』が自分にあれば、それは意外と頼りになるもので、それを支えに『存在証明』を得られた気がしたのである。


 ……言わば、これが『自信』と言うものなのかもしれないと思えた。たった一つでいいのだ。たった一つで。



 だから、私は意外にもそんな彼らの罵詈雑言はそこまで苦痛でもなく、普通に聴き続ける事が出来たのである。……なんと言うのか、『泥の魔獣』に向ける彼らの怨嗟は、『ロム』と言う存在に対する彼らの『思い』でもあり──不思議とその話は『空っぽ』の私によく沁み込んできたのだ。



 まるで砂漠に雨を降らすかの如く──それはもう極々と。『ゴクゴク』と。砂は雨を飲み込み続けていった……。



 『…………』



 少々小難しい話になるかもしれないが……本来、『音』とはどこにでもあって、どこにもない存在と言えるのかもしれないと思う。



 その正体が『呪術師達の魔力の変異集合体』だとは言え……既にその『力』は元の『世界』に浸透し、根幹となる魔力の一部を担っていた。

 言わば、その存在は『世界』の大事な歯車の一つだったとも言えるわけである。



 多くの者達と関りを持ち『繋がり』、『魔力』のみを依り代に、『命』の裏側に棲む存在だ。

 常に『鼓動』と共に在るようなもので、『人』はもう生まれてから死ぬまでその『干渉』を避ける術がない。



 呼吸をすれば常にそこに……『音』は居る。

 その鼓動が止まるその瞬間まで──『繋がり』が切れるまで、いつだって誰よりも近くに在る存在なのだと……。



 だが、そんな彼らは『混濁』してしまい、また『集合体』であるにも関わらず、己の『心』を見失ってしまってもいた。



 それ故、彼らは『孤独』を感じ、変質してしまったのである。



 『呪術師の意識の集合体』は『人』の為、『世界』の為に存在したが……誰にも認識されることはなかった──。


 言わば、『誰よりも優しい呪術師達』に、『人』も『世界』も優しくはなかったのだ……。


 それも多くの『心』が混ざってしまったが故に、余計に彼らは『心』が分からなくなって──他者の『心』の機微も感じ取る事が出来なくなってしまっていた。



 その存在はただただ『人』と『世界』のみを拠り所に、尽くすだけの『意識存在』にはなったが──その『奉仕』が続けば続くほどに、次第に彼らを蝕み続け、不満を蓄積させる結果となってしまったのだろう。



 ……できるだけ簡単に言えば、『奉仕』など、結局は何らかの見返りがなければやり続ける事が困難であるという話──なのかもしれない。



 それをやる意味を見出せなければ、それをやる価値も当然見えなくなってくるのだと。


 『奉仕』とは──『尽くす』とは──言葉にするほど綺麗事では済まないのである……。


 そして、その『無意味な奉仕』を続ける事ほど、『空虚さ』を感じるものもないのだから……。



 『…………』



 ……結局、『繋がり』と言うのも、突き詰めれば『寂しさからの脱却』でしかないのかもしれない。


 要は、誰もが『孤独』にはなりたくないが故に、無意識的に集団を形成する。


 争いを生むことになったとしても、街や国を作る意味とは、もしかしたらそこにあるのかもしれないと……。


 多くの者達と『繋がり』を得ようとするのは、単純に『孤独』による不安を埋めようとしているからなのかもしれないと。



 ……無論、単純に『力への渇望』や、『平和を願って』、それを行うと考える者もいるだろう。


 だがしかし、それにしたって結局は、『力』も『平和』も『他者』という存在が居てくれるからこそである。


 誰も比べる相手が居なければ、それを求める必要も当然ない。


 つまりは、『孤独』から抜け出したいものほど、それらをより『強く求める』のだと。



 『…………』



 ……ただ、そんな事を考える『心』さえも見失った『音』は、そんな『孤独』を埋めるために、今までとは真逆の方法をとる様になったのだろう。


 ひたすら尽くし、他者を救う為に使っていた『力』を自らが救われる為だけに──


 より具体的には、己の『享楽』を追求し満たすことにだけ『力』を使うようになったのだ。



 そして、それは過剰な『干渉』を思いつくに至らせたのか──。


 『向こうからこちらを認識できない事なら、認識できるようになるまで干渉してやればいい!』と言う風に彼らは思ったのかもしれない。……気づかれないのをいい事に、好き勝手に『繋がりの力』を揮い始めたのだ



 『孤独』を癒す為、何かに『干渉』する事でその『心』を感じ取りたかっただけ、なのかもしれないが……。



 『誰かが気づいてくれるかもしれないから……』と。

 『この『孤独』が埋まるかもしれないから……』と。



 ……そんな無意識な思いに突き動かされながら、彼らは長年に渡って『世界』で暗躍し続けたのである。



 『…………』



 『おまじない』(『お呪い』)とは、ある意味で『祈り』にも近しい行為だと私は思う。


 だから、自らと近しい方法で『力』を得ようとする存在には、尚更に彼らは『干渉』を強めた。


 『世界』との『繋がり』を介して、『神々』とも呼べる存在を『昇華』させ集め、『心と身体』を良い様に弄ったのも、全てはその『享楽』の一部であり、ひいては『孤独の穴埋め』の為……。



 ──だから、もしかしたら彼らがずっと私にこうして訴えかけ続けるのも……もしかしたらと思った。



 『…………』



 『俺が作ったモノをカエセ』と、彼らは言う。

 『世界』をカエセと、『居場所』をカエセと、『魔力』をカエセと。


 カエセ。カエセ。カエセ。


 『人』や『世界』に尽くしてきた分を、その見返りも含めて、私に返して欲しいとでもいうかの様に激しく求めてくる……。



 ……いや、寧ろ、本当はそうして私に『訴えかけ続ける事』の方が目的なのかもしれないと、途中からはそう思えたのだ。



 同じ『意識存在』として、初めて『他者』を感じられた彼らは、無意識下では喜んでいたのかもしれない。



 『…………』



 ……いや、流石にそれは考えすぎだろうか。

 でもそうでなければ、そもそもなんで彼らは、彼らが語るような気の遠くなるような戦いを『泥の魔獣』に対して仕掛けたのだろうか。



 勝算があったからか?負けるはずがないと高を括ったからか?

 彼ら視点の話だと、もっと短期で決着をつける術などいくらでもあったと言いたげな風にも聴こえたが。



 だが、それならば彼らがそれをしなかったのはなぜだろうか?

 ……結局、彼らが選択したというのは究極の遅延戦法とも言える戦法だった。


 まるでずっと、『ロム』なる人物と戦っていたかったと、遊んでいたかったと、そう思っていたかのように……。



 『…………』



 『孤独』とは、それほどまでに彼らを変えてしまったのだろうか……。


 ……だが、どうしてだろう。不思議と私はそれを無視できなかった。


 まるでその『痛み』を知っているかのように、この『心』は震えてくるのである。



 だから、そう思った時には既に、私はそんな彼らの話を聴きつつ、憎めなくなっている己に気づいた。



 ……そもそも、元々『呪術師達』の事を私はきっとそこまで嫌いではないのだろう。


 『誰かの為に在り続けた』彼らを、救ってあげられる『誰か』が居てもいいだろうと思えてしまったのだ。



 『…………』



 ……だからか、気づいた時にはそんな彼らの『思い』を全部──その存在ごと一緒に、いつしか『空っぽ』の『器』の中へと私は受け入れようとしていたのであった。



 『……誰も君達を救わないなら、私が救ってやる』と。


 ……傲慢にも、そんな気持ちが衝動的に私を突き動かしていた。


 『私の『(ホーム)』で良かったら、君達も休んでいきなさい』と。



 ……結果、後々呆れられる事にはなるのだが、『精霊達』や『白い兎さん』だけではなく、『ドラゴン』はまだしも、敵であった筈の『呪術師達の怨念』までも──気づけば私は『大樹の森』へと招き入れてしまっていたのだった……。



 『…………』



 ──それも、『大樹の森』に招いたとは言え、今のところはまだ何が起きるかはわからないからと、一応は彼ら専用となる『別荘』までも準備し、その一角に隔離するような形態にはした訳なのだが……。



 そのせいで逆に、とんでもなく大きな問題が一つ起こってしまい……あまりにも其方へと『力』を割き過ぎたせいで、私は身体の再構成をするどころか『聖竜』の身体に戻れるだけの『力』を残す事を失念してしまっていたのである……。



 な、なので、それはつまり……。



「……ろむ。ろむぅっ、ぅぅ──」



 ……わ、私は、『涙を拭ってあげたいエア』の所へと帰る為の手段を失くしてしまった事に、やらかした後で気づいたのであった──。






またのお越しをお待ちしております。

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