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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第669話 晦。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『──待って』と、エアは私の事を強く抱き締めた。



 その『力』はとても強く──『絶対に離したくない』と言う思いが凄く伝わってくる……。

 そんな彼女の表情は見た私は、『領域』へと戻ろうとしていた変化を思わず止めてしまった。



 それ以上何かを話そうとすると、涙まで一緒に零れ落ちてしまいそうになっている彼女の様子に──それを必死に堪えようとするその姿に──そのまま放っておく事などどうしても私にはできなかったのだ。



「…………」



 だが、『衰弱する水竜の子』に施した『白い光』も実は一時的な対処でしかない。

 ……それに、この川縁周辺だけをいくら改善したところで、それでは根本的な解決とはならないだろう。



 だから、やはりこの子の事を本当に助けようと思うのならば、私は『領域』に戻り本格的な『調整』のやり直しが絶対に必須であった。

 ……その為にはまた『一秒』に作業をこれでもかと詰め込んで、体感で『果て無き時間』を懸ける事になりそうだが、やらねばなるまい。



 それに、私がそれを行ったとしても『世界』の方では一瞬の事だ──きっと、瞬きするくらいの時間もかからないで終わるだろうから、心配はいらないと思う。


 だから、『孤独を恐れる』エアを待たせずに済むだろうし──少なくとも『一人』だと感じさせる事もないだろうなと思った。



 ……『聖竜』である私としては、彼女の事もそうだが、当然その『水竜の子』をこんな場所に見捨ててはおけなかったので、こうするしかないという判断である。

 まあ正直な話、それ以外の方法を咄嗟に思いつけなかっただけではあるが……。



 ただなんにしても、この子をこんな状態にしたのは私だからな……。

 その償いはすべきだと思ったし、したいとも思ったのだ……。



「…………」



 ただ不思議と、その瞬間から私はまた、言いようのない既視感を感じ始めてもいた。

 これは、以前にも似た様な状況があった気がするのだが、それをどうしても思い出せない感覚だった。



 ……ただ、結局は『この方法を取るのが、きっと一番良い筈だ』と言う、そんな考えを変えるまでには至らず、私はそのまま押し通すことにしたのである。



 だから、私を抱きしめている彼女にもそれを理解してもらいたいと思って、エアに向け魔法で文字を書き綴ろうとした訳なのだが──。



「……ロムっ、だめ」


「…………」



 ──その瞬間、その言葉と共に、彼女の瞳からは大粒の雫が零れだしてきて、それがあまりにもとめどないものだから。私はまたも動けなくなり、文字も書けなくなってしまったのだった。



 ……でも、どうしたのだろう?なぜそんなに彼女は泣いているの?『寂しさ』を感じさせてしまっているのだろうか?



 私には、それがよく分からなかった……。



「……もう『記憶』も殆ど消費しちゃったんでしょっ?……次は、いったい何を使うつもりなの?ロムがどんな姿になってもいいよ。例えわたしの事を忘れてしまっていても、わたしが全部覚えているから。……でも、これ以上はロムが消えちゃう。『心』もなくなっちゃうっ。……それだけはいや。ぜったいにいやっ!だからもう離さない。ロムはわたしが守らないと。もうロムは『自分を守れない』から。ここで離せば、次はもうない気がするっ。もう会えなくなるっ。まだ約束の百年も経ってないのに。あなたを超えるどころか、横に並ぶことも、追いついてさえいない。……愛してるのに。こんなに大事なのに。だからやだっ!やだっ!わたしを残して消えないで、ロムッ!」


「…………」



 ……ただ、そうして泣きながらも、彼女が必死に何かを伝えようとしてくれているのはわかった。


 ──だが、不思議と私には『それらが一切、急に聞こえなくなってしまった』のである。


 ……それに『口の動きを読む』事さえもあやふやになってしまった。



「ぅっ、うわぁあああーッ、なんで届かないのっ!なんでロムばっかりにこんなっ!!こんな『世界』なんて、大っ嫌いだっ。ロムが居なくなったら、わたしがこんな『世界』なんて全部ぶっ壊してやる!全てを消し去ってやるっ!ドラゴンも人も魔物も全部がどうだっていい!ロムと『大樹の森』があればそれだけで、それだけでいいのに──」


「…………」



 ──だが、彼女のその尋常じゃない泣き方からして、凄く凄く『悲しい事』があるのだけは分かったのだ。



 だから私は翼を大きく広げると、とりあえずはそれで彼女を『ふわり』と優しく包んであげたのである。


 ……結局、私の『パタパタ』はこの身を空へと運んではくれなかったが、不器用なこの『力』でも、使い方次第ではこんな事もできるのだと。



 だから、『……ほら、寂しくないよ』と、行動で示してみたのだ。

 きっとまた、彼女は『孤独にされることを恐がっている』と思ったから……。



 『何で泣いているのか』、そんな理由もわからない私にはこれが精一杯だったが。

 ただそれでも、そんな不安が少しでも和らいで無くなってくれればいいなと、私はそう思った。



 それにこの状態なら『聖竜』の身体だけを残して(預けて)──『意識』だけを『領域』へと戻すことも可能な気がした……うむ、恐らくは上手くできそうだと感じている。



 と言うか、実際にやってみたらまるで以前にも『複数の視点』を持っていた事があるかのように、案外すんなりと成功したのだ。

 ……だからまあ、『聖竜』の身体は彼女をこのまま包んだ状態にし、彼女が気づく前には全ての『調整』を終わらせ、私はまた戻って来ようと思った。



 そうすれば彼女を寂しくさせる事もないし、『水竜の子』も救えるだろうからと……。



「──!?ロムっ!!何をする気っ?だめだよっ?だめ。ほんとにダメなんだから。ろむ……」


「…………」



 ……だが、その直前で何かしらの『勘』がはたらいたらしく──急に彼女はそこで更にきつく私を抱き締めてきたのだった。



 ただ、その『力』があまりにも強過ぎたから、思わず『ぬいぐるみ』だったらきっと中身が飛び出していただろうとか、私はそんな事を考えてしまった。……いや、実際この身でも少し飛び出しそうなくらいだったので、もう少しだけ丈夫になる様にと魔力を少し多めに身体に込めておいた方が良いと判断する。……うむ。これで良し。



 あとは、本当になんとなく衝動的だったのだが、『聖竜』である私はエアの頬にちょこんとだけキスをして、彼女の涙を拭っておいた。……む、無論、他意はない。手はぎゅっと抱きしめられてて動かせなかったし、翼も包まなければいけなかったから、こうする以外に彼女の涙を拭う手段がなかっただけなのだ。



 ──だからまあ、そうして『私』は『……泣かないで。直ぐに戻って来るから』と、そんな思いも込めつつ、エアの反対の頬にもキスをしてから、また『領域』へと『意識』だけ戻っていくのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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