第666話 擦。
何がどうして『聖竜』である私を、『ロム』なる人物に思えたのかはわからないが──小さい彼女はその『勘違い』をする様になってから、明らかに表情が柔らかくなったのを私は感じていた。
『どんな姿になっても、ロムはいつもわたしの傍にいてくれるんだなぁ──』と。
……まるでそう言いたげな彼女の表情を見る度に、私は少し不思議な心持ちになる。
でも、それが不快という訳ではないのだ。
なんだか、妙に『ここ』がむず痒い感覚になるというだけの話である。
自分が『ロムなのか、ロムじゃないのか』……正直、それはいくら考えても私には『答え』は出なかった。
……だから今は、ただ『大樹の森』へと。
それだけである。
小さな彼女に毎日ぬいぐるみ扱いをされながらも、『聖竜アピール』も小まめに繰り返しつつ、私達の楽しい時間は続いていった──。
『記憶があやふやになっても、ロムの良さはちっとも損なわれない!』と。
『わたしがロムの記憶の代わりになる。支えてあげたいんだ』と。
『あなたとの追憶は、いつだってわたしの心の中にもあるんだから──』と……。
──『聖竜』である私としては、旅の間に、時たま彼女から漏れ聞こえてくるそんな『ロムへの思い』に対して、どう向き合い反応を返したら良いのか……それがわからなくて困ったりもした。
だが、次第に『エア』がそれだけ『ロム』なる人物の事を想っているのだと感じて、段々と微笑ましくも思えてきたのである。
だから……尚更に『大樹の森』に行ったら、その『ロム』なる存在がちゃんと居てくれたらいいなと、私はそう思うのだった。
「…………」
ただ、一見して『少女と幼竜』にしか見えないこの二人組の旅は──思ったよりも各地で色々な波紋を呼んでしまったらしく──。
『おい、お嬢ちゃん!その手に良いモノ掴んでるじゃねえか!ちょっとおじさん達と良いお話しようぜ!』とか。
『ひぇっ!?ど、ドラゴンだっ!?ドラゴンが街に入り込んでいるぞッ!!!』とか。
『そのドラゴンの幼体はいくら払えば譲ってもら──えっ?非売品?いやいや、好きな金額を言って貰えればこちらも相応の用意が……』とか。
『お母さんの薬の為に、鱗を一枚だけ分けてくださいっ!』とか。
『寿命が延びると聞いたんで、せめて血を……』とか。
「…………」
──それはもう、困ってしまう程に近づいて来る者達が多かったとだけは伝えておきたい。
……でも、そんな者達が近づいて来ると決まって『エア』が思った以上に上手く捌いてくれた。
正直、意外にも感じたが彼女はこういう事にも慣れているようで、おかげで大きな騒動に発展する事などは全くなかったのである。
まあ、周りから見れば私達なんて『利が歩いている』位にしか見えなかったのかもしれないが──その実私達は『凄腕魔法使いと世界の支配者』なので、寧ろ襲い掛かってきた者達の方が気の毒ともいえる……それ程には『力の差』もあったのだ。
もっと言うならば、『金石冒険者と聖竜さん』でもある訳で……だからまあ、言っては何だが見た目だけで本当に侮らないでほしいものだと思った。まったく、困ってしまうのである。
私達は二人共に、玩具の様な愛らしい見た目をしているから仕方がないかもしれないが、そんじょそこらの強面のおじさんや屈強な冒険者達、裏に潜む盗賊達などよりは何倍もの経験と実力を兼ね備えていると思ってほしい。
『与し易し!』と、浅はかな判断でちょっかいをかけてくるだけの者達では、いくら数を揃えて来ようが『ちぎってはポイ!ちぎってはポイ!』であった。
問題解決能力だって高く、できない事も殆どない。
……まあ、しいて言えば手足が短くて、『翼をパタパタさせる事しかできず、空は飛べない』って事くらいだが、欠点らしい欠点なんてのはそれ位しか見当たらないのである──。
「…………」
──そう。つまりは、足を引っ張ってるのは『聖竜』(私)だけなのだ。本当にごめんね?
私、『パタパタ』する事位しかできなくて……。
「──ふふっ、いいよっ!」
……でも、彼女はそんな私の姿を見ると、とても楽しそうに笑うのだった。
それに、彼女は自身のその小さな体躯にも慣れてきたのか、普通に近接戦闘だけでも怪しいおじさん盗賊集団を相手に圧倒もしていたのだ。……おじさん達は一方的にぼこぼこになって、彼女は無傷で勝つくらいである。身体の状態も上がり調子であるらしい。
あと、純粋にのんびりとしたこの歩き旅が私達は楽しくなってもいた。
彼女は野営なども手慣れているし、冒険譚にも詳しく、話もかなり上手だ。
一緒に居てとても心地が良いと感じる。
無論、街などに入る時や人の多い場所に行くと『ドラゴン』と言う存在がやたらと目立つ為に絡まれることも増えるのだが……それさえも先も言った通り『エア』が対処上手なので問題はほぼない。
なので、今日もとある大きな街の商店が密集している大通りを普通に歩いていた訳なのだが──
「……ん?あれって」
「…………?」
──そこで私達は、とある雑貨屋の中に『あるもの』を発見して足を止めたのだった。
……と言うのも、それは一言で言うと『凄く見覚えのあるもの』でもあり──もっと詳しく言えば、凄く良くできた『白い竜のぬいぐるみ』だった訳なのだが。
その『白い竜のぬいぐるみ』を見た彼女は私に対して、こんなことを言ってきたのである……。
「あっ、『聖竜』ほら!街中に居る時には『あの子』と同じようにしていれば、騒ぎにならないよっ!」
「…………」
……いやいやいや、『街に居る時はぬいぐるみのふりをすれば平気っ!』とか言われても──。
こ、困る。
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