表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
664/790

第664話 回帰。




 『へぇー、ふーん、じゃあ、あなたは『聖竜』って名前のドラゴンなのねっ?」


 ──コクコクコクコク。


 『ふーーん、で?『世界の支配者』でもあるんだっけ?』


 ──コクコクコクコク。


 『ふーーーん。……でも、そんなこと言って本当はなんか悪い事企んでるんでしょ?』


 ──ブンブンブンブン。



 『絵』で見た女性に『霞』状態のままで私は問い詰められていた。

 心なしか『口の動き』を読んでいるだけなのに、その『声』までちゃんと聞こえてくる気がする。



 ……ただ、いくら問い詰められても私に彼女を害する気持ちは全くないのだ。

 まずはそれを分かって貰おう。……いや、逆に彼女もそれが分かっているからこそ判断に困っているのだろうか?



 正直、彼女からすれば知り合いである『バウ』と言うドラゴンと私の見た目が一緒な時点で、怪しくて堪らない筈だ。『敵側』の策略だと感じるのも無理はないのである。


 私がここに居るのも『偶然』を装っているだけで、何かしらの企みがあっての事だと。

 それに、私が咄嗟に出してしまった『世界の支配者』という内容も彼女は気がかりのようで──。



 聞けば、彼女が『霞』状態になる前まで戦っていた相手がまさにその『世界』を影で操っていそうな嫌な奴だったらしく……私は若干その『手下』だと思われている節があったのだ。



「…………」



 だがまあ、あの時は本当にあんな言い訳をする以外に良い考え(誤魔化し方)が私には咄嗟に出てこなかったのである。……だから、仕方がなかったのだ。なので、あまり怒らないでほしい……。



 とは言え、彼女も完全にドラゴン達の顔の判別が出来ているわけでもないからか──『世界』には似た様なドラゴンが居るのだと考えれば、『バウ』と似た種族の『聖竜』と言う名のドラゴンがいてもおかしくはない……のか?と最終的にはそんな妥協的な判断するしかないみたいであった。



 それに、彼女の方は未だ『霞』の状態のままなので、問い詰めたところでその後に何かができるわけでもなく──現状、上手く動けもしないわけだし『敵』だと分かっても攻撃する事もできないのだ。


 ……なので、寧ろそんな暇があるならば、いち早く今の状態から元の状態に戻れるように頑張った方がよほど建設的であると割り切ったみたいだった。



 あと、偶々通りかかった『世界の支配者』がいくらどんだけ滅茶苦茶に怪しかろうとも、彼女としては『話し相手』が居なくなるのは……『もっと困る』とも思ったのかもしれない。



 ……現状、私以外に彼女を『認識できる者』は居ないので、私がこの場から去ってしまうと、彼女はまた『孤独』に戻ってしまうのだと。


 未だ『心の繋がりが消えた』影響というのは大きいのか──また『独り』になる事に対して彼女が過剰に反応しているのが見て取れたのだ。


 『また独りにされたら、きっと間違いなく泣いちゃいそうだ』と、思わず本人が口を『パクパク』してしまう位には、精神的にきているのだろう。


 ……なので、その為にも時間の許す限りは『話し相手』として傍にいて欲しいと頼まれた私は素直に頷きを返したのだった。



「…………」



 ……私はなぜか、一目見た時から『絵の二人』に会いたい衝動に駆られてここにいる。

 だから私としては寧ろその頼みは望むところであった。



 正直、その理由は分からないけれども、一緒に居ればその内に『答え』も見つかるかもしれない。

 ……どうせまた『領域』に戻っても『世界』の整理くらいしかやる事がないし、寧ろそれは今の状態でもできる事だったので問題はなかったのだ。



 だから純粋に、私としては『孤独』に苛まれ、その恐怖を知る彼女をできる限り支えてあげたいと思った。


 願わくば、彼女が望む場所まで送り届けてあげたいとも思っている。

 それでそこに『ロム』なる人物が居るならば、彼女とその人物が二人揃っている状態を──あの『絵』の様な光景を見たいと思ったのだ。


 私の望みはただそれだけ。そしてその後の事はそれを見た後に考える事にした。



「…………」



 ……無論、私が最初から『絵の二人』に会いたくてここに居る事など彼女はまだ知らないのだ。

 彼女からしてみれば、私がここを去るつもりが最初からない事など知る由もないだろう。



 でも不思議と私はそれを彼女に伝える事は出来なかった。

 ……いや、伝えたくないとも思った。……なぜだろうか?自分でもよくわからない。



 ただ、生憎と私は翼はあるのに飛び方を忘れてしまっている変なドラゴンだから──ここに居座る理由としては『また飛べるようになるまではここに居てもいいよ』と告げれば、まあ、理由としてはちょうど良かったのである。



 なので、そうして私と『絵の女性』は何もない道の途上で、ちょっとだけ不思議な時間を過ごす事になったのだった……。



「…………」



 私はひたすらにパタパタと。



 『むぐぐー……』



 そして彼女はひたすらに、『むぐぐーっ』と気合を入れながら、空をどうにかこうにかして泳ごうとして藻掻いている様子が見える……。


 ……えっとー?それが、例の『ロム』なる人物から教わった対処法なのだろうか……?

 ず、随分と奇抜な、と言うか力技というか、なんとも言えない滑稽さを感じる対処法なのだな……。




 でも、ま、まあ、何が『正解』なのかなど、決まっているわけでもあるまいし。

 当然の様にその道も一つではないのである。そうして色々と試してみるのは良い事だろう。



 それに、そんな滑稽な彼女の姿を『認識できる』のもこの場には私しか居ないのだ。

 なので、私が騒がなければ何も問題はないのである……。



「…………」



 と言うか、私もパタパタの練習をしながら思うのだが──自分で言うのも難だけど、私の『怪しさ』の方が余程に問題だと思った。


 そして、先の己の行動の酷さを思い返し、今更ながらに自省しているのだ。



 ……咄嗟にやってしまった事とは言え、さっきの私……『普通に地面に文字まで書いていた』のである。

 だから『あまりにも怪し過ぎるだろ!』と、自分でも思ってしまったのだ。



 正直、文字を書いた理由としては、ドラゴンの発音だと『人』の言葉が出せなかった為、彼女には伝わらないだろうと思ってやっただけなのだが──。


 その代わりにしたって、咄嗟に文字を使ってしまうとは……なんだそのドラゴン。『なぜ使える?なぜ知ってる?』と問い詰められたら反論のしようもない。



 『絶対に変だ』と普通ならば疑われて当然である。

 ……いや、実際に彼女も凄く疑っていたのはこういう部分からなのだろう。



 今回の場合、私があまりにも普通の『ドラゴンぽさ』がないから、偶々功を奏しただけなのだ。

 『怪し過ぎて逆に怪しくない?』みたいな。

 『怪しさを隠す気が全くないから、逆に平気なのかも?』という判断を一周回って彼女がしてくれただけなのである……。



 まあ、『抱っこ男』も私に『太々しい』とか『人懐っこい』とか言っていたし、きっとそうなのだろう……。

 


「…………」



 それも『自称世界の支配者』だしなぁ……。

 『聖竜』は贈られた名だからまだしも、なんだろうか『世界の支配者』って……。

 


 一応、『大樹の森』とほぼ隣接する形で『領域』には新たに『新世界』──『世界』の代わりとなる場所を──を作ってはしまった訳だが……。



 その際私は、『領域』として『音』から奪った『世界との繋がり』を用いて、『世界』の全てをこちらに【転移】させ、向こうとの『繋がり』を断ち切り『干渉』をできなくさせただけなのである。



 なので現状、その『新世界』に居ながらにして『管理と運営』をしているだけに過ぎず、何かを『支配』しているわけではないと思うのだが……見方によっては『支配』とも言えるのだろうか?と少しだけ思った。



 ──その実、『抱っこ男』にしても、目の前の『絵の女性』にしても、ここが元居た『世界』から【転移】させられた場所だとは気づいていないらしいが……。



 例の、『ロム』なる人物が突如として消えてしまった理由には、もしかしたら私の【転移】の『対象指定』に漏れがあったか、『転移先』を間違えてしまった可能性が微妙に存在する事を、内心密かに私は気に病んでおり、彼女にはまだ伝えきれていなかったのだった……。




 無論それも、『新世界』を作った一番の理由が、私と『音』との間に『何か』があって、その『腹癒せでやってしまった』だなんて、絶対に言えないここだけの秘密なのである──。





またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ