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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第663話 改軌。




 空を見上げ──ビクッ!?とした私を見ると、視線の先にいる『絵の女性』は途端に『──ぱぁっ!』と、まるで花が咲くかのような笑顔を浮かべた。



 そして、私と『目と目が合った』と認識した彼女は空に浮かんだ状態で口を『パクパク』と動かし、何やら私に伝えようとしてくる。



 びっくりしたが……彼女の方は私を驚かせようとしていてやっている訳ではないようだ。

 寧ろ、『霞』の様なその身体では『声』を出すこともできないので必死な様子である。



 ……ただ、聞こえはしないものの──不思議と私はその口の動きだけで『読む』事ができたので、彼女が何を言っているのかは大体わかったのである。


 恐らくだけれども、彼女はこう言いたいらしい……。




 『──バウッ!わたしの事が見えてるのッ!?』と。


 『でもバウは『大樹の森』で赤竜ちゃんと暮らしてる筈だよねっ?なのになんでここに居るのっ!?喧嘩でもしちゃったっ?もしかして家出っ!?』と。


 『……わたしは『ロムとの繋がり』が切れちゃったみたいで、『大樹の森』に帰れないみたいなのっ。この場所からも動けなくて、近くにロムの姿も見えないんだけど、『大樹』の方でロムの事見なかった?』と。


 『あ、それとわたしの今の状態についてなんだけど、心配はいらないよっ。さっきまで『とある敵』と戦ってたんだけど想像以上に手強くて。まあ、その結果でこんな風になっちゃってるんだけど、ちゃんと戻れるから安心してねっ!』と。



「…………」



 ……正直、『霞』がゆらゆらと動く感じなので、その口の動きを『読む』のはとても大変だった。


 だからまあ、間違っていても怒らないでほしい。


 若干、『こんな感じの事を言っている気がする』と雰囲気で感じ取っている部分も多いのだ。


 ……でもまあ、そこまで大した問題にはならないだろう。



 それよりも重要なのは、彼女も『ロム』なる人物を探していることだ。


 ……恐らくは、先ほどの『抱っこ男』も言っていた人物と同一だろうとは思う。


 確か少しだけ気を取られている内に忽然と姿を消してしまったとかいう話だった筈だ……。



 だが、『抱っこ男』も彼女も、この場で『敵』と戦っている内に見失ってしまったのだとしたらそれは仕方がない事だとは思うのだが……ん?あっ、いや、どうやら戦っていたのは彼女だけ?ふむ、そうらしい。


 ……ただ、どちらにしてもいつの間にか近くに居たはずの『ロム』なる人物を見失ってしまったのだという。うむ、なんともまあ、不思議な話だった。



 ──ただ、彼女曰く、その『ロム』なる人物は絶対に彼女を置いてどこかに行ったりしないから、恐らくは近くに居る筈なのだと。


 ……それか、もしも近くに『ロム』が居ないのならば、その時は『大樹の森』に何かがあった可能性が高いから、自分も早めに帰らなければという事であるらしい。



 『心の繋がり』が切れた事により、『ロムの心』を感じ取れないのがとても辛いのだと彼女は語る。

 ……寂しさで『心』が潰され、絞めつけられそうな感覚もあるのだと。


 だが、そんな状態でも『ロム』の姿を一目見ればきっと直ぐに治る筈なんだと……。


 早く逢いたいと。



「…………」



 私はそんな彼女の話を聞き、恐らくはあの『絵』に描かれていたもう片方の男性がその人物なのだろうと察した。


 同時に、『ロム』なる人物は余程彼女から愛されているらしいことも分かったのだ。


 そこまで誰かに想われるとは、それだけで既に『ロム』なる人物はとても果報者だと私は思った。


 ……羨ましい限りである。



 ──因みに、彼女の『霞』みたいになってしまっている身体の事に関しては……『差異をまた一つ超えた影響』なのだと彼女は語った。



 『ロムが干渉されたのを感じて、なんとか魔法で反撃を繰り返してたら急にびびびっと来たんだよっ』と。



 どうやら難敵との戦いの中で、『大切な人』を守るために成長を遂げ、より魔法の感覚を研ぎ澄ませようとした結果、気づいたらこうなっていたのだとか……。


 そして、この状態については以前に『ロム』なる人物も同様の状態に陥ったことがあるらしく、その時の経験談を彼女は教えてもらっていたため、時間をかければ元に戻れると彼女は確信している様だ。


 彼女が『心配するな』と言うのはそんな理由からなのであろう。


 『差異をまた一つ超えた事で、見えなかったものがまた一つ見える様になり、感じ取れなかったものが感じ取れるようになったっ』と。


 また一つ『ロム』なる人物に近づくことが出来たと言って、彼女は心底嬉しそうな表情で語るのだった……。



「…………」



 ……ただ、当然の様に今はまだ『霞』の状態になったばかりなので、声も出せなければ、その場から移動する事も上手くできないらしく──。


 何より辛いのは『誰からも認識されなかった』事で、この状態がこんなにも『孤独を感じる』とは彼女も全然知らなかったそうだ。


 『世界』から完全に弾かれていると感じる状態なのだと。


 正直、私の事を見つけるまでは本当に寂しくて寂しくて堪らなかったらしい。


 『ロムとの心の繋がり』が途切れた事も相まって、号泣しそうだったと。


 『だから、バウの姿を見つけた時は嬉しさのあまり凝視しちゃったっ!』のだと。



 そもそも、この場に居る事を疑うべきなのに、彼女はそれを考えられないくらいに嬉しかったそうだ。


 『バウ』が居てくれて、本当に心から『ほっ』としたのだと……。



 なので、この周辺に『ロム』が見つからなかった場合──『大樹の森』に帰る時には、どうか彼女が動ける様になるまで待っていて欲しいと私は頼まれたのである。


 身体の再構成とまではいかずとも、『霞』状態でも移動できるようになるだけならばもう少しでいけそうな感じがするから、そこまで待たせないから、一緒に帰ろうという事らしい。



 ……きっと、彼女は今『独り』にはなりたくないのだろう。


 私も長らく『領域』として過ごしたばかりだったので、その気持ちが痛いほどよく分かるのだ。



 ──と言うか、『分かり』過ぎて、私は自分が本当に『バウ』なのかどうかも定かではないくせに、普通に頷きを返してしまっていたのである……。



「…………」



 ……そう。頷きを返す前から少々思っていたことだが、私は己が本当に彼女の言う『バウ』なのかどうか、正直あまり自信が持てなくなっていた。


 なんと言うのか、その『名』を呼ばれてもあまりしっくりと来ないのである。

 寧ろ、これならばまだ贈られたばかりの『聖竜』の名の方がしっくりと来る塩梅だった。



 体感で長い時を『領域』に徹していたせいで『元の姿』を忘れてしまっていた私だ。

 その『名』に関する違和感は無性にざらつきを覚える。



 彼女と『同じ絵に描かれている気がする』と言うそんな『想い』だけでこの姿になったが、根拠が何もないので地に足がつかなかったのだ。


 無論、彼女は未だその事に気づいていないけれども、もしも私がその『バウ』じゃない事がばれたら──彼女はどう思うのだろうか。


 私に対して怒るくらいならばまだいいのだけれども……私が『偽物』である事を知って、もし彼女が落ち込んでしまったらと思うと、それだけで罪悪感を感じてしまうのだ。



 ……だが『孤独の辛さを知る者同士』としては、ここで『違います!別ドラゴンです!』と否定してしまうのは──それはそれで憚られてしまう。辛さが分かるからこそ、逆にそう感じた。



 ならば、いっそ気づかれるまでは、このまま『優しい噓』を突き通すのもいいかもしれ──

 


 『──あれ?でも、そういえば、バウっていつの間に子供の姿になったの?少し前に見た時はもっと、大人の一歩手前くらいまでは大きくなっていた筈だよね?』



 ……あ、いや、いかーん。早速バレたのだ。『優しい嘘』終了です。



 あ、案の定、『人違い』ならぬ『竜違い』であることに彼女も気づいてしまったらしい。

 ……先ほどまでの『孤独』に苛まれた状態ならばまだしも、少し冷静になれば直ぐに気づけるそんな『まやかし』でしかなかったのだ。



 『……ねえ?あなたは誰?バウにそっくりだけど、バウじゃないよね?』



 ……そして、彼女は先ほどとは違う意味を込めて私の事を『ジトーっ』と見つめてくる。


 うっ、これは大変にまずい。


 下手な返答か行動をすれば間違いなく『敵対』まっしぐらな状況だと感じた。


 彼女は何らかの『敵』と戦闘をしたばかりであり──そんな場所にここには居る筈もない彼女の知り合いであるドラゴンにそっくりな存在が居たとなれば……そりゃ『敵側』の関与を疑って当然なのだ。


 ただ、私としても『絵の二人』に会いたくてここまで来た訳なのだから、その片割れである彼女にここで嫌われてしまうのは素直に嫌だった。そんなの悲しいのである。



 折角、運良く憧れの人物と知り合えて仲良くなれそうだったのに、ここで嫌われてしまいそうな状態は避けたかったのだ。



 だから、私は咄嗟に──



 『わ、我が名は『聖竜』──この『世界』の真の支配者であるぞ!』と、彼女にも見える様に地面に大きく文字を記して、別ドラゴンのふりをする事にしたのだった。



 ……いや、やってしまったのだ。


 でも、そこまでしてしまったからにはもう後には引けないと思い、私は──バサリ!と大きく翼を広げると、パタパタといっぱい動かして少しでも尊大に見えるアピールまでもしてみたのである……。



 『…………』



 ……無論、そんな私の事を見る彼女の視線が、『え?』と疑念を浮かべていたのは言うまでもない──。





またのお越しをお待ちしております。

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