第661話 皆既。
『…………』
名前も知らないその『絵』を見て、私はなんともいえない郷愁を感じていた。
それも、そこに描かれた二人……いや、正確にはその二人の傍には『白い竜』の姿もあったのだが、その全員が穏やかな『微笑み』を浮かべているのを見て、私はなんとも言えずに不思議と目が離せなくなってしまったのである。
いつまでも見ていられる……そんな『理想的』で素敵な『絵』だと思った……。
『…………』
……ただそうして眺めていると、また体感では数年くらい過ぎていたかもしれないが。
とある瞬間にふと気づいた事があるのだ──。
『──あれ?この絵、もしかしたら私の事も描かれているのではないだろうか?』と。
……と言うのも、正直それに気づくまでの私は『元の自分がなんだったのか』すら忘れていたのである。恥ずかしい話だ。
これも長年『領域』としての役割に徹したが故の弊害なのだろうか。
『己は領域である』という思い込みが、私の全てになっていたと思う。
だが、今はその『気づき』を得た事によって──その『絵』のおかげで──私は『音』を倒したら『自らの身体を再構成して戻らなければ!』と言う事を思い出すことが出来た。
見ているだけでこう、何とも言えない『ほっ』とする安心感に包まれ、優しくなれる気がするその『理想の二人』を眺めながら……。
『前へ歩き出そう』と勇気を伝えてくれる様なその『絵』の希望を体現するかの如く──私は魔力で己の身体を再構成したのである……。
「…………」
……ただ、そうして出来上がった私の完璧な『元の身体』は、『絵』の通り『綺麗で真っ白くプニプニした糸目の小さなドラゴンの姿』──だったのだが……。
あれ?なんでだろう……上手く構成できたはずなのに、どこか少し身体に違和感がある気がするのだが──もしかしてどこか再構成に『失敗』しているのか?
なんかだか妙に、動き辛い……不思議だ。
……ま、まあ、長らく『領域』として意識だけ存在となっていたのだから、久々に身体を構成すればこうして動き難く感じる事もあり得るだろうと楽観的に捉えることにする。気にしない気にしない。
それに、私の『心』は今、その『絵』の中の『二人』に早く会いに行きたい気持ちでいっぱいだったので、それ以外は些細な問題だと感じてしまった。
そんなことよりも、『戻ってきたんだよ』と早く伝えたくて、『理想の二人』を強く抱きしめたかった……。
「…………」
……だから、自分でもなんでそんな『勘違い』をしてしまったのかはわからないのだが──後々になってそれが間違いだったと気づくまで、私はそのまま『バウの姿』となって『世界』を歩き始めることになったのである。
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