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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
653/790

第653話 凝固。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



「いやだ」


「え?即答っ!?」


「……うむ」



 『黒雨の魔獣を討伐するために、お前たちの力を貸してほしい』と。


 そんな誘いをかけてきた『聖人』に対し、私は自然とそう返していた。

 ……いや、そもそも無理だろう。

 こんなにも疑わしい状況で、いくら知り合いだからと言っても直ぐに『協力する』とはならんのだ。



「……??」



 ──だが、断られた『聖人』の方は『心底意外だ』と言いた気な驚いた表情をしている。驚くな。


 本当は最初からそこまで誘いが上手くいくとは彼自身も思っていないだろうに……そういう『演技』というのか、『素振り』を自然に行うのが昔から彼はとても上手な男なのだ。



 色々と器用な男だが、ほぼ弁舌と『浄化』の腕前だけで世界的に名を遺した存在だからか……なんか色々とずるい側面も持っているのである。

 良い意味でも悪い意味でも、彼は相変わらず世渡り上手が過ぎると思ったのだ。



 ただ……そうは言っても私は、彼の事をそれ位では嫌わない。悪くも感じていない。

 寧ろ、私に対しては『その素振りがあまり効かない事』を彼も理解しているので、比較的明け透けに話をしてくれる。その為、どちらかと言えば好印象でもあった。



 そもそも彼の本質──というか、ただ『綺麗好きな男』であることを知っている私に対しては、彼も素の姿を出しやすい部分もあるのだろう。


 今、驚いて見せているその表情の裏にはちゃんと『この件、すげえめんどくせえからお前も手伝ってくれよ~』と言ってきているのが言わずとも伝わってくる。



「…………」



 ……まあ、手伝う気は微塵もないのだが。


 ただ、元々『人助けがしたい』と考える男でもない事を知っている私からすると、彼が『黒雨の魔獣』を討伐する為に行動する事そのものに対して、微妙な違和感も感じざるを得なかった。



 無論、『自称神々』の間にあるなにかしらによって、彼がその行動をまた強いられている可能性は無きにしも非ず……だが、なんとなく今回はそんな感じも薄いと感じてしまう。



 『自分の見える周辺だけは綺麗じゃないと気が済まない』と考える男が、本気で『世界を綺麗にしたい』とでも考え始めたのだろうか……?


 周りの彼に対する評価は『清廉潔白な存在』なのかもしれないが──私からすると今も昔も『自己満足に全力を尽くすだけの男』なのだが……本当に?



「…………」



 ……だが、それよりも更に疑問に思うのは、態々私に『協力を求める必要がない事』である。


 聞けば、『噂』だと『神々と神人』の戦いはほぼ『自称神々』の一方的な展開であり、彼らは私達に協力を求めるまでもなく『毒』を追い詰めている筈なのだ……。



 確りと、今も彼の背後にはその討伐を可能にする『使徒』という存在が居る──



「──『噂』では、君達は一方的に勝っていると聞いた。……ならば、私達の『力』などそもそも必要なかろう?」



 ──なので、私ははっきりと彼に『協力する気はない』と告げたのだった。



 ……まあ、向かう先は結局同じなのかもしれないが、それでも私達には私達の目的がある。なのでここは『拒否一択』だ。



 『心』ではエアもそれに同意している様なので、このまま断ってしまおう……。



「…………」



 ……だが、私のそんな言葉を聞くと、先ほどまではずっと朗らかな表情だった『聖人』はそこで急に真顔に変わった。そして、そのまま何かしら考えを巡らせると次第に顰め始め『……誰からそんな『噂』を聞いたんだ?』と、私に尋ねてきたのである。



 ……だが、はて?この話はいったい誰から聞いた話だっただろうか。

 『街』に居た時に普通に耳にした世間話だったような気もするし、どこかのギルドマスターから教えてもらった話だったような気も──。



「──『毒』からだよ。ロム」


「…………」



 ──『毒』から?……そうか?そうだっただろうか?


 ……うむ?いやいや、何故私はこんな大事な情報を忘れているのだろうか?


 上手くはわからないが、それをきっかけにして急に頭の中が痛くなってくる気がした。


 ……記憶が、滅茶滅茶になっている気もする。零れなくてもいい情報までもが零れてしまっているかのような感覚だった。



 内心、そんな『ありもしない痛み』とこの状況に混乱しそうになる……。


 『ロムッ!』


 ……だが、その間ずっと『心』の傍ではエアが『大丈夫だよ』『大丈夫だから……』と、励ましてくれているのが伝わり、なんとか私は正気を保てている。



「…………」



 正直な話、それがなければきっと今頃は混乱から『力』の制御があやふやになっていたかもしれないと思った。

 以前にも似た様な事があったとは思うが……それによって、何かが急に変わったりはしないと思うものの──もしもこの隙を突かれて襲われでもしていれば、間違いなく対処に困る状況になっていた事だけは確かだろう。



 寧ろ、こんな状況でそうなっていれば、下手したら『聖人達』と争うことになっていたかもしれない──。



「『毒』?……やはりか。『毒槍』が関わっていたな。ロム、気をつけろよ。あいつは非常に危険な存在だ──」



 ただ、幸いにもそんな混乱はエアのおかげで『聖人』達にも気づかれることはなかった。


 『……本当に、いつもありがとう。エア』と、自然とエアに対する感謝が『心』に想い浮かぶ。



 『ううんっ。大丈夫だよロム!ロムの事はわたしが絶対に守るからっ!!』



 ……うむ。その『想い』がなんとも心強くて、同時に愛しさがあふれそうにもなる。



 『愛しているよ。エア』と、溢れた愛しさはそんな素直な『想い』に変わった。



 『……ろむ』



「──何しろ奴は、この前の戦いで……」


「…………」



 ──だが、私達がそんなやり取りをしている間も『聖人』の話は言うまでもなく続いており……何やら大事な話をしようとしているのが雰囲気から伝わってきて、私達はそこで『ハッ!』として気づいたのだった。



 それも、そうして語られた彼の話はこのニ十年余りで起こった『神人達』との争いについてであり──彼ら視点の状況を神妙にも私達に教えてくれたのである……。






またのお越しをお待ちしております。

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