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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
652/790

第652話 攪拌。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『──よう!』と。


 そんななんとも気安い声掛けと共に、『聖人』は私達の方へと歩み寄ってきた。


 当然、それは私達にとってはあまりにも予想外の登場であり、まさかこんな場所で彼と再会する事になるとは微塵も思っていなかった為、しばらく呆然としてしまったのである……。



「…………」



 ……なにしろ、ここは本当に何もない道の途上だった。

 極々普通に私とエアが歩いているその対面から彼らがやってきただけなのである。

 そりゃ驚くなという方が無理な話だ。



 声をかけられるまでの私とエアは『心』の中で語り合いながら『毒と黒雨』の対処について話を煮詰めている最中だった事もあり、尚更にそんな時に声をかけられ『びくっ!?』と私達はしてしまった。



 それにしても、以前見た時は『雲』が人型を取っているだけだったのに……。

 久しぶりに会った『聖人』は一見して普通に『人』の姿をしていることにも驚きを覚える。

 さも当たり前にそこにいるが、その姿はほぼ千年前の生前の彼の姿そのままだったのだ。



「──ほらっ、いつものやつかけとくぞっ」



 ……ただ、そうして声をかけてきた彼の方は何も動じる様子もなく、驚く私達を見ると微笑みを浮かべながらまた(・・)意気揚々と昔の様に【浄化】の魔法を私にかけてきたのである。


 その魔法も、声も仕草も、その何もかもが懐かしく感じられた。



「……ああ」



 ……だが、当然こんな『偶然』があるわけがないと私もわかっている。

 恐らくは彼らがここにいるのは故意なのだろう。

 何らかの用件があって私達に近づいてきたは間違いないと予想している。



 ……ただ、今のところは、まだ彼には『敵意』のようなものは感じられない。

 それどころか以前と変わらずになんとも友好的な様子だった。



 まあ、彼以外の背後に控える六人は言うまでもなく怪しかった為、警戒を解く気は一切ない……。

 一応いつでも対処できる様にと、『心』でエアとも通じ合っておいた。



 ──因みに、素顔でいるのは『聖人』のみであり、背後に控える六人は皆なにかしらフードか何かで深めに顔を隠している為、表情もよく見えない……。



「……『久しぶり』か。一応は数十年前にあったばかりだが」



 そこで一応私は、本当に彼が『聖人』本人なのかを先に確かめる意味も込めて、そう尋ねてみる事にした。これでもし、彼が本当に私の知る『聖人』のままであれば、きっと……。



「ん?……ああ、でもあの時はまだこの『身体』じゃなかっただろう?『人』の形で会うのはそれこそ千年以上ぶりだと思うが。違ったか?」


「……いや、違わないな」



 ……ふむ、だがどうやらそれは杞憂であったらしい。一応は本人ではあるようだ。

 他の何かしらの存在が彼に成りすましているという可能性はだいぶ低そうだと感じた。


 ……まあ、先ほどの【浄化】の腕前も相も変わらず素晴らしかったので『聖人』でほぼ間違いないだろうとは思ったが、これも一応の確認だ。必要な事だと思う。


 正直、疑いすぎかもしれないとも思うが、このタイミングでやってきた彼らを信じることは私には無理な話であった。



「……なんだ?しばらく会わない内にロムの方は雰囲気がだいぶ変わったな?あと話し方もマシになった」


「そうか?自分ではわからんが……」



 ……すると、逆に彼の方からそんなことを言ってきた。

 でもなんだ?そんなことが聞きたいわけではないだろうに……。これが世間話というやつか?



「……それに、『人との繋がり』を大切にしているとか?周りの視線を気にするようになったらしいじゃないか。俺は良い変化だと思うぞ」


「…………」


「……ふふっ、そう警戒しなくとも『泥の魔獣』と争う気はない」



 でもまあ、そうして一瞬でも気を緩めていると、途端にそんな怪しさが混じるなんとも言えない発言をしてきたのである。醸してきたと感じた。



 ……それに、知らぬうちに随分と私の情報も仕入れてはいるらしい。

 『噂』で知っただけにしては、随分と詳しい情報をお持ちの様であった。油断がならぬ。



 無論、それによって彼に対する私達の警戒は強まる事になった。

 ……でも、そんなことをする『利』とはなんだろうか?とも考える。


 ただ、そうすると逆に、彼の方も私が警戒を強めた気配を敏感に感じ取ったらしく──直ぐにそう言って『争うつもりはない』と否定してきたのだった。



 だが、それならば彼の目的はなんだろうか?

 ……うむむ、考えれば考えるほどに怪しく思える。

 ……やはり、何かしら企んでいるようにしか見えないのだ。



 でも、だとすれば──



「──後ろの者達は?……『使徒』とかいう存在か?」


「……おお。その呼び名も知っているのか──そうだな。俗にいう彼らは『勇者一行』というやつだよ」


「『勇者一行』?……なんだそれは」


「……まあ、お前ならばすぐに察するだろうが、あれだよ『人助け』の集団って事で色々な国や人々から期待されている存在な訳だ」


「……なに?」


「そして、俺たちの主な目的には『世間を騒がす魔獣の討伐』も含まれており……ぶっちゃけると『黒雨の魔獣』を今は狙って行動しているわけなんだが──そこでだ。どうだロム、よかったら手を貸してくれないだろうか?」


「…………」



 ……すると『聖人』は、なんとも朗らかな表情を浮かべると『黒雨の魔獣討伐に、お前たちも参加してくれないか?』と、普通に私達へと誘いをかけて来たのであった──。






またのお越しをお待ちしております。

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