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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第651話 沈殿。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『吾輩』は立ち上がるとそのままの足で『街』から去っていった。


 そして『吾輩』も居なくなり、『街』も魔法から解いて眠りから覚ますと、また普段通りの姿を取り戻したのだ。


 ……ただ、もっと此度の件を『異変だ!』として騒いでもおかしくは無い筈の状況なのだが。


 まるでこうなる事が『最初から予定されていたかの様に』あまりにも自然に日常が再開されたのである──。



「…………」


「…………」



 ──無論、私とエアは『何かが変わった事』をちゃんと感じ取ってはいた。


 ……正直、私の方はあまりよく覚えていない事も多いのだが、『異変が起きている』という現状に対しての認識に関しては間違いないと思っている。



 証拠らしい証拠はないのだが、一応は『世界』と肌に触れる魔力の感覚のズレというのか、妙なざらつきを覚えてもいた。



 ……まあそんな感覚頼りの証拠ではあるものの、私の魔法使いとしての『経験』がそれだけで十分だと囁いてくれている。



 それに、そんな私と比べてエアの方はもっと顕著に『確信に近しい何か』を察しているらしいのだ。

 ……あの日から、『切り落とした腕』が『世界』に溶け落ちるかのように消え去った時から──エアの『心』は何かに震えている。



 一見したらその姿は普通通りには見えるかもしれないが。

 ……今のエアの『心の内』は外見からは想像もできないほどに荒れて嵐が舞い上がっていた。



 常に叫び出したい衝動に駆られるくらいに、その『心』は複雑で何かに押しつぶされそうになってもいる……。



「…………」



 『心が通じ合ってる』からこそ、私にはそれがよく伝わってきた。


 ……そして、私と『通じ合っている事』のみを支えにして、エアは何とか『心』を守れている。

 現状は、またぎりぎりで踏ん張れている状態ともいえるだろう。



 だが、そんなエアに対して、私ができることはとても少なかった。

 というのも、エアが『何に』対して荒れているのか、私には『敵』が何なのか正確によくわからなかったのである……。



 『心が通じ合っている筈』なのに、エアの『心』には聞こえない部分が広がっていくようで、その部分が私から隠れてしまっていた。



 ……そして、ずっとエアは『心』の中でその『何か』に対し、『また奪うつもりなのかっ!!』と必死に叫んでいるのである。



 同時に『絶対に奪わせない!守って見せるっ!』と、そんな固い決意も抱いているのは分かった。



 でも、そんな風に苦しむエアを私は見ていることしかできなかったのだ……。

 思考を向けると、ただそれだけで不思議とまた『声』すらも出せなくなってしまうのである……。



 エアに悩み事を問いかける事すら……いや、それを問いかける資格そのものを全て失ってしまっているかのようだった……。



「…………」



 だが、そんな状態の私でも、エアは想い続けてくれているのが痛いほどに分かるのだ。

 私が知らぬ『私が手を出せぬ理由』をエアは理解しながら受け入れている。


 自らは足掻き続けながら、私を愛し続けていた。

 『ロムを守らなければ……』と。『ロムを一人にはしない……』と。


 そう強く胸に抱きながら……ただ一人で、エアは『何か』と戦おうとしているのだ。抗おうとしているのだ。



 ……だが、なんとも情けないことに。

 最愛の人がそんなにも苦しんでいるのに、私の身体は何もできない状態に陥っている。

 そんな自分が、狂おしいほどに憎ましかった……。



 それも『心』は苦しいと理解しているのに、それに対して『何をすればいいのか』という部分が『空虚』に包まれてしまっているため、対策を考える事すらままならない。

 『考える事』すらできない状態が、尚更に辛さを倍増させたのだ。



 『ロムは、わたしを自分の領域で包んでくれている。だから、わたしは干渉されるのを避けることができたのっ。向こうからの直接的な繋がりを受けなかったから、あの時も普通にあの『声』が聞こえたの……でも、ロム。その代わりにロムはまだ──』



 ……そうして今も、エアは私に対して何かを伝えてくれている気がする。

 なのに、私に聞こえるのは──



 『…………』



 ──という『ノイズ』か『静寂』のみであった。



 ……だが、ずっとそうして何かをエアが私に伝えようとしてくれているのだけは痛いほどにわかるのだ。


 ──でも、聴こえない。何も聞こえなかった。


 その『音』は急にかすれて消えていってしまう。




 そんな、なんとも難儀過ぎるのが私の現状であった……。



「…………」



 ……ただまあ、私はそれに対して落ち込むことはない。

 それでも結局は仕方がないと思うことにした。


 こんな現状であったとして、それがどうにもならない状態だとしても、最終的には自分にできる選択を何か選ぶ以外にする事はないのだと、私はそう割り切って他の行動に移すことにしたのだ。



 ──要は、これに関する対処は一切考えずに、今は別の問題に取り組もうという話だった。

 言わば問題の先送りであり棚上げでもある。……ただ、それしかないと思ったのだ。



 今更言うまでもない話だが、『立ち止まったままでいる』事の方が私は性に合わない。


 なので、『歩き出そう』と単純に思ったのだ。



 『聞こえないなら聞こえないなりに、見えないなら見えないままに、己の道を進むだけだ』と。



 私が立ち止まるための理由には、それだけでは足り得ないとも思った。


 ……結局、どんな悩みだとしても、それをいつまで悩んでいても変わらないと感じた時にはこうするしかないのかもしれない。


 場合にもよるだろうが、『待っているだけで変わらないと感じたら、それはきっと動くべき時なのだろう』と、そう単純に考えることにしたのだった。



「…………」



 無論、今回はまさにそんな『悩むだけ時間の無駄』だと感じたが故である。

 その上で、エアが困っている現状に対し、何でもいいからとにかく行動したかったのだ。



 ……例え、凄い回り道になってしまっても構わない。

 『あの時ああしていれば……』ではなく、些細な事でも良いから『為になりそうな事はとにかく何でもしてみよう!』の精神である。



 よって、何らかの『異変』を感じている状況ではあるが、私はそれを一旦無視し別方向から切り込むべきだろうと。



「…………」



 そんな訳で、私が選択したのは『吾輩』の事について改めて考えることであった。


 というのも、此度の件は明らかに『毒と黒雨』の関与が疑えるのは今更な話で。


 そして、そんな『毒と黒雨』に繋がりがあったと思えるのは、唯一『魔眼』を手に入れた『吾輩』だけだったからである。



 無論、『毒と黒雨』からすると『吾輩』に協力しただけで『泥の魔獣』と敵対したわけではない!とそんな風に考えているだけかもしれないが──『吾輩』から少しだけ話を聞いたところ、『震える木漏れ日』について尋ねてきた者が『泥の魔獣の弱点』なる話もちょろっと教えてきたというのである。



 ……そして実際に、その話の影響もあり『吾輩』は『腕』を手に入れる為に『人質戦法』をとったのだとか。



 『『泥の魔獣』は『人』を無視できない。その繋がりを大切に考えている』と。

 『そして、決してエアには手を出してはいけない』と。



 ……その二つを活かし、気を付ければ、『魔眼』を手に入れた『吾輩』ならば『泥の魔獣』に負けることはないとか、そんな風な世間話を吹き込まれたらしい。



 ──正直、その話を聞いた時にはなんとも嫌な着眼点だし、やり口が汚いとは感じた。

 ……ただ、なんとなくだが、この嫌らしさには『毒』っぽさも感じている。



 要は、こんな大した事でもない情報を二つ教えるだけで、全く別の狙いを引き出したかのように感じるのだ。


 『魔眼』を手に入れた『石持』である『吾輩』が、その『腹を満たす』為に魔力を求める事を最初から予想していたのであれば、自然と目につく『街の人々』や『魔力を生成している泥の魔獣』だなんて存在が『吾輩』に狙われないわけがないと、誰でも容易に想像がつく話である。

 


「…………」



 無論、先にも言ったが『毒と黒雨』からすれば『震える木漏れ日』に興味があっただけで世間話の一環でしかなかったと、そんな『十分過ぎる言い訳』までもが用意されている訳だ。……ならば、『やらない手はない』と『毒』が考えても全くおかしさはないのである。



 そして、そんな言い訳を盾にして、確りと本音では厄介な『魔眼』に対して『泥の魔獣』がどう対処するのかに注目し、同時にどれだけ私達や『吾輩』が『弱るのか』もきっと遠くから観察していたに違いない。



 ……実際、今は『神人達』は『神々』との争いでだいぶ大きく消耗しているとも聞いたし──あわよくば私達と『吾輩』がぶつかることで両者が弱り、その隙を突いて『私達も吾輩』も『神人側』の戦力補充に充てたかったのではないだろうか。



 ──とまあ、そんな感じ事を私は色々と考え続けたのだった。



「…………」



 ……だが、それらもまた結局のところは憶測の域を過ぎず、実際に相手に問うてみるまでは正解など出てくることもないだろうと思い至り──『ならば、今度はこっちから乗り込んでやろうか……!』と、私はさらに極端な発想をした。



 正直、一方的にやられてばかりでは『疼く』のだ。

 牙を剥かれたならばこちらも牙を剥くべきだろう。

 なので、エアを誘い、一緒に『毒と黒雨の本拠地を一度真剣に探してみようか!』という事になったのであった。


 ……精々今度はこっちがこっそりと赴いて、向こうも大いに驚かしてやろうではないかと。




「…………」




 この『街』は正直過ごしやすく、今は不気味なほどに平常状態でもある。

 ……だが、先も言った通りこのまま『ジッ』としてはいられなかったのだ。



 エアの『心』の状態だけが気がかりではあったが、なんとなく其方に関してもここで待っているだけでは何かが好転する気は全くしなかった──なので、ちょうど良いとも思える。



 『心を通じて』その考えを知ったエアも『うんっ!わたしもそれが良いと思うっ!』と言って賛同してくれたので、私達は『毒と黒雨』を探す為に旅出つ事にしたのであった──。



「…………」


「…………」


「──よう!久しぶりだなっ!!」



 ──だがしかし、そうしていざ『毒と黒雨』を探す為に『街』を出た私達は……それから暫くして直ぐに、思いもしなかった『七人(・・)』に遭遇し、激しく驚くことになるのであった。



 ……でも何故だ?どうしてお前がここにいるのだ……?


 『聖人』よ──。




またのお越しをお待ちしております。


(今回で恐らくは『累計二百万文字!』に到達致しました!改めまして皆さんには深い感謝を!)

『いつもありがとうございます』(=脳内に直接!)

(記念、2021/11/04:2,000,939文字)

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