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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第65話 発。



 噂によると最近、この街で凄い事が起きたらしい。



 情報通からの話によると、この街に密かに巣くっていた大きな犯罪組織が、次々と摘発されているという話であった。

 そして、その犯罪組織が行っていた悪事とやらには、どうやら幾つかの貴族家も関与していたとかで、ここ数日この街の兵士達は休む暇もなく、凄く忙しそうにしているそうだ。


 ……まあ私達のやる事はいつも通り変わらないので、皆その話を聞きながら『へーー』と微妙な相槌を打ち、今日ものんびりと『お裁縫』に勤しんでいる。



 ただ、私はその騒ぎで、少しだけ良い事があった。

 それはエアにドレスを作ってあげられるようになった事である。

 最初は此処とは違う場所にて、とある貴族用のドレスを依頼された熟練のお針子さん達がこの度新作のパーティ用ドレスを貴族の注文で製作していたのだけれど、その貴族がいきなり注文を中止してしまい、ほぼ完成間近でそのドレスがいきなり製作中止の上、納入先が無くなってしまったのだとか。


 かなり良い出来のドレスだったらしく、これならオーナーもその貴族以外に販売できるだろうと判断し、最後までドレスは完成するに至ったのだが、どうやらそのドレスを注文した貴族の家が中々に悪い事に手を出していたらしく、その家が注文したドレスなど縁起が悪いと他の貴族家は良い顔をせず、貴族様が断った品を手にして変に目を付けられたら困るからと、お金のあるご贔屓の商人達も全く見向きもしなくなってしまったのだとか。



 このままではドレスに費やした分の経費が丸々赤字になってしまうと頭を抱えたオーナーは、最終的に何故か私の所にそのドレスを持って相談してきたのである。



「すみません。ロムさん、ドレスって興味ありませんか?エアちゃん用にお一つ。デザインのお勉強にも──」


「──買います」



 即答だった。

 オーナーが話し始めた段階で、既に金貨の入った袋を取り出していた位、即答だった。これにはオーナーもにっこり。


 はっきり言ってドレスには何の罪も無い。縁起が悪い?そんな事、私は一切気にしない。

 ドレスはドレスだ。それは何も変わらない。

 私が魔法使いであり続けたように、このドレスもドレスとして作られて、これから先もドレスとして存在していく。

 誰かを喜ばす為に生まれたものが、愚かな理由で消えようとしているのなら、私がそれに手を差し伸べても構わないだろう。このドレスには最大限に活躍してもらうことにしよう。



 私はそのドレスを魔力で解析し、デザインを覚えてから、エアに合うようにリメイクして渡した。

 小さな家の中で、パーティドレスに初めて身を包んだエアはクルクルと回って喜んでくれる。

 その髪色と同じ深い紺色の衣装は、これまでエアが着てきたどれよりも軽いのだろう。彼女の足取りはまるで『天元』に風の魔素を通しているかの様に滑らかだ。衣装が笑うかどうかは分からないが、エアの笑顔をみてドレスも笑っているのではないか、そう思う程にその姿はとても似合っていた。



 ──さてそうとくれば、折角ドレスを着たのだから、後はそのドレスを活かす場所を用意すれば完璧じゃないかと誰でも思うだろう。……私も思った。なので用意しました。レッツパーリィ!



 ……まあパーティとは言っても、お針子さん達の懇親会や慰労会と言った体でのお話なのだが、オーナーと話をしてちょっと大きな会場を借りて、普段からオシャレに花を咲かせている彼女たちの本気を披露してもらう場を作ってみようと計画した。


 因みに、これはドレスを購入する際に、少し色を付けて買った私からオーナーに出した提案でもある。


 会場は元々はどこぞの貴族が持っていた大きな屋敷の一つがたまたま空いていたので、商人を通して、そこの場所を一日レンタルできるように押さえておき、料理人や演奏家、元はそこの貴族家で働いていた現役の給仕などの手配をオーナーに商業ギルドを通して確保して貰った。それらの資金は全部ドレスを買った時に色を付けた分で足りたらしい。



「いやあの、ロムさん、これでもまだ頂き過ぎなんですけど……」



 一向に構わない。それは今回頑張ったもの達、ドレスを作った者達やオーナー含めて普段世話になっている皆に少しでも還元できればと思っただけなので、それに役立てて欲しい。

 そして良ければ、毎月とまでは言わないが定期的に、こうした機会を貴方の下で働くお針子さん達に開いてあげて欲しいのだとも私は伝えている。



 彼女たちは普段から自分たちの作る服に熱意を持っている。それを着た時の自分の姿も想像しながらどうなるのだろうかと楽しみながら働いているのだ。

 ……私はそんな彼女たちの姿をいつも近くで見てきたので、こんなイベントがあれば喜ぶのではないかとずっと思っていた。



 まあ、何よりもエアが友と呼べる者達と一緒に着飾って楽しそうに笑い合う姿が見て見たかった。

 私がこれを計画する一番の理由も、実はそれである。



「……本当に、それだけなんですか?」



 もちろんそれだけだ。それ以外の理由は必要ない。やりたいことをやる。ただそれだけの事であった。

 オーナーがあのドレスを最後まで作りたいと、これは完成させるべきだと思ったのと同じ理由である。


 ならばその次は、その完成させたドレスが、どれだけ人に喜びを与えるのか、一緒にその先まで見てみたいと思わないか?と私がそう尋ねると、オーナーも笑顔を見せて答えてくれた。ただ一言『見たいです』と添えて……。





 ──広い会場に、軽快な音楽が流れる。至る所に豪華な食事が並び、それを着飾った女性たちが楽しそうに話し、時に踊ったりしながら思い思いに過ごしている。

 普段は裏方として服を作って支えてきた彼女たちの、いつもとは少し違う晴れやかで華やかな日常。

 『こんな贅沢、貴族様にでもなったみたい』と喜んで貰えれば、もうそれだけで充分に意味があり、このパーティを開いて良かったと私達は心から思えた。



 それに、日頃からオシャレに気を配って来た彼女たちのこのイベントに対する熱量は半端ではなかったらしく、それぞれが思い思い自分に合うと思った衣装を、みな自作(・・)して奮って参戦して来てくれている。材料や不足した分の資金等は事前にオーナーや私に相談済みで、各自は本気の全力で夢中になって作ったらしい。


 普段仕事場で見る姿も素敵だとは思うが、こうして服を変え、アクセサリーを身につけ、お化粧で彩った今の彼女達の本気の姿(・・・・)を見ると、オシャレに疎い私にもその情熱が伝わってくるようだ。心から素晴らしく思う。



 ……結局、その本気具合に当てられたのかオーナーも私が渡した資金以上に、彼女達に投資してしまったそうである。

 ただ、聞くところによると、このパーティで彼女たちが使ったドレスを目録にして暫く宣伝で使っていく予定なのだという。

 これを目にした者達が、気に入ったドレスを注文してくれるようになるだろうから、不足した分の回収は何の問題もないのだと、オーナーは微笑んで答えていた。



 ──その言葉の意味する所とは、実は今やっている会場が、街の大通りや人通りの多い場所に面しており、オープンテラスと庭、それから会場奥までの全部が街中の人達の目に触れる様になっているのであった。因みに、元々はそうなってはおらず、多少は手を加えている。


 ただ、その効果は絶大だったようで、気になる道行くご婦人達や、あまりの華やかさに目を惹かれて集まって来てしまった男性諸君の注目はずっとこの場所に注がれ続けている。



 現に、興味を持った老若男女が頻りにこれは何の集まりなのかと尋ねてきているので、オーナーの思惑もそう遠くない内に実現するのであろう。

 『上手くいって仕立て屋が繁盛してくれればいいですが……』などと彼女は謙遜していたが、本人には確信が近いものがあるのだろう。横からみた彼女の笑顔もまた会場の女性達に負けない輝きを放っていた。



 ……何よりも、私にとってもこのイベントは大成功であった。

 エアが年相応のお針子仲間達と楽しそうに話しながら踊ってたり、美味しい食事をとりながら笑い合っている。

 そんな楽しそうな姿をのんびりと、名ばかりの会場警備員をしながら精霊達と一緒に眺めていた。

 もうこれだけで幸せを感じる。ほんとやって良かったと私は思えた。



 因みに、会場警備とは言っても不届きな輩が出没しそうな気配を感じたら魔法でお帰り頂いただけなので、本当に何もしていないようなものである。



 ただ、不思議な事にちゃんと警備はしていた筈なのだが、私の警戒に反応しなかった者達はしっかりとお針子さん達と良い仲を育めていたらしく、後日、情報通からの話によると、かなりのカップルが成立したのだとか。彼女も良い人が見つかったそうで、かなり感謝された。良かった良かった。




 ──後年、このイベントは毎年続く事となり、この街全体の一大イベントとして発展し周囲へと認知されていくのだが、まさかそこまで広がるとは、この時はまだ誰も思わなかったそうだ。



またのお越しをお待ちしております。

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