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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第644話 乾坤。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『自分にないものを人は羨む』──そして、己が求める『理想』に対して『人』はいずれかの行動をとるのだろう。


 『遠くから眺める』か、それとも『手に入れるために道理を曲げる』か。



「…………」



 ……無論、簡単に『手に入るもの』はこの中には含まれないのだろう。

 本当に『手にできないもの』、『欲しくて欲しくて堪らないもの』……その『渇望』こそがこの場合の鍵となる。



「……吾輩は、ずっと『感覚派』の魔法使い達の事が嫌いだった。憎んでもいた……」



 そして『詠唱派』である『吾輩』は、日夜長い時間を費やして勉学に励み、研究を重ね、その末に積み上げていった己の『力』に強い誇りを抱いていたのだという……。


 内心、それに対して『感覚派』とはなんとふざけた連中なのだろうかと、憤りも抱いていたらしい……。



 『……ただ思い浮かべただけで魔法が使える』と?

 『適当に、自由に、想像のままに魔法が使えてしまう』と?



 『……なんだそれは。ふざけているのか』と──『吾輩』はぎらついた笑みを浮かべて、秘めていた胸の内を私へ向けて語りだした。



「…………」



 ……だが、いつしかそれは言わば『羨望の裏返し』でもあったと、彼は語る。



 励めば励むほど差が分かるからこそ、怒りが募るのだと。

 費やした時間の分だけ次第に滑稽になっていく感覚があるのだと。



 こんなに積み重ねても、『感覚派』には到底及ばない現実に、彼はどうしようもない空しさを覚えたそうだ。

 長年そんな気持ちを抱きながらも『詠唱魔法』にしがみついて生きてきたそうだ。



 研究……研究……研究……。

 ただただ『詠唱魔法』を極めんがために、『吾輩』はのめり込み続けた。

 ……魔法の奥深さを知れば知るほどに、『詠唱』だけの限界を感じる日々を分かりながらも生き続けた。



 もっと高みを目指したいのに、上にはいつも『奴ら』がいる。

 どれだけ努力を積み重ねても、『感覚派』であるというだけで幼子にすら魔法の才で負け、置いて行かれるのだ。


 そこに感じる理不尽さは、もう表現しようもないほどだったという……。



「だが、それなのに『感覚派』に憧れを持つ自分の気持ちも拭えないのだ……なんとも心苦しかった」



 基礎にあるのは『魔法が好きだ』という感覚だったからだろう……。

 『詠唱魔法が上手くなりたい』という純粋な思いは、『感覚派』を否定する為のものではない……。



 でも、その好意に報いてくれない魔法がいつの間にか憎く感じられた。

 己だけで『詠唱』の研究を続けていても、停滞がずっと続くばかりの日々を過ごした。



「……だが、そんなときに貴方達が来てくれた──」



 ──皮肉なことに、そんな状態に終止符を打ってくれたのは憎らしい『感覚派』の魔法使い達だったと。


 それも、今まで見たことない様な魔法使い達であり──『魔法の権化』ともいえるような存在だったと。



 『感覚派』でありながら、『詠唱魔法』にも知見が深い。

 私達との話し合いは『吾輩』にとっては夢のような時間だったと。



 『貴方達のような魔法使いに出会った後は、『感覚派』にもこんなに尊敬できる存在がいることを知った。見直したのだ』と。



 長らく停滞していた研究も思わぬところから進展を得て──『震える木漏れ日』という新たな可能性を見出すことができた。



「そして、『震える木漏れ日』は吾輩にとって魔法に対する価値観を変えてくれた」



 ……見えないけれど、気づかないだけで『力』はいつだって傍にあったのだと。


 『吾輩』は『詠唱』にも可能性を感じ、己にも可能性を感じることができた。


 生粋の『感覚派』にはなれないが、『詠唱』やその他の方法を用いれば、気づき次第で『感覚派』にも近づける事も確信したらしい。



 『吾輩』は、『震える木漏れ日』という術式を得たことで、見えない『音』に意味を与え魔法にする術を知った。



 ──そして、それをきっかけに、ここ最近は『見えない『光』にも意味を与えれば、魔法にできるのではないか?』と思い至り……。



「……それが、吾輩の『瞳』と『在り方』を変えてくれたのだ」



 ……そもそも『感覚派』は『どうやって魔法を使っているのだろうか?』という長年胸に秘めていた疑問についても考察が深まり──『吾輩』そこに対する『答えの鍵』に繋がるような『気づき』を得たのだという……。



「…………」



 ……つまりは、『感覚派』も結局は『詠唱派』や周りの者達が見えていないものに対して、『干渉』して魔法を使っているだけなのではないかと。


 その『干渉』が言わば、『詠唱』の役割を果たしてくれているだけなのではないかと。


 ……ならば、あとはその見えないものを自分も『知覚』し、『干渉』さえできれば、『感覚派』の使う魔法と似たようなことができるのではないかと──。



 そして、『吾輩』はその『知覚』に対するきっかけを……『震える木漏れ日』に感じたのだという。



 もっと言うのであれば、『吾輩』は『音』も『光』も同じ類のものであり、『震え』が基になっていると個人的な見解を得たのだと。



「……この世界は見えていないが、色々な物が常に震えている」



 ならば、その『震え』に『干渉』ができればいい。

 そして、そこに意味を与えるための方法は『震える木漏れ日』にて既に『吾輩』は得ているのだと──。



 そうすれば、あとは『知覚』する為の『力』さえ手に入れればいい。

 ……それさえあれば、いくらでも『干渉』することができる筈だと。



「……そして、運良く吾輩には『女神』が微笑んでくれた」



 たまたま(・・・・)、『震える木漏れ日』について知りたいと訪ねてきた者の中に、『吾輩』の望みを叶えてくれる『夢のような存在』が居たのだという。


 そして、その存在は『ニタリ』を微笑むと、彼へと一つ劣化した『意志のない石』を与えてくれたらしい……。



 一見するとそれは『真っ赤に燃えるような赤い石』であり、それを体の中に埋め込むことで、今までにはない存在になれるのだという──そんななんとも怪しげな話に最初は忌避感があった。


 だが、詳細を聞くとそれを受け入れる事で、『今までにはない感覚を得ることができるようになる』と知り、思わず飛びついてしまったのだとか……。



「……だが、それによって吾輩は求めていた『知覚』を得た」



 その際に彼は『赤い石』に対して一つだけ改良を施して貰い、『瞳』用に埋め込で貰える様にして貰ったらしい……。


 そして『知覚』を手に入れたことで、『吾輩』は彼の求める『詠唱魔法』を完成させたのだと。


 つまりは、『魔眼』こそが彼の求める『力』の具現であり──見えないものを見て、干渉したいものに干渉する『力』──新たなる『詠唱魔法』の発展形なのだという……。



「……まあ、言ってみれば『目で語る魔法』とでも言えるのか?くくく、こじ付けに近いが、吾輩にはこれがしっくりくる」



 ……現状はその『赤い瞳』を介して『震える木漏れ日』を用い、対象に限定的な影響を与える事しかできないと彼は語るが──最早それは『感覚派』の使う魔法とほぼ変わらないと感じているようで彼はとても嬉し気であった。



 『想像するだけで魔法を使う』とまではいかないが、それに近しい事ができるようになった。

 ……馬鹿みたいに考えもなく魔法を使う『感覚派』などよりも、それを軽々と超える凄まじい『力』であると。


 『これを喜ばないはずがない』と『吾輩』は熱く語りながら、歓喜に震えていた……。



「…………」



 ……例えその身が、『石』を得たことで『石持』となってしまってもだ。

 既に『人』とは異なる存在になってしまったとしても、彼は一切構わぬと微笑んでいた。


 『渇望』に見合うだけのものが──十分に価値があるものをその手に入ったのだからと。

 


 ……逆に、この身は死した者達とほぼ変わらないが、言い換えればもう死ぬこともないのだと。

 痛みも感じない、恐怖もない……そのなんと素晴らしい事かと。



「……ただまあ、一つだけこの状態に問題があるとするならば──この『力』は酷く魔力の消耗が激しい……」



 ──『だから今、酷い空腹なんだ』と、『吾輩』は『ニタリ』と微笑みながら、私の身体を上から下まで『美味しそうに』見つめてくるのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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