第642話 目隠。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
私達に好意的であった『街』の者達同士が言い争い、その果てに『死者』まで出してしまった……。
それも、きっかけになったのは私の発言であり、その原因は説明を疎かにした私の責任だとも言える……。
「…………」
……ただ、正直言えば『こうなるなんて誰にも分かる筈がない……』とは思った。
無論、これで責任を感じるのは流石にお門違いでもあると。
結局、如何に関係していようとも、争いは争いを起こした当事者同士の責任が一番重いのだと。
だから、例えそれがどれだけ仲の良い友人であったとしても、私にとって『大切な者』ではないならば、この件に関して私達がこの先介入するのも避けるべきだと考えている。
もし介入するのであれば、その時はそれこそ全てを背負う覚悟をもって臨むべきであると。
そうでなければ、中途半端に首を突っ込む事にもなり、余計に争いの規模を広げるばかりか、ただただ場を荒らす事になってしまう可能性も十分にあり得るのだと。
……その為、線引きの見極めを違えてはいけないのだ。
不用意に近づくだけでも危険に巻き込まれる可能性は高い。
寧ろ、当事者本人達だけで解決した方が一番被害が小さく収まるまであるだろう。
他人の戦争の尻拭いをするつもりならば、解決能力の有無だけではなく、相応の理由と決断も必要なのである……。
「…………」
……だからこそ、逆に私は介入しようと思い立った。
「……ろむ?」
……すると、隣からはエアの『本気なの?』という疑いの眼差しと『心の声』が漏れて来たが、私は本気だった。大丈夫。これは冗談とかではないのだから。
無論、いつもならばこういう場面には手を出さないのが常ではある。
……だからエアがその疑念を抱くのは尤もだった。
だがしかし、率直に言って今回は既に無視できない不可解な部分が現出してしまっているのだ。
……聞けば、『死者』は既に干乾びて命を失っているらしい。
それはあからさまに、『死者』が『黒雨』の被害にあっていると思われる状態だった……。
ならば、先ず『毒と黒雨』がこの件に手を出しているのかを確かめる必要があると私は判断したのである。
もし加害者が本当に『毒や黒雨』であったならば、『街の住人達』だけでは恐らく手に余る事だろう。
……『争うつもりがない』と『毒』とは話したばかりだったが──こうなると逆に怪しさも増してきた。
そもそもこの件が起こる少し前に『嘘の暴動』が『余所の街で起こっている!』と告げて来たのもあの『毒』だったのだ……。
これらが全くの無関係だったと考えるのはどうにも腑に落ちない……。
寧ろ、これらを狙って仕掛けて来ており──『遊んでいる』気配すら私は感じている。
『最初のはただのフェイクだったけど──さあ、お次はどうするのかな?』と。
そうして見えない相手が陰でクスクスと嫌な笑みを浮かべてそうな雰囲気を私は想像した……。
「…………」
……そんな嫌なざわつきに『心』がくすむ感覚だった。
ただ、こういう場合においては特に初期の事件規模だけで判断し『どうせ大したことはないだろう』とか、『直ぐに収まるだろう』とか、楽観的に考えていると手遅れになる事がよくよくあるのだ。
だから、これまた勘でしかないものの──『今は動くべきである』と私は判断した。
……積極的に動こう。本当に相手が『黒雨』であった場合、『噂』通りなら下手をすればこの『街』も一晩で滅びかねないのだから──。
「…………」
──そこで私達は先ず当事者達から話を聞く為、『死者』が出た時に現場で実際に周りで見ていた者達と話をしてみる事にしたのである。
だがそうすると、その者達の話を聞く限りでは、更に何とも不思議な事が分かったのだった。
……と言うのも、未だ加害者である犯人が誰だったのか、正確には断定ができていないそうで──
最初の被害者が『エア推し』の人物であり、ちょうど事件が発生した当時は『ロム推し』の面々とも件の『私の噂』について言い合いしている最中だった事から、『ロム推し』のファンの中に犯人は居ると思われているらしいのだが……。
聞けば、その最初の被害者達とほぼ同時に──時間にして数分も経たずに──加害者周辺の方も急に自らの『瞳』を押さえだしたかと思うと、皆の見ている前でいきなり干乾びていってしまったと言うのである……。
「…………」
……そう。つまりは犯人だと思われる者達もまた『死者』の中に居たのだと。
だが、それならば本当の犯人は別に居そうな気もするのだが──周りで視ていた者達曰く、最初の被害者が干乾びている最中に『ロム推し』の誰かがこんな言葉を放つのを聞いたらしいのである。
『この『魔眼の力』を見たかっ!馬鹿な野郎めッ!『泥の魔獣』を悪く言うなんて本当にお前は愚かだ……』と──。
「……本当に『魔眼』、と?」
「ああ、確かにそう聞こえた。だが、その当時は被害者の干乾びていく様が強烈過ぎて、その言葉の発した方よりもそっち側に目を奪われてたんだ。もっと顔をハッキリ見ておけばよかったよ。……でも、誰かがその際にその場所から離れた様子は無かったから、間違いなくその場にはいたんだと思う。──そしてその後直ぐに、そいつらも一緒になって干乾びていったからな。間違いなく犯人も一緒に……」
──という事であるらしい。
なので、目撃者達の話では犯人はもう亡くなっており、既に事件は終わっていると思っているようだった。……実際彼らの話通りなら、その様には聞こえるのだ。
「…………」
……だがしかし、逆に私はその話を聞いて、寧ろまだ何かしらが続く様な気がしてならなくなった。これまた『あからさまが過ぎる』と思ったのだ。
それに、何よりも『魔眼』の存在──まさか、再びその名を聞く事になるとは思いもしなかったが、その言葉が再び私の『心』へと深い影を差したのだった……。
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