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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
640/790

第640話 膾炙。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




「…………」



 ──時に、『人』は無謀だと思われる事、他の者には出来ないとされる事柄に挑戦したくなる生き物だと思う。


 そして、己に『力』ありしと自負する者であれば尚更に、その『力』を試したいと思う者がいるものだ……。


 その為──



 『……へっへっへ、あんたがあの伝説の『泥の魔獣』って言われている存在なんだろう?いっちょ俺様と手合わせしてみなっ。その『噂』ってやつを本当かどうか確かめてやるぜっ!』と、襲い掛かって来る者は街中でもいる。寧ろ、最近は街中の方が多い。



 ──他にも……。



「わたしは武者修行の旅をしているものだが……強者ならば問答無用!いざ、尋常に勝負!キィェェェェェェエエエイイ!!」



 と言って、奇襲(・・)を仕掛けて来る者もいる。尋常とは如何に……。

 まあ、戦いにおいて奇襲は当たり前と言えば当たり前だが……。



「──なっ、なによ!ちょっとくらい顔がいいからってお高く留まっちゃってっ!このわらわの下僕として飼ってやるって言ってるんだから、素直に従えばそれでいいのよっ!!……ふんっ!いいわ、そっちがその気ならこっちだって考えがあるんだからっ!」



 と中には、武力ではなく権力を用いて襲い掛かって来る者も未だに絶えない。

 だが、その手の『力』は基本的に私には効かないものだ。無視である無視。



「げへへへぇ、いま、あんたに吹きかけてやったのはあの海のクラーケンでさえ一滴で動けなくなっちまうと言う品物だぁ~。これでもうあんたは俺の思うが儘だなぁ。どうだぁ?今の気分はぁ?こわいかぁ?これからお前はその綺麗な顔も身体もぜーんぶ俺に滅茶苦茶にされ」



 ……こう言うのは直ぐに魔法で拘束して『ポイ』である。

 クラーケンに使える薬品を持ってるならクラーケンに使いなさい。



「──いくら払えば我が国に来ていただけるのかね?貴君が望む分だけの金貨を積もうじゃないか。なーに心配は要らない。これでも我が国は大陸で一番の豊かさを誇っておる」



 基本的に今の私はもう『食べる事も寝る事しない』ので正直あまりお金もかからない。

 エアの分だけならば今の冒険者活動で十分に足りているし、私の【空間魔法】の『収納』にはまだ長年の残りもある……。過剰な財を集める必要はもうないのだ。



「……ば、ばかなっ!!これほどの触媒を用いた【拘束魔法】が通じないだと!?『詠唱』に誤りはなかったんだぞっ!魔法は確りと発動した筈だっ!それなのになぜっ!!!」



 ……魔法での奇襲ならば余所見をしてても対処は可能だった。

 もう少し腕を伸ばしてから再挑戦すると良い。



「──つまりわたしは、かつて貴方を救った『聖人』の子孫なんです。ですから、貴方が『聖人』に恩を感じているならば子孫であるわたしにも貴方は従うべきで、貴方の『力』はわたし達の為に……」



 ……あ奴はただの綺麗好きだ。

 友ではあると思うが、そこまで恩とかは感じていないので……どうぞお帰りください。



「ふぉっふぉっふぉ、『歴史』を語らせれば儂に敵う者はおらん。勿論、それはお主もそうじゃ『泥の魔獣』よ。どうじゃ?お主も魔法使いであるならば儂と知恵比べでも」



 ……わ、私は『感覚派』の魔法使いなので、そこまで頭が良くなくてもいい。

 それに『歴史』とかにもあまり興味は無いのだ。

 覚えて無い事も最近は多いから君の勝ちでいいと思う。



「……我々に従え。さもなくばこの街へと軍を差し向ける事も──」



 ──そう言う奴には全力でお相手になろう。好きなだけかかって来るがいい。



 どれだけ優秀な兵士と凄腕の魔法使い達を揃えようと、私とエアが立ち塞がった時の壁の高さに絶望を教えるだけだ。


 ……地上から凡そ十センチ弱、たったそれだけ浮かべただけでジタバタと藻掻く事しか出来ぬ者達に決して負けはしないのである。



「…………」



 ……とまあ、そんな風に武力だったり権力だったり財力だったり、そんな様々な『力』を背景にして『泥の魔獣』に迫って来る者達は意外にもまだ多かった。

 この街の者達は結構友好的な者が多いので、その大体は『余所の街』から来た者だと言えるだろう。



 ただ、『人との繋がり』を意識する様になったからか、以前と比べて何となく『人』との距離感の近さみたいなものを感じる事は随分と増えたのである。



 ……気のせいかもしれないけれど。



「あんた有名人なんだって?じゃあ、金も持ってんだよな?ならあたい達に恵んでくれよっ。金持ちなんだろっ」



 ……うむ。そう言う距離間の縮め方は拒否したい。



「……ねぇ~あなた凄いんだって?いつも綺麗な子を傍に侍らせてるって聞いたけど。あっちの方も伝説だって『噂』だよ~。ねぇその『噂』、今晩わたしにも教え──」



 ──結構です。まったく、そう言う縮め方もやめて欲しいのである。

 ……ほ、ほら、『エアの心』が既にイラッとしているではないか。もうっ。



「貴方に未だ『正義の心』が残っているのであればっ、俺達と共に『悪しき魔獣』や人々を苦しめる『魔物達』を討伐する旅に出ようっ!!いや、貴方は出なければいけないんだっ!『人』に対して貴方と言う存在が害意がないという証明をする為にもそれが一番──」



 ──そんなもの(正義感)など私にはない。さあさ帰った帰った。

 ……相も変わらず、そう言うのは私の苦手分野だ。

 私は良くも悪くもただの魔法使いに過ぎないのである。




「──ならばせめてっ、あの薬の製法だったり、貴方がこれまでに知り得た全ての知識を教えてくださいっ!それか、書物に残しましょうっ!!そうすれば多くの『人』が助かりますっ!!もしも貴方が亡くなったとしても書物が残ればそこには貴方が居た事の証明にもなるっ!!この世に名を残せるんですよっ!」



 それならば一部で良ければ教えよう。

 ……ただ、名を残す事に関しては固執していないので、そちらはほどほどで良い。

 私としてはそこまで有名になりたいわけではないのだ。



 私はただ、最愛の者が私の悪口を聞いて心を悲しませない程度で十分なのである。



「……ねえ。あなたそんな見た目だけど『魔獣』なんでしょ?なんで『人の街』にいるの?なんで『鬼』と一緒に居るの?……愛してるって?本当に?馬鹿じゃないの。『魔獣』が『人』を?冗談でしょ?」



 と、時にはこういう者も居るが──冗談ではないのだ。

 私は彼女の事を本当に愛している。誰よりもだ。何よりもだ。


 ……それと、知らなかったかな?『化け物』にも一応『心』はあるのだよ?

 だから言葉にも気を付けて欲しい。言い過ぎだ。

 私は良いが、私の最愛が悲しむからやめて欲しい。



「……お前だって本当は『黒雨の魔獣』の仲間なんだろ?そうなんだろ?……奴のせいで、向こうにいた俺の家族は……返せよ、返してくれよーっ。俺の家族をよーッ!」



 ……知らぬわっ!文句は向こうに言え向こうに!私は私だ。

 まあ、一応話くらいは聞いてやるから、全部吐き出したら帰りなさい。



「……まったく、困ったものだ」


「ろむ」


「ん?」


「……それは流石に優し過ぎない?」


「ふむ、そうか?……難しいものだな」



 ……とまあこんな感じで、必ずしもいい関係ばかりを築けている訳ではないし、私の不器用さも相変わらずではあるけれども、以前よりはだいぶ私も成長したと言えるのではないだろうか。



 『人との繋がり』をかなり感じる日常を送れていると思うのである。

 ……エアと『心を通じ合わせる』様になってから暫く経ち、『人の街』で普通に過ごすようになってから私達は良い意味でも悪い意味でも人々からの『慣れ』を感じ始めていた。



「…………」



 ──だがしかし、いつだってそう言う『慣れ』がある時とは気持ちが緩みがちになり易い時でもあり……。


 例外なく私も多少の油断が生まれていたらしく──この『街』で私は一つ大きな『失敗』をしてしまうのだった……。





またのお越しをお待ちしております。

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