第637話 股肱。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
数十年に及び、人知れず『神々と神人』の戦争は行われていたらしい。
それも、『毒』曰く──
「現状はほぼ、こちら側の『全滅』と言っていい状況ですわね。初期の『神人』と呼べた者達も、その後に救い出した『仲間達』も、みーんな居なくなってしまいました。……結果わたくしは『神々』に弄ばれ生み出された最初の『神人』であり、最初に『神々を喰らった者』であり……そして最後の『神人』となってしまいましたわ」
──彼女達の仲間として『神兵達』も居る訳だが、彼女の本当の『同族』と呼べる者達は何年も戦い続ける内に一人また一人と散っていってしまったらしい……。
正直、朗らかに話す内容にしては随分と重い内容にも思えたが、仲間達を失う代わりに『自称神々』の多くも彼女達は削り喰らう事に成功しており、仲間達は見事に本懐を遂げて立派に去っていったのだと、彼女は誇り高く思っているようだ。
元々、彼女達は『復讐者』でもあるから……。無論、それだけが彼女達の『存在理由』にはならないだろうが、彼女達にとっては『神々』に向ける敵意が自分達の命をかける理由として十分に足り得たのだろう。
『自らの命と引き換えに奴らを倒せるならば本望だ』と。
『この命を喜んで捧げてやろうじゃないか』と。
「……ただ、『神兵達の力』もあって最初は十分に渡り合えていたんですが──ある時から『奴等』が現れて、状勢は一気に向こう側の傾きましたわね。それからはずっと何年もかけてじわじわとこちらが一方的に削られるばかりの展開でした」
『奴等』と──『毒』がそう呼ぶのは、それぞれが好き勝手に動く事を常とする『神々』の中で、『例外的に集団行動』を取る様になった者達の事なのだとか。
それも、その集団の筆頭に立っているのは『世界で最も有名な聖人』でもある『浄化の神』だったらしい……。
「…………」
そして、そんな『浄化の神』の元には世界中から集められた『選ばれし者達』──特に、『神人達』はその中でも『力』があり、未だ生き残っている者に対して『二つ名』まで付けていたらしく──それぞれ『勇者』『聖女』『賢者』『狂戦士』『召喚士』『魔法剣士』と呼んで、強い警戒を向けていたのだと。
実際、そんな『浄化の神』を合わせた計七人の『力』は凄まじく、そのせいで戦争の情勢が一気に傾いてしまったと言っても過言ではなかったらしい。
……因みに、『浄化の神』に付き従うその『選ばれし者達』の事を、『自称神々』は『使徒』又は『天使』とも呼んでいたそうだ。
「…………」
……ただ、『毒』からするとそんな『使徒達』は『神人達の代わりとなる都合の良い手駒』にしか見えなかったらしい。
実際、戦場においても使い捨ての様に扱われる『使徒達』も居たそうで、敵側である『毒』としては見ていて酷い不快感を覚えたそうだ。
その為、『毒』も『神々の束縛』から彼らを助けようかと思い、一度手を差し伸べようとした事があったらしいのだが……結局は上手くいかずに『神々を裏切れない理由があるから』と断られてしまったらしい。
……無論、戦いの中でそんな事をいつまでも気にかけるのは容易な事ではなかっただろう。
当然、『毒』もそんな『使徒達』とのやり取りの中で何度も命を落としかけたそうだ……。
「…………」
……だが、そうであっても『毒』はどうにも彼らの事が気にかかったらしい。
『何か大切なものを守る為に』、『理不尽に対して足掻く為に』と──彼らとの戦いの中で『使徒達』がそんな想いを抱きながら戦い続けているのが『毒』には痛い程に分かってしまったのだという。
『……あれは自分達の姿だ』と、『毒』は彼らの姿に自らを重ね、言い様の無いやり辛さを感じたそうだ。……そして、もしもそれを意図して『使徒達』が集められたのだとしたらと考え──尚更に『神々』へと向ける憤怒が募ったらしい。
「…………」
……だが、先も言った通り『使徒達』の『力』は凄まじく、いざ本格的な戦いになると『神人達』は一気に苦戦を強いられる事になってしまった。
だから『使徒達』を気に掛ける余裕もその内なくなり、一方的に削られていくのを何とか堪えるのが精一杯になって、多くの仲間達の犠牲と引き換えに吊り合いの取れない反撃を返すだけの日々が続いてしまったのだと。
「……そうして数年が経ち、疲弊し続けて、気づけば戦場に残っていた『神人』はわたくし一人だけになっていましたわ。あの時は、本当に終わりを覚悟しましたし、色々とありました──」
その『終わり』がいつ来るのかは分からない。
……だが、きっともうそれは遠くない事を悟ったのだと彼女は語る。
無論、自然と増えゆく『神兵達の力』──所謂『魔物達』の『数の力』は馬鹿に出来ないものがあり、なんとかそれによって戦い続ける事は出来たらしい。
だが、疲弊し続けた『神人達』は正直もう、ほぼ諦めに近しい感情を内心では抱く様になってしまっていたのだという。
『仲間達はもう殆どいない……ならばいっその事、皆で最後の抵抗を』と。
そして、その気持ちは『毒』も同様だったらしく──そんな『神人達』の気持ちを汲んで、彼女は最後の戦いに相応しき総力戦を仕掛ける事に決めたのだそうだ……。
「…………」
……だがしかし、その時はもうほぼ戦力的には悪足搔きにも等しく、始まる前から結果は見えていた様なものだったのだと。
寧ろ、一方的過ぎて『浄化の神』や『使徒達』が出るまでもなく、普通にその他の『神々』に甚振られるような展開だったそうだ。
ただ、悔しくとも歯痒くともそれが現実なのだという非情な戦いの中、実際に『毒』も終わりを確信する様な状況に陥ったらしい……。
「……ですが、その時に一つだけ予想外の事が起こったんです」
「──まさかっ、そこに『黒雨の魔獣』が助けに来てくれたとか?」
「ふふっ、いいえ?勿論違いますわ。──ほらっ、以前にお二人には存在がバレバレでしたが『目に見えない存在』が私の傍には居たでしょう?実はあの子、普段はわたくしの側近の様な立場でして、あれこれとわたくしの頼みを聞いてくれるんですが……」
「…………」
……その時だけは、『頼みを聞いてくれず。大きなお節介を焼いてくれた』のだという。
『目に見えない存在』は『毒』へと『走れ』と告げ──彼女に『生きろ』と、『こんな戦い方は似合わない』と、『まだまだ終わるには早い』と、そうした色々な思いを伝えながら手を引きつつ、彼女の事を必死に戦場から逃がしたそうだ。
『隠す力』で『毒』を覆い隠し、彼女を見え難くしながら二人は走り出したのだと。
……だが、当然の様にその場は簡単に逃げ出せるような状況ではなく、直ぐに二人は逃げ出した事に気付かれてしまい追手を差し向けられたそうだ。
すると、それに対して『目に見えない存在』はある程度『毒』を避難させると、彼女をその場に残し、自身は直ぐに引き返して行ったのだとか──。
……無論、引き返した方向からは追手達が近づいてきていた為、そんな事をすれば見つかるのは時間の問題で。
「でも、その時はもう、あの子は見つかるつもりだったのでしょう。気づいた時には止める間もなく──」
『目に見えない存在』は『自称神々』の一部を巻き込みながら、自身諸共『自爆』してしまったそうだ。
「……本当に急な事でしたので、あの子がそんな事をするとは思いもしませんでしたし……わたくしを包む『隠す力』は今までにない位にとても強くて──結局、わたくしはそこで茫然自失したまま、誰にも気づかれる事なく逃げ延びる事ができてしまったんですの」
「…………」
「…………」
──そうして、いったい何時までそうしていたのかは本人も分からないが、ふと気づけば『隠されていたわたくしの上には黒い雨が降り注いできて……あの方が突如としてわたくしの目の前に舞い降りて来たんです』と、『毒』は嬉しそうに語るのであった……。
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