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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第635話 魑魅。




 『近隣の街にて暴動が発生した。それも女性ばかりがまるで何かに操られているかの様に暴れている』


 そして、それはまるで『魅了』を受けているかのようであると……。



「…………」


「…………」


「…………」



 無論、受付嬢が報せたその話を聞いた私達は驚愕した。

 ただ、当然の様に私達の視線の先に居るギルドマスターは瞬時に何かを察したらしく──。



 その表情には『色濃い疑念』が浮かんでいるのを私達は感じたのである。

 まあ、状況証拠的にも私達がその『暴動』に関わりがあると考えているのではないだろうか……。

 ギルドマスターの表情の険しさを見るに、ここで関係性を否定しても直ぐには信じて貰えなさそうな雰囲気である。



「…………」



 ……でもまあ、それも仕方がない話かもしれない。

 自分達の事ではあるけれども、これで私達が無関係だと言うのは流石に無理があると感じたのだ。



「……この件に関して、何かご存知で?──それとあの『噂』の『魔眼』とは、真ですか?」



 特に『魅了』と『魔眼』の話の繋がりが致命的だ。

 ……当然、ギルドマスターとしてもそれを問わずにはいられないだろう。



 実際、『強化訓練』に訪れた女性達がそこに関係していれば、間違いなく私達に『何かされた』可能性は高く──それが『噂』にもあった『魅了』であると言うのであれば、尚更に彼の視点では目の前に居る私達こそ『黒幕に違いない』と考えてもおかしくはない。



「……いや、知らぬ」



 ……だがしかし、当然私としてはそう言うしかなかった。

 私達にはそんな『力』などないのだ。皆無である。



 ただ、『魅了』という部分に彼が疑いを深め、そこに『魔眼』が関係しているのでは?と考えるこの状況に対し、それを明確に否定できるだけの材料が私達にない事もまた確かではあった。



 『無いものを有る』と説明する事以上に、『無いものを無い』と証明する事の方が意外と困難なのだ。……それに『出来ない。知らない』と私達がいくら言ったところで、彼もきっと信用はしてくれないだろう。



 それこそ何か、『目に見える形』で明らかな証拠でもない限りは不可能かもしれない。

 ……それか、その『魔眼』の元となる『両目を潰せば』と、そんな風な対処をするしか──



「──ダメッ!!そんなのっ、わたしが絶対にさせないっ!!」


「──ッ!?」


「…………」



 ……すると、私がそんな浅はかな事を考えてしまったせいで、エアを酷く驚かせてしまったのだ。

 エアはその光景を想像してしまったのだろうか、憤りのままに声を荒げてしまう。



 ……すまない。そんな気はなかったのだが。

 勿論、その考えは私にとっても不本意なのでやるつもりなど毛頭なかった。

 なので、すぐさま私はエアへとそれを伝える事にしたのだ──。



 『──私もそれをしたい訳ではないから安心して欲しい』と。

 『ただ、それ位の証拠でもないと彼は信じられないだろう。だから何かしらの手段でも無いかと考えていただけで他意はなかったのだ。本当に驚かせてごめん』と。



「……もうっ」



 するとそんな私の謝罪が伝わり、エアは立ち上がりかけていた腰を下ろすと少しだけ頬を膨らませながら直ぐに許してくれたのだった。


 ……少々内容が衝撃的だったからとは言え、思わず反応してしまったようなエアも本人的には早とちりをしてしまった事を反省しているらしい。



 だが、今のはどう考えても私が悪かったと思う。

 エアと『心』が通じているにも関わらず、あまりにも短絡的な想像を抱いてしまったと反省したのだ。



 それに、結果的にはそれでギルドマスターに対しても更なる不信感と警戒心を抱かせてしまった様にも見える。……なので本当に失敗だった。



 彼に危害を加えるつもりなど全くないのに、それすらも弁明する手段が無いのだから……。

 言葉とはなんと歯痒いものなのだろうか……。



「…………」



 ……ただよくよく考えると、何も私達が無害であるという証明をここで無理にギルドマスターへと示す必要もそこまではないのでは?とも思った。



 つまり、彼に弁明するよりも前に、その『暴動』とやらをまた実際に治めてしまった方が遥かに問題解決には早いだろうという、そんないつのも流れだ。



 『──うんっ!わたしもそう思うっ!』と、エアもその考えには同意らしい。



 ……うむ。正直、私もここでこのまま彼に疑われて時間を使うよりはその方が遥かに建設的に思えた。


 実際、今こうしている間にも『余所の街』では女性達が『魅了』された状態で『暴動』をおこしている訳だ……。



 ……ん?だが、現状この街ではそのような事はないように思える。受付嬢も今はギルドマスターの背後に控えているだけで焦ったような仕草はない。



 では、『幸いな事に』この街では同じような『暴動』は起きていないと……?



「…………」



 ……待て待て。今一度冷静になって考えてみると、これらは明らかにおかしいと思える事ばかりであった。


 いや、最初から『おかしさ』は感じていたのだが、不思議と思考がマヒしていた様にも思える。


 逆にその『おかしさ』が重なり過ぎて、『何が最もおかしいのか』に気付けていなかったと言えるのかもしれない……。



 そうと言うのも、そもそもこれは何の『利』があって行われているのか?と私はまず考えたのだ。


 ……つまり、ここまで『おかしさ』が連続している状況が偶発的に重なる事はまずあまりないと思った事から、よってこれは『人為的』に仕組まれた企みだと考えるのが普通の流れと思っている。



 そして、そうなれば今度『その目的はなんだ?』と考えた時に、現状で被害にあっている『余所の街』が『標的か?』と考えるのは至極真っ当な考え方ではあるのだが──。



 そうなるとこの場合『利』を得るのは誰だろうか?と考えた時に、首を傾げざるを得なかったのである。



「…………」



 ……唯一、現状は何の被害も受けていないらしいこの街に『利』があると考えられるだろうか?

 『この街だけ暴動が起きていない』事も考えればその疑いは更に強まる気もするのだが──でもまさかそんなあからさまな事をするとも思えないのだ。



 それに、流石にいくらなんでも『裏の事情』があって『利』が絡んだ上での狙いであったとしても、一応は『同盟』を結んでいる街同士でこんな攻撃を仕掛けるのはあまりに愚かが過ぎるとも思えた。



 なにしろ『余所の街』が被害を受ければ、支え合ってもいるこの街も相応に何かしらの被害を受ける事はいうまでも無いのだ。寧ろ、『利』よりも『損』の方が大きすぎるだろう。



 だからこそ、目の前に居るギルドマスターもこれだけ真剣な表情を浮かべており──街の仕業よりも『泥の魔獣』の仕業を疑い──恐れを抱きながらもこんな『化け物』と態々対話をして原因を探ろうとしている訳だ。



「…………」



 なので、ここからは勘による部分も多いのだが──今回の事に関して私は『この街や余所の街』は直接的な関係はない様に感じている。



 そして、『女性達と街との間の争い』という線も薄いと思えた。

 女性達がみんな『魅了』に掛かっているという話から、これは彼女達の意志とは『別の思惑』が関係しているのだろうと──。




「…………」



 ──だが、そうなった場合に『最もおかしい』と感じるのは、『魅了』と『魔眼』にこそあると私は思った。



 そもそも、降って湧いた様なそんな話が急に広まった事があまりにも都合が良すぎる。

 ……まるで最初から、そんな『力』が『泥の魔獣』にあると、そういう事にしたい思惑がある様に私は感じたのだ。



 そして、それと同じ位に標的が『女性ばかり』に集中した事にもおかしさがある。

 ……こちらは更にあからさまに私達と『暴動を起こす女性達』との関係性を意識させたいのだろう。



 ──要は、これらは明らかに私と言う存在に『魔眼』というものがあり、『暴動の黒幕は泥の魔獣なんだ!』という『噂』を広めたい狙いがあるとしか思えなかった。



 直前に私達が『依頼』で各街の女性達と『強化訓練』を行っているのもあからさまが過ぎる。

 ……ならばと、ここまで来れば『本当の標的』は言うまでもなく私達だと思っていいのだが──



「…………」



 ──その実、今回の本質にあるのは『あからさまが過ぎる事』にある……。



 そしてその事から感じる私の勘としては……恐らくだが、この相手は『泥の魔獣』に『ちょっかいをかけたいだけ』にしか思えてならなかったのだ。



 要は、この敵は『遊んでいる』のである。

 『泥の魔獣』とその周囲も巻き込んで何かしらの騒動を起こしたいだけの愉快犯に思えた。

 態と中途半端な攻撃で私達や周辺の者達を荒らし、その反応を楽しんでいる様に感じる……。



「…………」



 ……正直、私達は本気で自分達が狙われた際には敏感だが、意外とこういう攻撃には弱いのだ。 

 だから、実際に牙を剥けられれば反撃も容易いが、こうして外堀から『じわじわ』と削るような搦め手の場合、凄く対処にも困るのである……。



 そして、私はこれを狙った相手が『私達がそうである事をよく知っている』様に感じたのだった……。



「…………」



 ……つまり、こうした厭らしいほどの搦め手が得意な相手を、私は一人だけ思い出したのである。



 そして、そんな私の思いはすぐさま『心』を通じてエアにも共有される事となり、エアと私はギルドマスターの背後に控えているその相手──いつの間にか『ニタリ』とした微笑みを浮かべている『受付嬢』へと視線を向けたのだった……。





またのお越しをお待ちしております。

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