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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
633/790

第633話 籠。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 エア達の『強化訓練』を見守り続けて半月ほど経っただろうか……。


 当初の予定だとそろそろ『訓練』も終盤と言える頃合いであり、『皆が何かしら成果や成長のきっかけでも得られたら良いな』と、『中には急成長する者が二、三人出れば良いな……』と、そんな考えが各街にはあったそうだ──。



「…………」



 だがしかし、うちのエア先生の熱血指導を受けた女性冒険者と女性魔術師達はメキメキと上達し、『裏の目的』こそ成し遂げられなかったが、『表の目的』に関しては初日とは見違える様な技術向上を遂げていたのである。



 ……まあ、毎日それだけ激しい戦いをこなしたという事なのだが、誰一人として音を上げず、心が折られたみたいな状態にも陥っていない事は、エア先生の腕が揮ったからだと私は思う。

 無論、訓練に参加した女性達の頑張りは褒められるべきものだが……私は指導者としてのエアの頑張りもちゃんと見ていたので評価してあげたいと思ったのである。



 因みに、最初のお題目にあった『……交流会』の部分は、訓練後の『食事会』として一応は要望も満たしてはいた。



 正直、女性達が意図していたものとはかなり異なった『食事会』であり『交流会』だったとは思うのだが、エアは訓練後に私も同席させ女性達との食事会を毎回開く事により、上手い事彼女達の不満の矛先をずらす事には成功したのだとか……。



「…………」



 簡単に言うと、エアは私に迫りたい女性達を訓練後直ぐに『食事会』へと毎日招き続けたのだ。

 だが、当然女性達からしてみたら訓練後でくたびれているし、ドロドロだし汗臭いし、そんな状態で異性を誘惑できる程の精神的強者はその場にはいなかった訳なのである……。



 その上、私が『お化粧』をしている事により──どこからどう見ても『女性』にしか見えず──その影響もあってか、そのお食事会は段々と『女子会』的な雰囲気へと変わっていき、彼女達がとても気安く話せる場所へと変貌していったのだった。



 基本的に、『男』の存在を意識してしまうと言えない事も多かったり、猫かぶりをしてしまう子も居るとかで、きっとその方が『交流も深まるだろう』とエアは思ったそうだ。……まあ、勿論建て前でもあるし、『利』を考えての事でもある。



 『女性には女性同士にしか分からない領域があるのだ』と。

 そして、『女性の本当に恐い所は、目に見え難い部分にこそ隠れているので、目に見える形にしてしまった方が結果的には上手くいく事もまま多いのだ……』と。



「…………」



 ……正直、そのどれもが私からすると難しい話に思えたのだが、『交流』も『訓練』の延長線上にしてしまい、互いに言いたい事を好きなだけ言いあって『ギャーギャー』と騒ぎ、訪れた女性達との楽しい時間を共有したかったのだと思っている。



 同時に、エアとしては私との『親密度』を周りに見せつける事によって、自身の『やきもちパワー』を解消したかったのだろうと。……まあ、言わば互いにとっての『ストレス解消』を狙ったそうで、それがバッチリと上手くハマり、狙い通り策が成功したらしいのだ。



 実際、その『交流会』や『強化訓練』の様子などをバッチリと見守って来た私だからこそ、分かる事も多いのだが──『女性だから、こういう感じなんだろう……』とか、そんな理想は捨て去った方が良いと思える場面は多々あったと、それだけは言っておこう……。



「…………」



 無論、それは彼女達の『名誉』を考えて深堀りもしないつもりだ。

 ……ただ、『人』である限りは、色々な(しがらみ)があるという話であり──鬱憤が溜まればそりゃ思い切り騒ぎたくなる時だってあるという、そんな当たり前の話でもあった。



 だが、冒険者であれ、魔術師であれ、肉体的や精神的な面で辛い場面が彼女達には多いらしい。



 ──此度の事にしたって、本当は誰が好き好んで『化け物を籠絡したいと思うか?』という話にも繋がってくる訳だ……。



 無論、彼女達がこの街を訪れるまで、そして私達と出会ってみるまで、その内心では色々な葛藤があった筈である。



 『好色化』と聞いたよく分からない相手の『相手』を、もしかしたら無理矢理させられるかもしれない。でも、当然の様にそれを嫌がる子はいる。……だが、状況によっては断れないかもしれない。

 それに、もしそれを下手に断ってしまえば、これまでの生活が壊れてしまう事だってあるかもしれない。



 一応『依頼』という形を取っているとは言え、中には本当に強いられて訪れた子もいたという話であった……。



「…………」



 色々なものを対価に、何かを手に入れる行為──それを『取引』と呼ぶのかもしれない。

 だが、そこには目に見えるだけではない『何か』が消費されている事も多いのである。



 それを忘れてはいけないのだ。

 ……無論、彼女達がここに居る理由は、そんな色々な葛藤と取引の結果だった。


 そして、その様々な取引には、当然の様に不利な条件も実際にあったのだと言う。



 だから、当然の様にそれに彼女達は不満を抱いていたのだった。

 それは、『男』に対する不満というよりは、具体的には自分達をこの場所へと送り込んだ奴等への──強い不満である。


 ……でも、結果的に取引に応じた限りは、それをするしか道がないと、半ば諦念も抱きながら彼女達はこの街へと来たのだ。



「…………」



 ……だから、実際にエアと私の姿を目にした時には、彼女達には様々な思いが巡ったらしい。

 それを一概に『安堵』とは言えないのかもしれないが、一番近しい言葉はそれだったのかも知れないと私は思う。



 そして、エアはそんな彼女たちの想いも汲みつつ、『籠絡が失敗しても仕方ない状況』を色々と作り出していたのであった。……それは当然、互いの『利』の為であると。



 だから、基本的に私に対しては、彼女達も見つめて来るだけの事が凄く多かったのである。

 ……まあ、中には途中から本気で狙っていた女性もいたそうだが、正直それも私にはよく分からなかった。



 たまたま私と目が合うと、彼女達はサッと顔を背けたり、ぽっとして照れたりして……不思議とそれだけで嬉しそうな表情をする事があるくらいである。……正直、最初はそれを完全にエアの『お化粧の力』だと私は思っていた。



「…………」



 ただ、そのおかげで彼女達からすると私と言う存在は『無害』だとエアを通じて直ぐに理解出来たそうだ。


 でも、そうするとどうしてそこから更に心変わりしたのかは分からないが、安堵すると今度は段々と本当に『恋人になりたい欲』も湧き出て来たそうで……不思議と本当に『魅了』に掛かったような感覚も得たのだという。



 そして、その効果によって女性達は不思議な『恋心』と、自分達を気遣ってくれて、いくらぶつかってもちゃんと上手に跳ね返してくれる『恋敵』に、安心して身を任せる事ができたのだとか……。



 ──要は、女性達もエア同様に、かなり楽しかったそうだ。



 でも、だからこそきっと彼女達が大いに成長できた背景には、そんな伸び伸びと出来る良い環境が良い影響を与えた結果だと私は思うのである。



 毎日『訓練』と『食事会』を終えると、彼女達はいつも満足感に『魅了』されていた……。



 そして、『今日も女王様()のおかげで成長を感じられた!』とか、『これで明日もまた頑張れそうっ!』とか、そんな感じの事を言って彼女達は今夜も笑顔で宿へと帰っていくのである……。



「…………」


「…………」



 ……そして、そんな彼女たちの後姿を私とエアは横並びになって微笑ましく眺めて居たのだ。


 『良かったね』と、そう思える一日があるのは意外な『誰か』が陰で頑張ってくれているから……なのかもしれない──。




またのお越しをお待ちしております。

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