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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第630話 濃抹。




 『昨今の情勢を鑑みて、魔物に対する冒険者と魔術師の合同強化訓練……と、その交流会』



 ……そんな、何とも不思議なお題目の元、半月ほどかけて各街から選りすぐりの女性冒険者や魔法使いがどんどんと集まって来たのだ。本当に男性が一人も混ざっていない事に私は恐怖を感じている。


「…………」



 そして、そんな女性ばかりが集まった合同訓練は、最初から不思議な緊張感に包まれる事となった……。



「ね~っ、次はあっちのお店にいこうよ~っ!……わ~、最近の冒険者用の魔法道具って色々とあるんですね~っ!なにか一個買って欲しいな~っ」


「……あ、ああ、それなら好きなのを選ぶと良い」


「えっ、いいんですかーっ!やったーっ!嬉しいです~」


「…………」

「…………」

「…………」



 ……その日、私達は大勢の女性達を引き連れながらこの街を歩いていた。


 無論、意味もなく歩いている訳ではない。集まった女性達が暫くこの街に滞在するのであれば、当然宿泊する場所は勿論の事、食事のできる場所や買い物に適した場所など、この街の事前説明くらいは必要だろうという話が出て、私がその『案内役』として抜擢される事になったのである。



 ……まあ、これもお察しの通り『依頼内容の一部』というやつで断る事はできなかった。



 私が案内する事で、少しでも訪れた女性達との距離を縮めようとする狙いは見え見えである。


 ……ただ、残念ながら私はあまりこの街に詳しくなかった為、ちゃんと案内するのであれば別の者に協力を仰ぐ必要があった。



 ──そこで、急遽この街に詳しい『白石(・・)冒険者』である『エーさん』という方に協力を仰ぐ事となり、彼女に『案内役』のサポートをお願いする事になったのだ。



「…………」



 ……まあ、言わずもがな、そのお方はエア本人である。


 そして、先ほどから私にしなだれかかりつつ、普段とは少し異なる口調で話しているのがまさにエアであり、今日のエアは『天元』に【火属性】の魔素を通してその髪色を薄く綺麗な桃色へと変えているのであった。


 また、いつもであれば殆どしない『お化粧』も完全に施しており、普段のエアが『可愛らしくて美しい』とすると、今はかなり『妖艶』と言う言葉が似合いそうな見た目をしているのだ。



 そんなエアの姿に『……見事だなぁ』と思いながら私は感動を覚えていた。


 そして、『いつも素敵だが、今日もまた一段と美しいな』と、無意識的にそんな想いも『心』に思い浮かんでいたのである……。



「……んっ!?」


「……ん?」



 ……するとその瞬間、隣からはそんな『音』が響いた。おっと、どうやら伝わってしまったらしい。


 ただ、エアの顔を見ると不思議とその表情はニンマリとした笑みを浮かべており『──ありがとうロムっ。……でもね、ロムの方がもっと綺麗だよっ』と、エアは『心』でそう返すのだった。



「…………」



 ……そう。因みに、そんなエアの『心の声』でもうお気づきかもしれないが──実は私も、今日は『お化粧』を施されているのであった。



 それも、エア曰く『この世で一番綺麗っ!もう女王様って感じがするっ!』……と、そんな過剰な評価も頂いている出来栄えである。



 ……うむ、でも正直、その評価に対する喜びはあまりない。

 こんな私でも男なのだ。カッコいいと言われる方が素直に嬉しいのである。



 だがまあ、エアが私の顔を見る度にニコニコと凄く嬉しそうに微笑むので、私はそれだけで充分ではあった。エアの『心』はとても弾んでいる。今の状況を楽しんでいるようだ。……良かった良かった。



 それに、チラリと見れば集まった女性達も『女性二人(?)』にしか見えない私達の様子にかなり困惑しているようだ。彼女たちの表情からは『……話が違う』という言葉が今にも聞こえて来そうである。



「…………」



 ──まあ、そんな訳でこれがエアの策であり、『依頼を引き受けようと思った理由』でもあるらしい。


 ……昔も、これと似た様な事をした覚えがあるが──要は、『目には目を歯には歯を、女子力には女子力を!』という事のようである。



 『フフフ、ロムに色目使って近づいて来るのはいいけど、あなた達よりもロムの方が何倍も綺麗なんだからっ!こんなロムの色気に本気で勝てると思うなら、いくらでもかかって来るといいよっ!全ー部っ跳ね返してあげるからっ!自信も何もかもを、ロム(・・)がねッ!!』と、エアは自信満々にそう語るのだった。



 一応、『心を折る作戦』なのだという。……ま、まあ、『力は使い方次第』とは言うけれども──正直、この発想は一生私には培われれる事はないだろう。



 ただ、素直に良い策ではあると思った。

 現に、訪れた女性達には凄く有効なのか、『泥の魔獣を籠絡する企み』を躊躇わせているのである。

 彼女達はこの街に訪れて私達と出会ってから、少し距離を空けつつ案内通りについて来るだけであった。



 ……因みに、この策にはこの街の各ギルドマスター達も面白がって乗っかったのである。

 現状、エアの冒険者ランクが今だけ『白石』になっているのも、そんな協力的なギルドのおかげであった。



 正直、この街としても『余所の街』との『繋がり』は大事にしたいが、その『余所の街』に『利』をそのまま持って行かれるのは本意ではないという……まあ、そんな本音があるらしい。


 『冒険者としての技や魔法使いとしての技を多少教えてくれるのは助かるが、それ以上は困る』とか。まあ、なんとも複雑な話である……。



「…………」



 ……でも、正直私達としてはこの依頼を穏便に終わらせる事だけに集中したいと思うのだ。

 今回は『良い目立ち方』というよりは『悪い目立ち方』をしているとも思うので、あまり面倒事を背負い過ぎない様にはした方が良いと思うのである。



 そうしないと、このままの姿で過ごす時間が増えれば、それだけ『泥の魔獣は女性だったんだっ!』と勘違いする者も増えてきそうだし──実際、ギルドマスター達も少し疑っていたし──で、そんなどうしようもない『噂』が絵と共に広まらない様に、サクサクと終わらせるべきだと思った。



 ……まあ、今回はこの街の篤い協力もあるのでそうそう広まる事はないだろう。

 唯一、訪れた女性達が勘違いをしたままでいる可能性はとても高いのだが──この街に居る限りは問題ないし、彼女達が自分達の街に戻った後ならばこちら側としては『知らぬ存ぜぬ』を通す事ができるのである。一言、『勘違いしただけだろう?』で終わる話であった。



「…………」



 なので、実際はこの後に行われる予定の『強化訓練』で、何かしら彼女達に得るものがあればそれだけでこの『依頼』は完了したも同然なのである。

 そして、私もエアもそう言う『教える』事にかけては何気に経験も豊富な為、何かしら伝える事は出来ると思うのだ。


 寧ろ、冒険者達には私の旅の話をすればいいだけだし、教える事すら不要かもしれない。

 魔術師たちでも、ほぼほぼ『詠唱魔法』の使い手だという事前情報があるので、折角だから新術式である『震える木漏れ日』の触りだけでも伝えられたらとそう思うのだった。


 既に『吾輩』の許可も得ているので、これについての問題もほぼ無いと言えるだろう。



 だから、後は彼女達が変に騒ぎでも起こさない限りは──



「──好きですッ!!一目ぼれしましたッ!どうかわたしも、貴女(・・)の恋人にしてくださいッ!『泥の魔獣』様ッ!!」



「…………」



 ──と、思っていたのだが、どうやらそうそう物事は思い通りには進んでくれないらしいので、私は密かに肩を落とすのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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