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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
629/790

第629話 絡。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




「『魔物の巣の駆除に協力して欲しい』?……それが『緑石冒険者(ロム)』への依頼なの?」


「……ああ、まあそう言う事だな」


「それも、全然見知らぬ冒険者達と一時的な臨時パーティーも組んで?」


「……ああ、そうだな」


「そして、わたしは『金石冒険者』に頼みたい別の依頼があるから、ロムとは別々に行動して欲しいって?」


「……あ、ああ。まあ、端的に言えばそう言う事だな」


「……ふーん」


「…………」


「……だ、だが悪い話ではないんだ。これも冒険者活動の一環には違いないし、貴方方の目的を考えれば──」


「──いや別に、その依頼を引き受けなくても、わたし達は困らないよ?」


「……いや、だがまあ、それはそうなのだが、この街にも相応の『人の繋がり』というものがあってだな……無関係だと言われてしまえばそこまでなのだが、やって貰えると冒険者ギルドも魔術師ギルドもこの街の住人達も助かると言うか……その、なんと言うかな……だからどうか、頼む」



「…………」



 ……鷲のような目付き──というか、魔術師ギルドのギルドマスターとかなり似た様な風貌をしている冒険者ギルドのギルドマスターは、少しだけ困ったような表情を浮かべるとそう告げて来たのだった。



 本日、私達は冒険者ギルドに呼ばれてここに居る訳なのだが、彼から『良い依頼があるからやってみないか?』という誘いを受けた先が今である。



 因みに、『前提となる依頼内容』としては、街から数キロ先に『魔物の巣』だろうと思われる場所を冒険者達が見つけた為、その対処に協力して欲しいと言うそんな普通の依頼であった。



 ……ただ、私達的には当初の目的として『名誉を守る事』を意識し、『良い意味で目立つ』為の行動をしようと決めている訳なのだが、何も『討伐』を手段にして高名を響かせたい、有名になりたいとは考えていないのである。ほどほどで良い。悪名が消える位のほどほどで……。



 寧ろ、どちらかと言えば今回の場合は『討伐』関係は避けたいまであった。

 私達の『力』は大きいと思う。だから、それに伴う問題をあまり引き寄せたくはなかったのだ。


 

 ……無論、戦いになれば一方的な勝利は出来るだろう。

 私とエアは魔法使いとしても、冒険者としてもそれに見合うだけの実力と経験を十分に備えている。敵はそうそう見当たらない筈だ。



 だから、例え相手がドラゴンだろうが『魔物』だろうが、もしそれが『人』であったとしても、どれだけ数を揃えていた場合であっても、大した問題にはならないと思う。



 ……ただ、正直心情的にはそんな『力の使い方』はもうあまり好んではしたく無い、と言うのが本心であったのだ。



「…………」



 ……度々話している事ではあるけれども、『強い力があるのならばそれを積極的に揮うべきだ』と考える者もいるとは思う。


 その考えに一部同意できる部分もありはするが──今の私達はもう以前までと比べて『狩り』に対してそこまで積極的ではないのである。


 ……昔はそれこそ、『羽トカゲ』を見つければすぐさま【転移】して狩りに行った事もあったが、最近ではそんな事も殆どない。



 そもそも『魔物』に対する考え方にしても私は『人』とは違う視点を持っており、私からすると『魔物達』は未だ『神兵達』であることに変わりはなかったのだ。



 ……だから、『性質』的に『神兵達』と『人』との争いが絶えない事は理解もしているけれど、『神人達』の経緯も思い返すと私は彼らを積極的に『狩ろう』とは思えなかった。

 『神兵達』と戦うのも、『人』と戦うのも、私の精神的にはほぼ変わりが無いからである。



 無論、それは私の個人的な意見でしかなく、他の誰かにその考えを押し付けようとまでは思っていない。エアには別の考えがあるだろうし、『人』からすると『魔物』が『憎むべき敵』である事は変えようもない事実であったからだ。



 ……ただ、そうであってもやはり『魔物達の巣』に『討伐に行く』となると、どうしても躊躇いを感じずにはいられなかったのである。



「…………」



 ……それに、ギルドマスターは『魔物の巣』と説明してくれたが──恐らくそこには、元となる『隠れ里』か何かがあったのではないだろうか……とか、そんな事も私は考えてしまうのだ。



 当然『魔物』に『里』が襲われたのかどうかは分からないし、証拠も確証もない。

 ……ただ、物事には総じて隠された真実がまぎれている事も多いのである。



 だから『誰かの教えや言葉を信じるな』とまではいわないが、鵜呑みにし過ぎる事もよくないと私は思う。

 また、知り得た情報に対して己で『自分なりの考えを持つ事』と言うのは存外と大切なのである。

 ……流されて生きているばかりでは気づけない事は意外と身近に潜んでいると私は思うのだった。



 そして、私達の様な魔法使いと言う存在は、特にそう言う部分にはちょっとだけ敏感なのだ。

 ……だから、冒険者ギルドのギルドマスターが直々に持って来たこの依頼にも、最初から何らかの『気づき』が必要な事も直ぐに察知できたのである。



 元々ギルドマスターも協力的に私達へと『この依頼』を伝えてくれた。

 『事情(・・)があって一応は仕方なく話を持って来たが、どんな選択をしてくれても構わない。……ただ、出来れば引き受けて欲しい』と、彼の表情からは今尚そんな言葉が聞こえてくるようである。



 正直言えば、彼らの事情にはあまり興味も無かったのだが──エアが詳細について尋ねるとギルドマスターは意外にも『依頼の詳細』をすんなりと『前提となる依頼内容』以外も私達に教えてくれたのであった。……無論、こちらが気づかずに尋ねなければ彼も言うつもりはなかったらしい。



「…………」



 ……それで詳しく話を聞いてみたところ、そもそも『泥の魔獣』に対してこの街の『冒険者ギルド』も『魔術師ギルド』も『街の住人達』も協力的なのは今更言うまでもない事なのだが、そこには少なからず『利』が絡んでいるからこそ、こういう関係になれている部分があると言う『本音』の部分をちゃんと忘れてはいけないのである。



 事情を知らない者からすれば、本当に私を『魔物』だと信じている者もいると思う。

 ……まあ、実際に触れ合ったり話したりすれば別だと思うが、時に『人』は信じたいものだけを妄信してしまう生き物でもある為に、『魔物は全て危険だから……』という考えが先立ってしまうと、話す前に襲い掛かって来たりする事も多いのである。



 なので、それを考えると私を『泥の魔獣』と認識した上で、こうして普通に街中で生活が出来ている環境と言うのは、かなり待遇としては良くして貰っていると考えてもいいのだろう。



 無論、私が一般的な『魔物』とは違い『人』に無差別で襲い掛かったりしない事と、彼らの『好意』もあるだろうが、当然それだけで協力してくれている訳ではないと言う事が話の前提には暗黙の了解としてある訳なのだ。




 ……そしてまた、これも何度目になるか分からない話ではあるのだが、当然の様に『利』が絡めば色々と複雑な事情も増えてくるのである。



 簡単に言うと、そこに『大きな利』があるならば、それにあやかりたいと思う者は自然と集って来ると言う話でもあった。



 そして『街』に対して『利』が絡むのならば、尚更それだけ関係者も増えるという事。

 また『街』と言うのは、それ単体で成り立っている事は非常に少なく──大体は『余所の街』や人々とも関りを持たねばならないのである。(……という感じの事を、昔レイオス達が語っていた気がするのである)。



 なので、普通に生活しているだけだと中々に『気づき難い話』ではあるのだが、『余所の街』からこの『街』がどう見られるのかも考えると、自ずとこの先の『流れ』は見えて来る訳で──『余所の街』がこの街の『利』にあやかろうとするのであれば……表には出来ないあれやこれやの『繋がり』を使って、強引に近寄って来るのは十分に考えられる話ではあったのだ──。



「…………」



 ──そして、どうやらその為に考えられた具体的な策と言うのが、近隣複数の街から代表的な冒険者や魔術師などを集め、その者達を通しつつ『交流』を深めながら街と街の『太い繋がり』を作っていこうと言う思惑があったらしいのである……。



 それは言わば、『同盟』に近しい関係になろうと言うそんな話でもあるのだが──その本質にあるのは『泥の魔獣』という『力』への興味関心と、あわよくばその『恩恵のおこぼれ』を『余所の街』にも分けて欲しい……というそんな裏事情もあったらしい。



「…………」



 そして、更に一歩踏み込んだ狙いとしては『泥の魔獣は好色家だから……』とか言う、そんな何とも不名誉な『噂』が一部では広がっているそうで、『余所の街』では『エア一筋の私』に、態々ハニートラップを仕掛ける計画などもあったそうだ……。



 表向きは冒険者や魔術師の交流会を装いつつ、あわよくばの本命である『泥の魔獣』から『恩恵のおこぼれ』を得たいという作戦なのかもしれない……。



 なので、今回エアが私とは別件の依頼を任されそうになっているのもそんな理由からであり──。

 同様に、私が見知らぬ誰かと臨時パーティを組んで依頼を薦められそうになっているのもそんな事情からだったのだ。



 ……まあ、純粋に魔法についての話や冒険者としての経験談だけでも聞くだけの価値があるとは考えられているそうなのだが、ギルドマスターの話だと『緑石』や『赤石』の前途有望な女性冒険者や魔法使い達を、私を籠絡する為だけに沢山送り込んでくる腹積もりでもあるとかなんとか──そんな何とも迷惑な話なのである……。



 ──ぴきっ。



「……へぇー、ふーん、そうなんだー」


「…………」



 ……正直、『そんな事に巻き込まないで欲しい!』と、私は『心』から思った。

 それも今、確実にエアさんの『心』には何らかの種が芽吹いたのを感じている……。



 ──だがしかし、結局はなんだかんだと『利』を抜きにしてもこの街には協力的にして貰っている事と、『討伐依頼』に関してはぶっちゃけただの口実でしかなく、本命は『交流』であった為に依頼内容は別の物と差し替えも可能だと言われてしまい、依頼が断り難くなってしまった事……。



 ……そして極めつけはエアの『──ロムっ。分かった。この依頼受けようよっ』という、そんな突然の思いもしない『鶴の一声』があった事によって、私達はその依頼を引き受ける事となってしまったのだった。



「…………」



 ……あれれ?おかしいな?もう食事はしなくていい身体の筈なのに──久々にお腹の辺りが『きゅっ』と痛む私なのであった──。






またのお越しをお待ちしております。

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