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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
628/790

第628話 下弦。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 『……ろむ……』



 エアの『イライラムカムカ』が、次第に解れていくのを私は感じていた。

 ……この『想い』がちゃんと届き、それをエアは素直に受け取ってくれたのだろう。


 拙い言葉ではあったが、エアの気持ちが穏やかになってくれたのなら、それだけで十分であった。

 ……寧ろ、普段からもっとちゃんと伝えられていれば良かったとも思う。



「…………」



 なのでこの際だからと、『心は淀んでなどいない』と伝えた後に、今まで何となく気恥ずかしさもあって伝えきれていなかった事も含めて全部エアへと伝えてみる事にしたのだった……。



 『エアの心』はまるで美しき『音色』の様に感じるとか。

 エアが伝えてくれる『声』はどれも心地が良くて、私はその声を聞いているだけで自然と耳が喜んでしまうのだとか。

 また同様に、『エアの心』と通じ合ってからは、私も『ずっと幸せ』なんだとか。



 ……無論、それは『心が通じ合っている』からこそ、普段よりもスラスラと伝えられている想いである事は間違いなかった。きっと言葉だけだったらこうは上手くいかなかっただろう。



 それも普段、無意識的に相手に抱いている感情を、全て言語化するというのは存外に難しいものだ。

 だから、それを意識してかつ正確に伝えると言うのは、この『心が通じている状態』だからこそできた事で、『心が通じていて良かった』と改めて私は思ったのである。



 ……『好きな相手に好きだ』と伝えても、それが『どれだけ好きなのか』が上手く伝わらない事はよくある話だと思うが──それが今の私とエアの間では正確に伝わっているに近しい状態だと言えるだろう。



 そして、私の伝えたそんな想いに対して、エアは『大きな喜びと幸せ』を感じてくれている様子であった。

 同様に、私も『エアの心』から返って来る想いに『幸い』を感じており、まるで『花畑に咲く花が、一斉に花開く時の様な喜び』を感じたのだ……。



 それは互いにとって、とても心地の良い時間でもあった。

 だから、私はもっと伝えたくなって、更に続ける事にしたのである。




 『これからも好きなだけエアは響き続けて欲しい』と。

 ……恐れを抱く必要だってないんだと。



 ただ在るがままに。エアはエアらしくあって欲しいと私はそう想い続けたのだ。


 そして、そんなエアの全部を愛しく想うと──。



「…………」



 ……無論、少々自分でもらしくない似合わぬ気障ったらしい雰囲気が今日の私からは出てしまっている気もするが──どうやら、エアはこういうのも『嫌いじゃないっ!』らしいので、私はそのまま続けている。たまたまそういう気分だったと……そういう事にしておこう。



 なので、気分が乗った私は更に続けてこんな想いもエアへと届けてみたのだ……。



 『エアが自分の心を信じられないなら、その想いすら私に響かせてくれればいい』と。

 『そして、またその時には代わりにこうして私がちゃんとエアを信じさせてあげるから……』と。

 『どうか自分を嫌いにならないで──』



 ──と、そんな風な事を伝えながら、私は『ヒシッ』と抱き付いているエアの髪を撫で、その耳に触れ、頬に手を添えたのだった。



 すると、その時にはもう先ほどまでぎゅっと固く結ばれていた筈のエアの口元も随分と優しく緩んでおり、その口角も少しだけ上がって、いつものエアの綺麗な微笑みがそこには浮かんでいたのである。



 『……うんっ、分かった。わたしもその運命を信じてみる。──ううんっ、愛しきロムを信じるっ。わたしの気持ちもきっと不変なんだってっ』



 ……と、そうして私と見つめ合ったエアの表情は、これまでにない位に熱っぽくなっていた。

 自然と、私達の顔はまたゆっくりと近付いていく……。



「──ずっと大好きだよっ。ロム」


「……ああ、私もだ」



 そして、当然の様に私達の間にはそんな心地の良い『音』も生まれ……。

 ……言葉にすればそれはただの『愛の囁き』にも聞こえるかもしれないが、その中には確かな『運命』を私達は互いに感じていたのであった──。



「…………」

「…………」

「…………」




 ──ただ、因みに言うと、今こんな事をしている私達は『街の中心』にほど近い場所に居たりもする。


 なのでそれは当然の様に、傍などには魔術師ギルドや、人々が活発に出入りする商店などにも近しい訳で、このやり取りはそんな多くの人々の注目をちゃんと集めていたりもするのだが……。

 ま、まあ、言わずもがな、私達はその時になって『ハッ!』として気づいたのである。



 だから勿論、周囲の者達はこちらを『ほうほう』と興味深そうに眺めていたり……。



 『あれってなんかの劇の一部なの?』とか。

 『さぁ?普通に真昼間から睦んでいるだけじゃない?』とか。

 『あの子って泥の魔獣の恋人?』とか。

 『えーー、恋人いたんだー。……でもそれじゃあ、黒雨はどうなっちゃうの──』とか。



 ……そんな話が、チラホラと私の耳には届いて来たのであった。



 それに、中でも少々具合が良くないのは、そんな者達に紛れて何故か真顔でこちらの様子を観察しているギルドマスターの姿があったり、何故か何らかの『詠唱魔法』を試している『吾輩』の姿があったりと、知り合いなども普通にそこに居た事である。



 だから、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ恥ずかしさは倍増した……。

 特に無言のまま見つめてきて、真顔でいるのは特にやめて欲しいと思ったのである……。


 せめて、まだ冷やかしてくる位はしてくれた方が恥ずかしさも落ち着いたと思う……。





 ……その為、若干だが私もエアもすっかりと『心』が熱くなっているのを感じている。

 無論、どうやらエアも私の『心』を介してそんな現状に気づいてしまったようだ……。



「…………」


「…………」




 なので、『どうする?』『どうしようか?』と、私達は互いに『心』と視線で語り合っていた。



 ……ただまあ、そりゃ周囲から視れば、私とエアは急に街の中心で抱き合い始め、地面に隣り合って座りながらずっと見つめ合っていた状態なので、奇譚な姿に映った事は間違いないだろう。



 無論、街の中心部で行う様なやり取りではなかった事は確かだし、これについては私達の完全なる不注意ではあったと理解もしているのである。



 だが、そうは言っても『──皆さん少々、私達に注目を集め過ぎではありませんか?』と私はそう思った。



 ……ただそれも、少々冷静になってみればそんな理由など考えるまでもない訳で──既に街中に『泥の魔獣の絵』やお話が広まった後でもあるこの街においては、私達が向こうの事を知らなくても、周りの者達は私の事を皆が知っているので、そりゃ気になっても仕方がないのは当然の話である。



 それも、最初は怒っていた様子のエア(凄い美人さん)が、今はもう潤んだ様な視線を私に対して向けている状態で、更には──という雰囲気になっている為に周囲の興味を惹き付けてやまなかったらしい……。



 ……要は、私達の限りなく『甘い雰囲気』が漂っているのを察した者達が『あー、そう言う関係なのね。ふむふむ、何やら喧嘩していたみたいだが仲直りも出来て良かった良かった』と、頷いている感じだ。



 また、他にも見物人は沢山居てそれも時間経過と共に少しずつ増えているのだが、『──おっと、泥の魔獣の新作のインスピレーションがこんな所に……さて、それじゃあ、せっかくだし絵にしておこうね~』と、いつの間にか冒険者ギルドで見かけた覚えのある画家等もしれっと混ざっているので賑わいは治まりそうもなかったのである……。



 下手したら、その内描き上げた物をそのまま販売しかねない勢いでもあった……。




「…………」


「…………」



 ……なので、そうなる前に私とエアは『すくっ』と立ち上がると、手を繋いでそそくさと走り去る事にしたのは言うまでも無い話なのだが──更に言えば、その日から『泥の魔獣と恋人』という絵が早速と『各ギルド』から一躍広まったのも言うまでもない話のであり……それをきっかけにしてまた別の騒動が発展してしまう事なども、言わば当然の様な流れなのであった──。







またのお越しをお待ちしております。

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