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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第627話 更待。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 エアの『心』は最初に『恥ずかしくて情けない』と言う思いを私に伝えて来た。


 そして──



 『ロムの心を感じる様になって、わたしは初めて自分の心がこんなにも淀んでいる事に気づいたのだ』と。


 誰かを真っ直ぐに思う事は難しい。

 そして、誰かを真っ直ぐに想い続ける事はもっと難しいのだと。



 相手に向ける理想や、相手から向けられる理想。

 互いの想いと自分達を取り巻く環境、周囲との関係性。

 それに伴い、時間と共に変質していく心の模様。


 ……そして、醜くも美しい、どうしようもない独占欲。



 『ロムの名誉を守りたい』と。



 そう思って自分から周りと関わる様にロムへと薦めたのに……。

 気づけばロムが他の人達と仲良くしている姿を見ると、自然と『む?』っとして目で追う様になってしまっていたと。



 そして、あからさまにロムに好意を寄せている人達を見ると、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ『ふーん、仲良いんだねーっ』と、そんな風に思ってしまう自分がいたらしい。



 ……そんな自分の『心』の矛盾が、エアは恥ずかしくなったのだとか。

 『ロムから伝わる『心』は本当に真っ直ぐで、揺ぎも無いのに、わたしのはあまりにも揺らぎが多過ぎるんだ』と。



 『…………』



 ……私には私の経験がある様に、エアにはエアの経験がある。

 そして、私達が出会ってからの数十年、旅をしていく中で様々な人達と接してエアもまた様々な教訓を得て来たのだ。



 当然、そんな教訓の中には、エアの恋愛観にも影響を与えるものがあったらしく……。

 エアは『人の愛が移り変わりやすいものでもある事』を知ったのだそうだ。


 ……まあ、伝聞でしかないものの『普通は相手を想い続ける事は難しく、激しく熱くなる時もあれば冷める事も当然の様にあるのだ』と。


 どんなに好きでも、最初の頃の激しい想いがずっと続く事は少ないのだと。



 それに、燃やす為には燃料も要る。

 それは当然の様に、残りの燃料が少なくなれば、燃え続けるのも難しくなるのである。



 『時々、相手のどうしようもない部分を見て冷める事だってあるんじゃない?』と、そんな風な話を聞けば『そういうものなのかー』と思う様にもなるのだ。



 そして、その熱が冷めた時に、人の愛もまた冷めるのだろうと。

 そうした時に、一緒に居るのが辛くなり、人と人とは離れていくんだと。



 『…………』



 それを知ったエアは、自分の『心の淀み』をその熱の揺らぎだと思ったそうだ。

 ……だから、どうしようもなく恐ろしくもなったのだと。



 ロムはずっとわたしを見てくれているのに……。

 わたしが想う以上に、ロムはわたしの事を愛してくれているのに……。

 それが嬉しくて、大きな愛で包まれていて安心もしているのに……。



 それに対してわたしは?と。

 そんな愛に包まれているわたしの方はどうなんだろうか?と、それを思うと不安になってしまったそうだ。



 『…………』



 それに、ロムの真っ直ぐさを感じれば感じる程、尚更自分が淀んでいるのが分かってしまったのだと。


 ……その『淀み』は、先も言った通り気持ちの揺らぎでもあるから。


 そしてその揺らぎとは、どうしようもないわたしの自然な『心』の移り変わりであり、わたしの意志ではままならないものでもあるのだと。



 ──だから、わたしは急に恐くなったのだ。

 いつか自分の心が冷めて、ロムを愛せなくなってしまうんじゃないかと。



 だがしかし、もしもそんな時が来たら、わたしはわたしを許せないと思った。

 わたしが怒りを向けるのは、そんなわたしの『心の淀み』そのものなんだと。



 熱く感じている今だからこそ冷めるなんてあり得ないと感じているだけで、この気持ちも変わってしまうのだろうか……。


 でも、その揺らぎを感じている以上は、わたしも変わってしまう可能性があるという事なのだろうと。



 ……だからそんな歪な自分に『イライラムカムカ』して堪らなくなったのだ。



 ロムの愛に報いるだけの愛を、わたしは全然返せていない。

 ……それなのに、この気持ちはずっと続くかもわからないのだ。



 ずっと一緒に居たいと願うのに。

 自分で自分を信じきれないのが苦しいのだ。



 でも、こんな気持ちをロムにはぶつけたくなかった。

 ……そんなのはあまりにも恥ずかし過ぎるだろう。情けなさ過ぎる。

 ロムはあんなにも真っ直ぐなのに……と。



 『…………』



 それに、ロムから伝わる『他人』へと向ける思いは、簡単に言えば『野生の動物』に向けるのと殆ど変わらないものだとエアは感じたらしい。


 だから、『もしもロムに嫌われたら、自分もそうなってしまうのだろうか……』と、そんな事も考えてしまったそうだ。



 『レイオスさんやティリアさんが言っていた事と、そして精霊達が抱く気持ちも分かったのだ』と。



 『繋がり』を離してしまえば、ロムはきっと遠くに行ってしまう。

 そしたらもう二度とロムは戻って来てくれない気がする。

 一緒には居られなくなる……。



 そんなのは嫌だ。

 でも、そう思えば思う程に、増々自分が淀んでいく気がしたのだと。


 前までの様に、無邪気を装ってロムに抱き付く事すら困難になっていた……。

 近付き過ぎれば、そんなわたしの『淀んだ心』までもが伝わってしまいそうだから……。



 ──だが、その為の解決策として『心』を離す事は絶対にしたくなかったのだと言う。


 世の中には魔術師ギルドのギルドマスターの様に『心が通じ合う事』を『気持ち悪い』を感じる人もいるかもしれないけど、『伝わらない方が良い事なんて絶対に無い』のだと。



 だって一度知ればわかるけど、ロムと繋がって『心』を通じ合わせた後の安心感はとんでもなく素晴らしい感覚なのだと。



 ……一度知ってしまうと、絶対にもう離れたくないと誰でも思う筈。



 幸せな気持ちが『心』を向けるだけですぐそこにあるのだ。

 人は誰だって独りになる瞬間がある……けど、それがなくなるんだと。



 それなのに、そんな『素晴らしいもの』に対してわたしの『心』はなんと不甲斐ないのだろうか。

 こんな曖昧な感情が恐くなった。愛する事すらも恐くなりそうだった。

 ……少しでも変化してしまったら、そのまま一気に熱は冷めて変わってしまうかもしれないのだ。



 『……分からない。分からないけど、こんな事を思う自分にもムカムカする。自分が情けなさ過ぎて嫌になりそうだ……』と。



 『…………』



 口をぎゅっと閉じながら、『本心』からそんな風に本当の『怒り』を晒してくれたのが分かった。

 ……気づけばその瞳は、少しだけ潤んでいる様にも視える。



 こういう時って、なんで何かを告白しようとすると、どうしようもない涙が溢れそうになるのだろう。……それすらも分からない。それにすらなんでかもう『イライラ』する。負けた気になる。



 ──と、エアから伝わる想いにはそんな気持ちも混ざっていたのだった。



「…………」



 私はそんな『エアの素直な心』の声を静かに聴き続けていた……。

 そして、一通りの『心の声』が治まると、今度は『私の心』にエアが『答え』(『反応』)を求めている事も伝わって来たので──私はこんな風に返したのだ。



 『……エア、私達が一緒の時を生きる様になってから、今日でどのくらいの時間が経っただろうか?』と。


 無論、その間には私が寝てしまっていた時間もあるから正確には測れないけれども、少なくとも五十年は一緒に居る筈だと。……眠っている間も合わせればきっと六十年以上は間違いないだろうと。



 ただ、私としてはその時間は本当にあっという間の事で……。

 当然の様にこの間には色々な事があって……同時に『世界』すらも色々と変化したけれども……。

 私がエアに向ける気持ちは日々積み重なり増える事はあっても、減る事は一切無かったのだと。



 そして、敢えて伝えておくと、長命な私達だからその六十年という時間はあっという間に感じるものだったが、普通の『人』であればそれはもうほぼ『一生分』に近しく……この『想い』は既に『一生分の愛』を抱いているのとそうそう変わらないのではないかと私は思ったのである。



 ──それを思うと、要はこれはもう『不変の愛』に近しいのではないだろうか?

 ……むろん、『人』を基準とした場合の話だが。



「…………」



 そして、ティリア曰く『恋も愛も一晩で出来る』そうだが、『運命』を感じた時にはその限りではないらしいのだ……。



 ……それはつまり、私はもう『運命』を感じているのだと思うのである。


 だから、エアに向ける気持ちが真っ直ぐで変わらないのだとしたら、それはきっとそのせいなのだろうと──。



 『…………』



 ──既に、私達の一部はそんな『運命』で繋がっていると言えるのかもしれない。


 ……実際、私という『領域』とエアは確実に繋がっている訳で。


 だから、言ってみれば感じ方に差があるのだとしたら、それはきっと『領域』との繋がり方の差でしかないのではないかと、又はその影響の大小なのではないかと私は思ったのだ。



 それでつまりは、何が言いたいのかと言うと……。

 そもそもの話として私は『エアから伝わる想い』が私より少ないとは全然思わないのである。

 いや寧ろ、私よりも断然大きい様にも思うのだ。それももの凄く……。



 あと、いずれ熱が冷めるか否かの話だが、基本的に私達は何かを燃やす事は苦手なのである。

 また、『人』の様に無理や無茶をする事だって普通にはしないだろう。

 『鬼人族』においては、そもそもが常に全力を出している様な種族なので尚更である。



 なので、要はこれが私達の『普通』であって。

 ……もっと言うと、気持ちを燃やす必要だってないと私は思っているのだ。

 当然、そこには燃料だっていらないし、熱そのものは感じるかもしれないが、それは自然な互いの『平熱』でしかないとも思うのである。



 そして、『平熱』とは本来、基本的に『無いとダメなもの』でもある訳で。

 つまりは、私達が『普通』でいる為には、私達はもう互いに『傍に居ないとダメなんだ』と、勝手に私は解釈していたのだ。……そして、そんな『運命』で私達は繋がっているのだと。



 だから、『人』の言う『愛や恋』だなんてものは、私達はもう超えたところに居るのではないか?と、そんな感じの事を私は伝えたかったのだ。



 なんとも説明がへたくそで、不器用だと自覚するばかりではあるが……。

 『私が常に君を愛している』と言ったその気持ちに変化が無い事は分かってくれるだろうか?



 ……つ、伝わっているかな?



 『……ロム……』

 


 ……それに、もう一つ言わせて貰うが、私がエアから感じる想いに『淀み』なんてものはそもそもないのである。


 エアから感じる『心』は軽々と跳ねる様で、そして空を翔けるが如く自由だとしか思えない。


 それに、エアから伝わる想いはどことなく『音』にも似ていると思うのである。


 ……だから、それが歌の様に時に強くなったり、時に弱くなったりする事もそりゃ当然の様にあるのだろうと。



 そして、その『音の揺らぎ』は──その『響き』は──いつも私の『領域』を彩ってくれているのである。


 こんな不愛想な男の代わりに、君はいつだって笑ってくれているのである。



 ……それがどんなに喜ばしい事か。それを私がどれほど愛しく思っているか。



 それがもっと伝わって欲しいと、私はそう想うのだった──。




またのお越しをお待ちしております。

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