第620話 燕雀。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
近い将来、『詠唱魔法』は恐ろしき魔法へと変貌する可能性がある……。
ならば、それを知ってしまった『感覚派』の魔法使いであるエアと私は、当然そんな危険人物をそのままにしておける訳もなく──
「──だーかーらっ!『音程』が合ってないと威力が安定しないでしょっ!これも最初から定めておくべきなんだって!」
「いやいや~~、大事なのはまず魔法が確りと発動するか否かだ~~。『吾輩』の計算だと威力の大小は後でどうとでもなる~~。それに音程までを発動条件に組み入れてしまうと~~音痴では使えない技術になってしまうだろう~~?ちなみに、吾輩は音痴~~だからいやだあ~~」
「でも、それ位の発動条件は付け加えておくべきっ!そうじゃないと『詠唱魔法』の危険性が一気に上がっちゃうからっ」
「んん~~、正直そこまで危険視する様な技じゃないんだがな~~」
「危険視してよもうっ!さっきも説明したけど、この技は『使い方次第』で凄い事になっちゃうんだってばっ!」
「だが~~、いや~~、そもそも吾輩には『音程』とかわからんしな~~」
「…………」
──と、そんな感じで『震える木漏れ日』に対しての改善点を挙げながら、私達はその魔法の完成度を高めようと話し合ったのだった。
……因みに、少々思わせぶりな事を言ってしまったかもしれないが、私達は彼の邪魔をするつもりは毛頭ないのである。
と言うのも、そもそもここに来た目的はギルドで『新型魔術の実験台募集』という依頼を引き受けたからだ。
だから、最初から私達は彼に協力する気満々なのである。
……なので彼に危害を加えるつもりは微塵もない。
時に権謀術数渦巻く社会の中では、自分達にとって都合の悪い相手を須らく排除すべきだと考える者もいるとは思うが……私達はそんな風な考えには全く至らなかったのだ。
……無論場合によっては、もしもこれが『精霊達』に関する実験だったりしたら話はちょっと変わっていたのかもしれないが──今ここで実験台となっているのは私だけだし、『吾輩』の魔法を受けてもそんな私には傷一つ付かないので全く問題はなかったのである。
まあ、『吾輩』の方は少々私の防御能力の高さが予想外だったのか驚いていたし、私達も少々『吾輩』の独特の間延びした話し方が少し気になりはしたのだが……精々気にかかったのはその程度の些細なものだった……。
「…………」
……因みに、彼の話し方が間延びしている理由は、あまりにも久々に他人と話すものだから、彼の元の話し方がどんなだったか忘れてしまったのだと言う。
どうやら実験途中だった事もあって、暫く『震える木漏れ日』仕様の話し方を徹底していたら逆に直ぐには元に戻せなくなってしまったらしい……。
独特の『詠唱法』などを編み出そうとすると、昔から魔法使いは時々こういう状態になる事があった為に、私としてはさもありなんという感覚である。
「…………」
それに、『吾輩』やエアが言った通りではあるが、いずれ『詠唱魔法』が『音の震え』を介して猛威を振るう様になったとしても、それはまだまだ先の話だとも思った。
……それ故、先ずは『音程』を解する必要がある事も踏まえて、前提としてそれを発動条件に土台として組み込んでしまおうとするエアの考え方はとても正鵠を射ている様に思う。
『音程』を正確に理解し、『音』を自在に操れるようになれなければいけないと言う制約をつければ、脅威も安易に広がりはしないだろうと。
それによって習得は自然と難しくなり、無暗に『震える木漏れ日』を誰かが扱う様な心配もなくなる。
安易に発動できてしまうと、それだけ何かしらの事故が起きる可能性も高まるから、ひいてはそうする事で変に危険視しなくても済む様になるだろうと。
……無論、エアの様に『音』に対する親和性が高いと『音程なんて合わせるのも簡単だから……』と思う部分もあるのだろう。だからこそ、そう言う対策を確りとしておくべきと感じているのかもしれない──まあ、実際はそう思えるのはきっと少数派だろうなとは思うが、こういう部分に気付けるのは大切な事だとも思うのである。
……まあ、私もどちらかと言うと心情的には『吾輩』寄りではあったので、彼の気持ちもなんとなくは分かる気がしたのだ。
「…………」
……だが、言わずもがな魔法使いとして真に正しいのはエアの方である。
先(未来)を見据えて、最初から確りと土台を築き、その上で魔法を積み上げていこうとするその姿勢は、まさに一流の魔法使いの姿であった。……私はそんなエアの姿に自然とまた深い感銘を受けている。
その姿のなんと神々しき事かと……もう筆舌に尽くし難いと、そう思っていた。
『金石』冒険者の正しき姿はこれなのだと、改めて理解が出来た気もしたのである。
これまで『まやかし』の様な『金石』冒険者ばかりを見て来た為、尚更に本物の『金石』冒険者の姿がカッコよく見えると言えばいいのか──思った以上に感動を覚えてしまっている感覚だった。
……ただ、きっとそんなエアの姿こそが、今の私に求められる『良い意味での目立ち方なのだろう』とも思い、私もエアを見倣って今一度気合を入れ頑張る事にしたのであった──。
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