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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第617話 人事。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。





 久々に訪れた冒険者ギルドは、少しおかしな事になっていた……。


 ──『魔物の絵の販売』という、そんな何ともニッチな事をしていたのである。



 ……昔からギルドには『魔物』に関する情報が集まっており、冒険者達は自分達の活動する範囲の情報を仕入れて対策を練って来た訳なのだが、こうして実際の『魔物の絵』を新たに描き、販売すると言う事まではしていなかったと思う。



 聞けば、この街の冒険者ギルドだけの行いではないらしいし、『黒き白銀』の及ぼす影響が私達の想像していたよりも大きかったと言う事なのだろうか……。



 他にも色々と理由はあるかもしれないが、とりあえずは人々の中に『魔物の絵が欲しい』と思わせる何かしらの変化があったのは間違いないようである。



「…………」



 ……でも、時代は変わる時には一気に変わるものなのだろうと思うと不思議なものに感じたのだ。


 でもまさか、『魔物の絵』にお金を払い、『キャッキャウフフ』と嬉し気にする者達がこんなにもいるとは思いもしなかったと言うのが正直なところである……。



「……別に、魔物なら何でもいいとかじゃないと思うよ?──ほら見てっ!よく描けているでしょ?こんなに良い物なら、欲しい!って思う子は沢山いると思うよっ!」



 ……と言うのはエアの言だが、まあどうやら()の理由としてはそう言う事であるらしい。

 意外と『泥の魔獣』の絵は人気だそうだ。




 無論、既にそれ以外の情報収集も終えており、()の事情についてもちゃんと把握はできているのだ……。



「…………」



 と言うのも、どうやらこの『魔物の絵の販売』だが。実は思ったよりも大きな思惑があったらしい。

 それも、私達がしようとしていた事に近しく、『イメージ改造作戦』の一部であったようだ……。



 ただ、当然の様にこれは『私』に対するイメージ改革などではなく──言わば『魔物と身体的特徴が酷似している者達』に対する救いでもあったのである……。





 人々が『魔物』を認知してからもうどれだけの月日が流れただろうか……。


 ……ただ、言わずもがな既に数十年の月日は流れている訳で、相応に人々の中にも『魔物』とはどういう存在であるのかを理解し始める事ではあった。

 それと同時に、理解すればするほどに相応に恨みも深く積み重なっているのが現状だと私は思うのである。



 そうして、名称まで付けられ『ゴブリン』や『オーク』などと呼ばれる事になった『魔物』達は、元となった『人』の『力や性質』を色濃く受け継ぐ存在であり、生まれ変わった後はまた別の『人』を襲う存在で在った。



 当然、そんな『魔物達』によって、別の大切な者達は傷つけられ──傷つけられた人々は、そんな『魔物達』を憎しみ、それと同種となる存在をも憎しみの対象としていくのである。



 そして、ここまで言えばもう分かるかもしれないが……当然の様に、同じ『人』に対しても『魔物』と似た部分があると、自然と『憎しみの対象』と重ねて見てしまう者が中には居る事もまた現実であったらしい。



 無論、比較的身体的な特徴の少ない『ゴブリン』や『オーク』などは別としても、『鬼人族』と似た様な『角』を持つ『オーガ』などの存在は、その象徴となる部分があからさまに酷似しており、『憎しみの対象』としてはまさに重ね易かったのだと思うのである……。



「…………」



 ……そうなると次に起こるのは、悲しい事に激しい『迫害』であった。


 同じ『人』であるにも関わらず、分かっていても自然ときつく当たってしまう事があったのだろう。

 または、自然と諍いが起こらない様にと距離を取ったのかもしれない。



 だが、それらは全て『似ているから』というただそれだけの理由であった。

 当然、迫害をされる側にとってはどうしようもない事でもある。



 それも、『森に生きる者達』は特に身体的な特徴も顕著であり、『魔物』となった場合にもかなりその『性質』が色濃く表れてしまうのだ……。



 ……先にも挙げたが、『オーガ』の例などが最も分かり易いだろう。



「…………」



 無論、大切な者達を傷つけたのは『魔物』であり、『人』ではない事をちゃんと理解できている者も中にはいる。


 ……寧ろ、多くの者達はそんな考えの方が多かったとは思うのだ。



 ──だがしかし、『角を生やした魔物』に、『親や子』を殺められた者達としては、自然と『角』を持つ種族である『鬼人族』に対して、見る目や態度が変わってしまうのもある意味では仕方がない話であった。




 ……分かってはいるが、それぞれの『感情』がどうしようもない部分があったのだろう。

 ……それを責める事は、きっと誰にもできないと私は思う。



 ただ、無情にも『魔物と人』を重ねてしまい、嫌悪を募らせ、人々の中では更なる争いへと発展しそうな状況へとなりかけていた。



 ……だが、そんな争いを避ける為にも『森に生きる者達』は『里』へと籠もる様になったそうだ。



「…………」



 ……またそれと時を同じくして、ここ最近『耳長族(エルフ)』にも、酷似する『魔物』が現れる様になった。それも、今では『闇落ち』という通称でも呼ばれる様になったのだと言う。



 元々、『神兵達』が『人を喰らう』際に、『闇をまとった様な状態』になる事から──『魔物達』全体を一部では『闇落ち』と呼んでもいたそうだ。



 そして、そこから端を発して『魔物達』を動物達と区別する為にも名称を付けるようになったのだが、他の種族が軒並み『肉体が異形化』する中『耳長族(エルフ)』だけは大きな見た目の変化がそこまで見られなかった事によって、いつしか『魔物全体』を指していた『闇落ち』がそのまま『耳長族(エルフ)に似た魔物』の通称として残ったらしい。



 とりわけ、そんな『闇落ち』の中でも筆頭として知られる様になった『泥の魔獣』──既に『災厄』とも呼ばれる程の『凶悪な魔物』であり、それこそが例の『黒き白銀』の事ではあるのだが──残念ながら一般的には『泥の魔獣』だと勘違いする者が多いと言うのが現実なのであった。



「…………」



 ……ただ、『各種ギルド』でも未だ判断に迷っている部分はあるそうで、『本当に『泥の魔獣』なのか?もしかしたら違うんではないか?』と噂されてもいる事もあるらしいのである。


 無論、一般的には勘違いの方が主流派なのだが……逆に『相違点』も多く見受けられる事から、一部では区別して『黒き白銀』を『黒雨の魔獣』として呼んでいる場所もあるらしい。



 また、そんな一部の噂を更に抜粋するならば、かの『魔物』は『泥の魔獣』が『闇落ち』した姿だとか、はたまた『泥の魔獣』の子供だとか……そんな色々な噂もあったのである。



 当然、そんな数々の噂の根幹となっているのは『あまりにも姿がそっくりである』という話であり、私もまた『黒き白銀』の被害にあった多くの者達からは『憎しみの対象』として見られていると言う話であった……。



 『耳長族(エルフ)』からしても迷惑な話だ。

 『……お前さえいなければ』と思う『同族』もさぞかし多かろう……。 



「…………」



 ……だがしかし、そんな悲しい現実をそのままにしてはおけないと、そう考えた者達も居たらしい。


 冒険者、魔法使い、剣闘士、剣舞士、傭兵、騎士、教会、魔法道具職人、商人、画家──それだけではなく、それ以外の中にも沢山の者達が『何らかの繋がり』の下に協力し合い、そんな悪い方向から別の道へと歩みを変えようとしていていると私達は聞いたのだ。



 そして、『魔物の絵の販売』もまさにそんな歩みの一つであったらしい。

 ……『魔物』とは何なのか。『人』とはどんな違いがあるのか。

 それをちゃんと目に見える形で残し、明確にしたかったのだろう。



 『……憎しむ相手を間違えるな』と。



 まあ、思惑と多少外れた道を辿ってしまう場合も時にはあったみたいだが……それでも結果的には良き方向へと繋がっているならば良し、と思う事にしたのだろう。


 ……要は『泥の魔獣』の絵が不思議と売れているのも、たまたまの事で、そんな結果の一つであったらしい。



 勿論、『絵』だけではなく『繋がりの下に集いし者達』はそれ以外にも『弁が立つ者は話』で、『身体で語れる者は行動』で示したのだとか……。



 そして、そのどれもが些細な事かもしれないが、それぞれで出来る最善を尽くしているそうだ。

 他の大陸でも、一部『英雄』と呼ばれる者達を筆頭に、人々は団結してこの問題に対策しているとも聞く。



 皆で協力し、安易な道を辿らぬようにと、互いが互いを支え合って歩き始めようとしている様に私には聴こえた……。


 それはまるで──



 『舐めるなよ』と。

 『俺達はそんなに愚かではないぞ』と。

 『感情に流れて憎しみ合うだけではなく、ちゃんと変わっていけるのだ』と。



 ──そんな風に言っているかのようであった。



 確かに、『世界』にはどうしようもない事は多いけれど……。

 そんなどうしようもない『感情』さえも、小さな意識の積み重ねで変えていける筈なのだと。

 一人では変えられない事でも、こうして皆で変えていけばやがてそれは大きな流れになるのだと。


 

 ──要は、これも『力は使い方次第なのだ』と……。



「…………」



 ……そんな、裏の事情を知れば知る程に、私は友の言いたかった『人との繋がり』とは何なのかが──漸く少しだけ、なんとなくだが分かったような気がしたのであった。



 無論、ちゃんと上手く説明できる気はしないけれども……。

 ただなんとなく『……あぁ、こういうのも悪くはないなぁ』と思ったのだった……。



 結果的に、その日の私はちょっとだけ……ほんのちょっとだけ『人』の事を好きになれた気がしたのであった──。





またのお越しをお待ちしております。

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