第610話 空想。
「……それでねあの子達、結局は私達とは別の道をいく事にしたみたい。……ただね、その時に実はわたし、あの子達から『欲しい』って言われちゃったんだっ」
「……ほしい?なにをだ?」
「うんとねっ、『わたし』の事が欲しかったんだってっ──だから『お姉ちゃんも一緒に来てっ!』って。『このまま三人で冒険者としてやっていこうよ!』って……」
「……そうか」
「うん」
「それでは……」
「……うんっ、わたしはロムと一緒がいいからって断っちゃったのっ。勿論、あの子達の事は好きだし、一緒に冒険者として活動するのも楽しいとは思ったけど……わたしの『心』はずっと昔からロムの隣りにあるから──わたしの居場所はここだからね」
「……う、うむ、そうだな」
「……うんっ、そうなのっ!──えへへー、ロムー照れてるでしょーっ!もう分かっちゃうんだぞーっ!」
「…………うむ」
──目覚めてから数日が経ち、私はその日エアから双子達の話を聞いていた。
既に『大樹の森』にその姿がない事は確認していたが、居なくなった理由は何だったのだろうかと……。
……ただまあ、その理由についてはある程度は察している部分もあったので驚きはなかった。
そもそもこれは眠る前にも薄々感じていた事だし、実際原因もその通りのままだったから──。
どうやら、私はやはり双子達から嫌われて……いや、正確には二人の『理想』としていたものを大きく損なってしまった事によって、一緒に居る事が受け入れられないと双子達に思わせてしまったらしい。二人は自分達から私達の元を離れていってしまったのだ。
と言うのも、もう少し詳しく語れば、きっかけは『エアの追憶』にも関係するのだが……。
二人は既にエアに対して『尊敬や憧れといった以上の感情』として、『深い愛情』を……んー、もっと分かり易く言うのならば『……恋愛感情?』に近しい『真剣な想い』をエアへと向けていたようなのである。
それも、親である『レイオスとティリア』を失った事も影響し、元々『本当の姉』の様に慕っていたと言う下地もあったのだろうが……二人は本気でエアの事を愛していたようだ。
だから、つまりはそんな『好きな相手』の『想い人』が──『私』というのは、二人からするとどうにも『ムシャクシャせざるを得ない状況』であったのだと思う……。
「…………」
……それに、その『エアの想い人』がまだ二人が納得する程に優秀かつ、エアとも『お似合いだと思えるほどに祝福できる存在』だったのならば諦めもついていたのかもしれないのだが──
正直ここ暫くの私と言えば、ポンコツの代名詞みたいな感じの事が多かった訳で……。
その上更に、ここ『二十年』は『迎えに行く』と言っておきながら帰って来なかった様な存在であれば……。
それはもうまず間違いなく、傍で『寂しそうにしているエアの姿』を見てきた双子達からすれば、『あいつ(ロム)はもう許せない!』と憤ってしまっても仕方がないと思える話であった。
……客観的に、それはどう考えても悪いのは私である。
「…………」
……きっと、双子からしても私の事などはどうでもいいのだろうが、エアを大事に想い過ぎるがあまりに、そんなエアを悲しませる存在を受け入れる事ができなかったのだと思う。
それに私が『泥の魔獣』として一部からは知られている事も合わさり、様々な『災い』に関する話にも事欠かないとくれば、双子達の私に対する内心の悪評は更に積み重なっていた筈である。
噂話や世論と言うのは、時に自然とそうした悪評で『心』を蝕んでいくものだ。
……この街で過ごしていたのであれば、尚更にそうだったろう。
「…………」
だから、その結果として双子達は私に対し『深い失望』をするに至り……エアを連れて他の場所に行こうとして誘ってもみたが──そんなエアからも『完全な拒絶』を受けてしまったが故に、二人はここから去ってしまったのだった。
『自分達よりも、私の事を選んだ理想が憎い……』と、そうなる前に別の土地へと双子達は旅立ち、そして彼らなりの道(解決策)を見つけるつもりなのかもしれない……。
「…………」
……そうして旅立つ事になった双子達は、『旅のお守り』として『私が作った加護矢』を持って去ったとも聞き、少々感傷に浸る私なのであった──。
またのお越しをお待ちしております。




