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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第608話 以心。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




「…………」



 以前にも似た様な失敗をした事があった。

 ……そしてその度に、『次はもう同じ過ちを起こさぬ様に』と自らを戒めてきた筈だ。



 ──それなのに、また私は……どうやらまた同じ過ちを繰り返してしまったのだと、目を覚ましてから気が付いたのだった。



 恐ろしい程に空気が澄んだ『雪ハウス』の中……その空間は私から自然と漏れ出た『魔力生成』の魔力によって、『魔境以上の魔境』と言える位に高濃度魔力が満ちる異常の空間となっている。



 ある程度長い時間、同じ場所に留まり過ぎていると『大樹の森』と同様にこうなる事は今までにもあった事だ。


 ただ、室内がそこまで広くはない空間だったとは言え、これ程までに濃度が濃くになるにはそれ相応の年月が必要であり、それによって私は『自分が寝坊し過ぎてしまった事』に直ぐに気づく事ができたのであった。



 『やってしまった……』と思った。私は一気にサーっと血の気が引き、汗が吹き出てくる感覚に陥る。


 ……同時に、真っ先に浮かんだのはエアの顔であった。



「…………」



 泣いてはいないだろうか。

 故意ではないとは言え、こんなにも長い期間留守にしてしまった……。


 きっとまた寂しい思いをさせてしまっているに違いない……とそんな気がしたのだ。


 ……いや、正直もうエアより、私の方が寂しくなってしまっていたのかもしれない。


 だから私は、直ぐに『雪ハウス』を飛び出し、エアを探しに行こうと思い立ち上がったのだ──



「……ん?」



 ──が、その瞬間私はエアがどこに居るだろうかと考えるよりも先に、『内側』にてエアの気配を感じる事ができたのだった。



 ……恐らくは『外側の私』と連動し、『内側の私』も──『大樹の森』に居る方の私も──長らく眠りについていたとは思うのだが、その傍にはちゃんとエアの感覚があり、当然の様に目を覚ますとそこにはエアの姿があったのだ。



 『良かった、エアだ。普通にエアが居た』と思った。


 ……ただ、そんなエアもまた一緒に寝ていたのである。



「…………」



 ……眠っているエアを見ると、やはり美しいとも思った。その姿は全然変わっていないと。

 それに、その額の上にある艶やかな二本角もまた綺麗に赤く煌めいていた。

 体調的にも元気そうで安心もしたのだ。



 既に出会ってから数十年は経つのだろうが、未だ無邪気にも私のお腹を枕にしながら寝ている彼女は、顔をこちらに向けたまま『ぽけーっ』と少しだけ口を開けた状態で涎の跡を残している。



 すると、私が起きた事で起こしてしまったのだろう……エアも目を覚まそうとしていた。

 『……すぅぅ、んんーー』っと息を深く吸うと薄目を開けてこちらを見ているのが分かる。



 そして、暫く薄目で私の事を見続けていたかと思うと、次第にその目はシパシパとしながら大きく開眼していき、遂には私をちゃんと認識できたエアは開口一番にこういったのだった……。



 『……ロムのばかっ』と。



 ……私は、その言葉に愛しさが溢れそうになる。


 そして、そのままエアの枕になりながら、私は囁く様なエアの話を聞き続けたのだ。


 エアは沢山の事を話してくれた……。



「…………」



 今さっきまでエアも寝ていたが、それは私と同じ期間を眠っていたとか言う訳ではなく、たまたま寝ていただけだったらしい。


 そして、やはり私が起きるのをずっと待っていてくれたそうだ。



 『数日経ったら迎えに来る』と言っていたのに、全然来てくれないから私の事を心配して沢山探し回ったりもしたんだと。


 それから、見つけたら見つけたで酷く疲れてそうな雰囲気を感じたから、そのまま寝かせ続けてくれたのだと。


 その間、冒険者として活動も普通に続けていたから、気づけばもう先に『金石』にもなってしまったと。



 ……寝ている私を待つ間にも、色々な事があったんだよと。

 本当に本当に、色々と大変だったんだと。

 ロムと会いたかったと……。



「…………」



 エアのその囁く様な語りは『二十年分の想い』が沢山こもっていた様に思う。

 ……同時に、その時になって私は自分が、『二十年』も眠っていた事を知ったのだった。



「……でもね、不思議と今回は『凄い寂しい』って落ち込む事はなかったよっ。どこからでも『大樹の森』に行き来できる様になってたし、ロムを以前よりもずっと身近に感じられる様になっていたから……きっと『これ』も、ロムがやってくれたんでしょ?──ずっとその調整の為に頑張ってるんだろうなーって思ってた。だから時間がかかってるんだろうなーって」



 その、エアが言う『これ』と言うのは……恐らくは私が『音』との取引で得たものだと直ぐに察した。

 ……正直、あれは微睡みの中で起きたただの夢だったのかも知れないと少しだけ思っていたのだが、どうやらそんなことはなかったらしい。


 本当だったようだ……。



「…………」



 確かに、改めて意識してみると私にもちゃんと『これ』を感じ取る事ができる様になっていた。


 ……因みに、『これ』について少し話すと、これは以前にも語った事があったかもしれないが、魔法と言うものは基本的に自分の『管理』から外れるまでは『糸』や『線』の様なもので繋がっており、それが切れるまではある程度操作する事が可能である──と言う話に繋がってくる訳なのだが。



 その際に、『糸』が切れてしまった後の他者の『管理』する魔法等は、自分が新たに『糸』を繋ぐ事によって代わりに思い通りに操れたりもするのである。



 また、この『世界』に存在する者達は軒並み何らかの形で、尚且つ多種多様な太さと関係性で『世界』と繋がっている訳で──



 要は、『世界』に存在する大部分の者達は『世界』とも『太い糸』や『太い線』で繋がっている状態だと言えるのである。



 よって、その『糸』で繋がっている内は『世界』の『管理下』にあるとも言える状態である為、常に何かしらの干渉を受ける可能性があったのだ。



 そこで私は、エアのその大元となる『世界と繋がる糸』を、私と言う『領域』へと取引で頂いてしまったと言う訳なのである……。



「…………」



 無論、あの『音』がそう言う存在であったかどうかなど正直私としては分かっていて取引をした訳ではなかった。


 ただ、眠る直前にエアの事を想い過ぎていた為、自然と『欲しいもの』を考えた時に欲深くもそれが真っ先にどうしても欲しくなって頭に思い浮かんでしまっただけの話である。



 だから、私としては自然とそれを口にしてしまっただけなので、本当に貰えるとは思っていなかったのだ……が、その微睡みの中で確かに『世界』がエアの『糸』を切ったと分かった瞬間、私は自分が出来る最速で直ぐに私の『領域』へと繋げてしまった覚えがあった。



 その結果、私とエアは今までよりも『深い糸』で繋がれるようになったと言う訳なのだろう。

 ……正直、勝手な事をしてしまったとも思うが、今の所エアも悪い感覚はないみたいなので、とりあえずは一安心であった。



「…………」



 と言うか、ある意味でこれを『運命』と呼んでしまうのは、傲慢な事なのかもしれないけれども……ティリアが言っていた『運命』を感じてしまう程に、私達は今までにないくらい魔力的な繋がりを得る事が出来ていたのである。



 それも、よく視れば『この糸は赤い色をしていた』。

 手を繋げばより自然と、より深く、エアの想いが伝わってくる。

 互いに、愛おしい気持ちが自然と漏れてしまっているのも分かったのだ。



 ……逆に、これでは伝わり過ぎてしまって、恥ずかしさを覚えるほどで。



 私もきっと無表情でなければ間違いなく赤面していて、今頃は真面にエアの顔も見ていられなかっただろう。

 


 現に、エアの方は話を止める気はなさそうだが、恥ずかしそうにしている雰囲気がある。

 ……伏し目がちで、私に気づかれない様にしている事もなんとなくだが分かってしまうのだ。



 そして、その様子がまた愛らしく想えて──私がエアの事を『心から大好きな事』も遂にはバレてしまったのだった……。



「……ろむ」


「…………」



 ……そして、私が愛しく思ってしまっている事と、その深さまでもが全部エアへと伝わってしまうと──いつの間にかエアは身体をクルリと翻しており、顔を下に向けたまま恥ずかしそうにしつつも這いずる様にして私の顔の方へとしがみ付きながら上ってきたのだった。



 すると当然の様に、気づいた時には私達は寝ながらも見つめ合う様な姿勢になっており……。


 また、その時には不思議とエアは普段しない様な『捕食者』とも言える様な顔つきに変わっていて──私達の唇は、自然とそこで深く繋がり重なり合っていくのであった。



「……んっ」



 ……そうして、私はそのままエアに沢山ガウガウされてしまったのであった──。






またのお越しをお待ちしております。

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