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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第605話 雪華。




 手を出せば、簡単に手折れてしまう花の命に、どう接するべきかの選択肢が私の目の前にはあった。



 その花は、枯れる前に必死に種を残そうとしている。


 ……だが、私はその種を実らす事はしたくなかった。

 だから、その種は咲く前に全て潰してしまったのだ。



 その花と、その花を慕う者達は、皆でその種が実る事を目指していた。

 ……だが、それらはもう全て枯れ果てようとしている。


 栄養を与えすぎれば逆に毒にもなるのだと彼らは知ったのだ……。


 もう態々私が手を出す間でも無く、その内その花も、その花を慕う者達も、花壇そのものを含めて全部が、雪と氷に包まれていくだけであった。



「…………」



 現状、そんな終わりを察知し、焦っていたのは花一人だった。

 自業自得と言えばそれで終わりだが、そうはならない様にと花は最後まで足掻こうとしている。



 その為に、花は私と言う邪魔な存在に魔法を放っているのだ。

 種を潰された恨みもあるし、栄養を与えすぎた事への八つ当たり、もっと言えばただの逆恨みに近しい感情もあったのかもしれない。



 だが、それでも何かをせずにはいられなかった。

 私と言う存在が種を潰すならば、先に私を排除して、それからまた種を実らせればいいのだと……。



 今度はもう栄養を与えすぎない様に、毒にならない様に、今回の事を経験として次はもっと良き種を、良き花を咲かせようと……。



 まだ間に合う。まだ間に合う筈だと花は足掻いていた。

 雪と氷の下で、芽吹く時を待つかのように。

 己が枯れ落ちた後も、その先の未来をまた誰かが繋いで良き夢を見てくれるようにと。



「…………」



 花は、最後まで花であった。


 その美しさは、その在り方は、何も『見て呉れ』だけが全てではない。


 本当に綺麗なのはその『心』で。


 咲き続けたのもその『心』だった。


 その花を慕う者達もまた、そんな『心』に惹かれ──花に続いたのである。




「…………」



 そうして、私に向けられる『痛み』は変わらなかったが……『重み』はより増す事になった。

 炎に包まれたこの『身体』は依然として傷を受けなかったが……どうしていいのか、私は更に分からなくなっていた。



 そもそも、どうして花がこの地に根を張る事を選んだのかも私は知らない。

 ……正直、もっと暖かな場所や、別の場所で咲く事も出来た筈なのにとは思う。



 君達は『精霊とは違うのに』と……。



 ──だが、そんな理屈を抜きにして、『感情』が彼女達をそうさせるのだと私は知った。



 ……私を攻撃し続けても、きっと何かが変わる事などない。

 それだけの『力の差』は明確にあった。私からするとその行為は無意味だった。



 だが、それでも構わず彼らは尚も向かって来る。

 ……正直、何故そんな事を続けているのか、分からないと言う気持ちはあった。


 無理をする前に逃げたほうがいいだろうと。別のやり方を探すべきだろうと。


 私としてはそう思えてならなかった。



「…………」



 ……だが、私には『意味がない』と感じられても、彼らには『意味がある』のだと──そう捉える事にした。


 そうせずにはいられない『感情』が彼らを突き動かし続けているのだと。


 私の『人』に対する理解の不足はきっとそこにあった。


 友が私に『人との繋がり』を言い残したのは、きっとこのどうしようもない『感情』の部分をもっとよく見ろという事なのかもしれない。



 私が失った『表情』も、もしかしたらそれに関わるのだろうか……。



「…………」



 ……いや、そんな事よりも先ずは、目の前の状況をどうにかする方が優先だと私はそこで思い直した。


 考える事は多いが、いつまでもこうしてギルドの中で炎に包まれている訳にもいかないだろう。

 何らかの解決を図らねばと──。



 いっその事、面倒だからと全てを手折る事も……正直、少しは考えもしたが……。

 今一度冷静な眼で花の様子と、周りの者達の必死さを見ていると……その必要はないのかもしれないとも思った。



 ……聞けば、魔法を使いながらも声を荒げる『学長』の勝手に語る内容では、私の事を見つけたのも偶々ギルドで見かけただけで幸運だったと言う話だし。

 同時に彼女から感じた先の嫌な雰囲気も、『マジックジャマ―』と『マジックキャンセラー』を『精霊の力とマテリアル』で強化しただけで……まあ、そんな大した話でも無かったのである。



 それと、考えてみれば既に『明鏡止水』の件は、彼女自らの手でちゃんと反撃もしている訳だ。

 ……その結果として、街の三割以上は今尚、雪に包まれている。

 だから、その代わりと言って私がこれ以上の反撃をする事は過剰にも思えたのである。

 


 ……勿論、他の精霊の事もあるし、『秘された施設』を潰すのは必要だったからした訳だが、私が『傷ついてない』ならば今ここで反撃する意味は無いのではないかと。



 『技術の進歩』によって、結果的に彼らは何かを手に入れ、そして何かを失った。

 ……ただそれだけの話だ。もうそれでいい気がした。



 また精霊達に大きな被害を与えるつもりならば話は別だが、『学長』は今回の事を教訓にまた改める心積もりがある様に思う。



 彼女自身の事は気の毒に思うが、それは受け入れて貰いたい。

 ……私も一緒なのだ。



 当然、『まやかし』を使ってまた精霊達を強制的に協力させるのは見逃せないが──そうでなくて普通に手を貸す分には良い気がしたのである。『明鏡止水』の言い方だと、実際そうしている精霊も中には居るのだろうと予想も出来た。



 だから、それらの『繋がり』までも全て否定する事はしない方がいいかと私は思ったのだ。


 きっと、友が言いたかった『人との繋がり』には、こういう部分もあるのだと思う。



「…………」



 ……それに、なんだか私はまた、少しだけ疲れてしまった。


 だから、のんびりとした時間が急に欲しくなっている。


 元々、辛い出来事ばかりでそれを癒す意味もあってこの地に来て冒険者活動を再開したのに、早速こんな事態に巻き込まれてしまったのだ。


 双子達からは嫌われてしまったかもしれないし、かつての知り合いだった『学長』には現状で殺意を向けられている。


 ……正直、どうしてこんな事になっているのか不思議でならない。


 だから、もう休みたかった。



「…………」



 ……私は、のんびりしたい。


 魔法使いとして、誰かを傷つける為ではなく、何かを生み出す為に魔法は使いたい。

 最近、またも『お裁縫』とかが全然出来ていない事に急な嫌気がさしてきたのだ。


 

 誰かを傷つける事にも、傷つけられる事にも疲れてしまった。

 その為に私は、ギルドで色々な者達に攻撃されながらも、気にせずその場所からただ立ち去る事を優先したのである……。



 ──そうして、『数日後に迎えに来るから……』とエアには魔力で想いを残し、私は一人で街から少し離れた極寒の吹雪の中にちょっとした『雪ハウス』を作ると、そこで暫くぬくぬくと過ごす事にしたのであった……。




またのお越しをお待ちしております。

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