第600話 不和。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「なんでその精霊を助けてあげなかったのッ!」
「救える命を助けないのは冒険者としても魔法使いとしても間違ってるだろっ!」
「…………」
『明鏡止水』が消え去った後、施設に向かって来る者と鉢合わせる前に私はエア達の元へと帰ってきた。
……だが、そこで何があったのかを皆に話すと、双子達からそう言われてしまい、私は怒られてしまったのだ。
両親を失ったばかりである二人からすれば、私が精霊を助けに行った先で何もせずにただ見守る事しかしなかった事が許せなかったのだと思う。……『見捨てた』とさえ感じさせてしまったのかもしれない。
レティエとレティロは『助ける為に全力を尽くすべきだ』と憤った……。
『何の為にその力はあるんだ』と。
『何もしないなら、その力に意味はなんてないじゃないかッ』と。
……エアが間に入ってくれて、二人を宥めてもくれたのだが、それでも興奮が冷めやらない二人の怒りを見て、私は二人から嫌われてしまったのだと思った。それ位の憤りだったのである。
「…………」
『人』は『理想』を壊される事を中々に許容できないものだ。
それは言うなれば、『信じていたものを裏切られる様な感覚』と等しいのかもしれない。
『エアの追憶』を通して、私と言う存在の一部を垣間見てしまった二人からすると、私がそうして『見捨てた』のは当然許される行為ではなく──そんな『理想』を壊した私が『憎く』感じられて──『裏切った』様に思えても不思議はなかったのだ。
「…………」
……勿論、『追憶』を作ったエアも同様の思いを抱きはしたのかもしれないが、流石に一緒に居た時間の長さと関係の深さ故か、エアは私に対する気持ちは変わらない様子であった。
『ロムだって失敗する時はあるんだよ?ご飯は食べなくなったけど、チーズとかあると未だに避けて歩いたりもするし……』とか、そんな何気ない一言が私には素直に嬉しかったのである。
「…………」
「…………」
……ただ、残念な事にその日は双子達に対して私達の言葉は思っていた以上に届かなかったらしく──結果的に、私と双子達の関係はその日からどことなくギクシャクとするようになってしまったのだった……。
「あのねロム……」
そして、終いには『……ロム、この状態で一緒にパーティを組んで活動するのはあまりよくないと思うから、あの子達の機嫌が直るまでは数日間くらい別行動しない?その間にわたしが頑張って何とかもうちょっとだけ宥めておくから。二人共今は『大樹の森』にも帰りたくないって言うしさ……』とエアからも相談を受けたので、冒険者活動はその日から私だけがソロとなり、エア達は三人で活動をする事になったのだった……。
「──恐らくはあちらですっ!」
「…………」
──すると、そんな時に限ってまたも面倒事は次々と押し寄せて来るようで……。
どこから嗅ぎつけたのかは知らぬが、私の所へと『魔法学園』の者達が執拗な追跡をして来るようになり、先の『氷漬けになった秘された施設』の事もあってか下手に探られたくなかった私は一旦距離を取り逃げる事を選んだ訳なのだが……。
まさかその日から連日連夜に及んで、魔法を使いながらの『大逃走劇』をする破目になるとは思いもしなかったのだった──。
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(600話……いつの間に……)




