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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第60話 幻。




 私は掃除をエアに任せて、早々にこの家にもまやかしを掛けていく。

 二部屋しかないと言う事だが、どう見ても両方とも寝室には適していない。

 よってまずは二部屋分、この家を自分の領域として認識し、エアと私のそれぞれの場所分だけ部屋数を広げる。


 ……まやかし、所謂"虚"という分野における魔法がある。

 その最たるもので、普段から私がよく使っているのが【空間魔法】であった。

 これは魔法使いにおいて、『差異』の前段階と言うにはまだあまりにも遠いが、ある一定以上の実力の壁を乗り越えた者に、ある日突然訪れる"福音"、又は"真理"だともされている。



 例えるならそう、こんな経験はあるだろうか。

 今まで苦手だった食べ物が、いつの間にか食べれるようになっている。

 あんなに嫌いだった筈の、においや音、感触、その他、五感に触れる全てのものが、いつの間にか、改善又は変化し更に苦手になっていた。

 ……それらの経験をした時に、ちゃんと自覚をしたことがあるだろうか。



 程度の差はあれ、私が言うその"まやかし"もその感覚をもっと突き詰めたものと言うだけで、根本はその苦手な食べ物と同じものであるという事を、私は感覚で知っている。


 それはただの成長じゃないのか?と中には思う者も居るかもしれない。ただ、そう思うものはそう思えばいい。

 そこを自覚するか自覚しないか、魔法使いにとって重要なのはそこである。


 自覚できるものは気づく。己がまやかしを扱える事に。気づかない者はただ見過ごすだけだ。

 だが、それを愚かやなんだと揶揄するものが魔法使いの中には時々いるが、それは違うと私は思っている。

 『差異』へと至ったからこそ、私はそんな彼らとはまた別の、解をもっていたからだ。



 『"虚"は知れば失うものがある』それが私が到達し得た、解の一つ。

 自覚するかしないか、魔法使いとして重要なのはそこだと私は言った。

 だが、そこではまだ、"良い"とも"悪い"とも、私は言っていない。



 ただ一つ、言えることがあるとするならば、自覚した者はもう戻れないのである。

 自覚した者は、自覚していなかった頃にはもう戻れない。

 知らなければ良かったと嘆いても、知ってしまった事からはもう逃げられないように……。



 まやかしと言うのは、覚えないで済むならば覚えないままでいた方が幸せなのではないか。

 そう考えたことが、そういう気持ちが、私にもまだある。

 だから、エアにもまだその分野は教えていない。


 まやかしが成り、広がった自室内で、お気に入りの古いかばんからせっせと楽しそうに自分の荷物を取り出しているエア。

 白いリボンのついた汚れた古かばんは、やはり彼女が持つには少し似つかわしくないかもしれないが、私にそっくりらしいそれを彼女は大事に大事に使ってくれている。



 ……色々な意味で有難い事だと、私は心の内で嬉しく思った。





「ロム!部屋の準備終わったっ!買い物にでも……ん?……あれっ!?」



 とりあえずは、まやかしによって、家は全部で四部屋になった。

 一応その内訳を改めて言っておくと、『商売用のカウンターがある部屋』、その隣の『お料理が出来る調理スペース』、『エアの部屋』、と最後に私の部屋とは名ばかりの、『みんなのたまり場』である。



 ……と言う事で、荷物を片付けて私の部屋へと入ってきたエアがそこで感じたのは懐かしい気配であった。


「そこに居るのかーくんでしょっ!あっ、そっちに居るのふぅちゃんとみっちゃんっ!こっちはつっちゃんッ!」


 私が椅子に座ってお茶を飲んでいると、いつの間にか精霊達がやってきたので、ちょうど一緒にお茶をしていたのであった。もちろんエアの分は既に準備済みである。


 精霊達はたった数日会ってないだけで、もう逆ホームシック状態になったらしく、エア成分を補給しにやってきたらしい。だからだろうか、エアにちゃんと見つけて貰えただけでもう既に彼らはお祭り前かと思う程にテンションがアゲアゲだ。……君達、もう少し落ち着いてください。



 ……だが、そんな私の言葉なんかはもう、ただの蛇足だったようで。

 エアが精霊達に昨日の『お裁縫』の仕事でやったことや、話した事、嬉しかった事、この街の様子やギルドで感じた事などを話し始めると、彼らはみんな急に黙り込んでエアの言葉を『一言一句たりとも聞き逃すものか!』ばりに集中して聞き入っていた。みんな聞いているだけで嬉しそうにしている。



 エアの方も数日だけど会えなかった事で、同じように寂しかったと感じていたのだろう。精霊達が聞き入っている事も分かって、一生懸命に話していた。姿は見えずとも、その声は聞こえずとも、楽しいと思った時には同じく笑い、感動した時には同じように感嘆をあげる。



 互いに想い合う事で初めて成せるこの光景に、見ているだけの私もまた、この胸に篤く込みあがる想いを感じ、喜びを覚えるのであった。




またのお越しをお待ちしております。




十話毎の定期報告!

祝60話到達!!

いつも読んでくださっている方々!ブクマや評価をくださった方々!!いつもありがとうございます!アクセス数とポイントが凄い励みになっております^^!


基本的に日常系でのんびりとした話が多めですけど、読んでくださっている方々に楽しんで頂けるように今後も頑張って参ります。応援よろしくお願いします。


ちゃんと言葉にだしていく事の重要性を信じておりますので、今回も一言失礼します。

「目指せ!書籍化!!」……何卒宜しくお願い致します。


更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。

フォロー等は出来たらで構いませんので、気が向いた時にはお願いします。


@tetekoko_ns

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