第597話 不可。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
神妙な顔をした四精霊から『精霊達が実験材料にされかけている』と聞いた私は思ったのだ……。
『またか……』と──。
「…………」
──それは悲しい事に、私からするとあまり珍しい出来事とは言えなかった。
これまでにも、似た様な事は幾度もあったのである……。
そもそも、『人』が作り上げるものには素晴らしいものが多い……。
ただ、それらは芸術的な画だったり、歌だったり、役立つ魔法道具だったりと色々とあるものの──
私はその中で、『とある系統』の技術と文化だけは、あまり先に進んでほしくないと思っていた……。
「…………」
……まあ、それが何かは言わずもがなだろうが、敢えて言うならば『材料』となるものが『不適切』である場合とだけ言っておきたい。
正直、これについての言及は私もあまりしたくなかったのだ。
……なにしろ、これが『人』の為になるんだと。または、『多くの困った人達の助けになるから必要なのだ』と言われてしまうと、途端に私は何も言えなくなってしまうからである。
彼らの視点だと、そう考えてしまう事も分からなくはないから……と、そう思った。
ただ、いくら大層な大義名分を掲げたからと言って、残酷な行為には慣れてはいけないとも思うのである……。
例えるならば、そうだな……『精霊の力を引き出せば、結果的に沢山の食料が生み出せる』という実験があったとしよう。
その場合、貧困で命を落としかけている百人の『人』を救う為に、一人の『精霊』が命を落とせばいいと言う話があったとしたら──どうだろうか。
……当然の様に、多くの『人』には消えゆく精霊の姿は見えていない。
ならば、百人の『人』を救えるのならば、『一人の精霊を材料にして』その実験をやるべきだと判断する者は相応に多いだろう……。
「…………」
……だが、言うまでもないけれども、私にはそれが許容できなかった。
なにしろ私には、視えているから……。
精霊達が苦痛の中、生命力の一滴まで搾り取られながら消えゆく様を……その慟哭を……。
だから、全ての技術を進歩させるなとは言わないが、それだけはやめて欲しいと思う分野があると、私は言いたいのである。
……いや、実際には何度も言ってきた事だが、伝わらなかった。
だから、これまではずっと行動で阻止してきたのである。
……私にとっては、一人の『精霊』の方が余程に大事だから──『人』を百人消した方が断然に早いのである……。
「…………」
それに、『精霊を材料にする技術』を生み出すよりも前に、『人』には他に出来る事がある筈だと私は思っている。
それこそ『争いを無くす事』だって、簡単な解決策はずっと前から存在するのだ。
だから、本当に平和と平穏を望むのであれば、『人』はその解決策を──『力の在り方』を、見直すだけでいいのである。
それなのに、『人』はその逆ばかりへと歩もうとするから、無理が出てしまうのだ。
『人の性質』がそうさせてしまうのかは分からないが、これほどに歪な事はそうそうないと私は思う。
──そうして、結論としては、その歪を『面倒だな……嫌だな……』とは思いながらも、私はその『精霊を材料に実験しようとしている』場所に向かって、その行為を阻止したのであった……。
「…………」
……ただ、私がそうして実験を阻止した時にはもう、既に一人の精霊が慟哭していたのである。
──それも、その精霊の腕の中には動かなくなった『人』の姿もあり、彼女(精霊)は何度も何度もその『人』の名前を呼び続けていたのだった……。
またのお越しをお待ちしております。




