第594話 簡素。
『まじっくじゃまー?』の『魔法陣』を元に『魔力阻害の効果』を水球に与え浮かべたもの──それが例の『黒いブニブニした水球』の正体であったらしい。
そして、その水球がもつ『魔力に対する抵抗力』はとても強いそうで、本来はその抵抗力を『どれだけ削れるか』または『変質できるか』によって、その魔法使いの能力を測る事ができるそうだ。
その為、そもそも完全に消し去る事自体が元から想定外であり、不可能だと思われていたのだとギルドマスターは言うのである……。
「──それに、あなた以外の三人も『黒水』に対して、基準以上の効果を与えたのを確認しました。よって、あなた達急遽『緑石』に昇格させたいと思います。『白石』の実力ではありませんからね──ただ、『例の魔法』はくれぐれも街中での使用を控える様に。こちらからその魔法について聞きだすような真似はしませんが、間違っても誰かに対して使用する事など無い様にしてください。……さもなくば、分かりますね?」
「……うむ」
……という訳で、私達はこの街のギルドマスターだと言う者と話をする事になり、『ランク』を昇格して貰って『緑石』ランクの冒険者となったのだ。
『人との繋がり』を考えていくと決めたのだから、ある程度は『腹を割って話す』事も必要だと思っていたので、もしも魔法などについて何か尋ねられるような事があればそれには応えるつもりではあったのだが……私達は逆にその魔法については『喋るな』とギルドマスターから言われてしまった状態である。
ギルドマスターとしては、先の魔法が私しか使えないと知った段階で興味を失したのか、途端にそう言って来たのであった。
ただ、正直これは私としてはとても予想外で……。
こういう場合にはもっと藪を突きまくる感じで詳しく聞かれるものだとばかり思っていたのである……。
「…………」
……だが、少しだけ探りを入れてみた所によれば、どうやらこの街には今『まじっくじゃまー派』と『まじっくきゃんせらー派』とか言うよく分からない研究派閥の対立があるらしく……。
今回私が使ったあの魔法は、そんな両陣営の派閥に大きな影響を与えかねないから『かん口令を敷きたい』というのが彼の話だったのだ。
そもそも、『魔力阻害の力』と『魔力消失の力』には、互いに似た様な性質は持つが、実際には『出来る事とコスト』に大きな差があった。
簡単な例を挙げるとするならば、『火の魔法の取り扱い』一つにおいても両陣営には大きな違いがあり、『阻害ならば火の強弱』を、『消失ならば短時間での消火』を、それぞれで可能とする事に違いがあるのである。
──つまりは、使用用途に差があり、どちらも素晴らしい『力』ではあるのだが、『似ている』からこそ逆にどちらがより優れた研究なのかという……そんなちょっとした大人の『プライドの問題』が密かに内在している話なのだとか。
内心、私達としては『下らないな』と思ってしまう内容ではあったが、それに拘っている者達からすると絶対に無視できない話であるのだと言う。
……その為、今でこそギリギリの関係で保っているそんな派閥関係に、新たなる亀裂を作らないで欲しいと言うのがギルドマスターとしての考えなのであった。
勿論、私の使った魔法の威力は脅威だと感じたらしいが、そもそも魔法とは使い方次第でどれもが脅威になるものだし、珍しい魔法だからと言ってそれが必ずしも必要になるとは限らないのだと。
と言うか、現状では明らかに不要だし、争いの種にしかならないと彼は判断したらしい。
だから詳しく聞く必要もないのだと言う。
先程のギルド職員は『大発見だ!』といって素直な喜びを見せていたが、あの子はかなり珍しい部類であり、世間知らずなだけだから気にするなとも言われたのだった。……あの子は不憫である。
ただ、そんな事よりも『緑石』にするから、この街の色々な問題に対して少しでもその『力』を貸して欲しいと私達は頼まれたのだった。
この街は寒い地方独特の問題が未だ完全には解決された訳ではないらしく。食糧問題や寒さ対策、それから路面などについての諸々の問題などに対して魔法を使える冒険者達は現状引く手あまたなのだとか……。
その為、全員が魔法使いである私達には特に活躍を期待しているとギルドマスターは言うのであった──。
「…………」
──色々と苦労も多いのか、目の前の白髪が多く混じる壮年の男性は少しお疲れ気味でもあった。
……そんな彼の姿に、全然似てはいないのだが、ちょっとだけ友の姿が重なって見えてしまう。
正直『冒険者ギルド』としては、魔法使い達の面倒な派閥問題にはあまり付き合わされたくないから、不干渉を貫きたいらしい。
この街において『魔法学園』の影響力が大きい事は確かだが、それは必ずしも絶対ではないのだと。
この街の強みでもある『まじっくなんちゃら?』が大事なのも分かるが……それよりも大事な事が目の前には沢山あるのだから、そちらの足元の問題を一つずつ解決していく方が冒険者としては優先したいのだと。
その為、普通に冒険者として活動するつもりがあるならば黙秘を──逆にその『力』を誇りたいのであれば『魔法学園』へと行って欲しいと言われたので……私達は迷わず冒険者として活動する方を選んだのであった……。
「よしよし。それならば、魔力量の多い冒険者向けに……丁度いい依頼が沢山あるんだよ。助かるなー。勿論、やってくれるよね?」
「……う、うむ」
……だが、いざ『引き受ける』と伝えると、途端にギルドマスターはそう言って『ニヤリ』とした微笑みを浮かべるのである。
彼のそんな疲れ気味な微笑みを見つめていると、私達はまた嫌な予感に包まれてしまうのであった──。
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