第590話 代償。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
レティエとレティロが比較的短時間で急激に『力』を上げられた背景には、実は『エアの追憶』が多大な影響を与えていた。
エアが楽しみながら自身の思い出を記録し続けた──その数々の『宝石』には、一人の偉大な魔法使いの経験が沢山詰まっているのである。
『雷石改』を通して、その『追憶』を見る事により、使用者は感覚的に追体験する事で成長を促され、エアに近しい感覚を得る事ができる……かもしれない。
「…………」
……ただ、当然それにもセンスは必要で、見る者が変わればそれはただの楽しいお話で終わる場合もあるし、感覚的に近しい者であればその恩恵を最大限に得られる、と言う事も有り得るのだ。
要は、誰もが得られる都合の良い恩恵と言う訳ではない事だけは確かなのである。
けれども、双子達にとってはエアと同じ感覚派であったからかその恩恵は大きく。『追憶』を見て育った事によって短時間で驚くほどの『魔法』に関する感覚を促成させる事が出来たのだった。
十年弱という短い年月で『人体生成』という『奇跡の力』を得られたのも、それが理由の一端となっているのは間違いないだろう……。
「…………」
……ただ、同じものを見たからと言って、エアと双子達では一つ大きな差が存在していた。
と言うのも、『見て分かった気になった事』と、『実際にやってみて苦労して理解した事』には、当然の様にその経験値において隔てりと偏りが生まれてしまうものである。
もっと言うならば、エアはその『力』と共に『心』も一緒に鍛えて来たのだ。
……旅を重ね、その中で一つずつ学び、ずっと歩き続けて来た結果なのである。
『命の尊さ』、そこにある重み、痛み、苦しみ、悲しみ、喜び、楽しみ、『生きる意味』……。
そんな諸々をエアは自分で学んできたのだ。
己の存在が何の為にあり、己がどうしたいのかを沢山考えた。
魔法使いとして、冒険者として、どう生きていきたいか。
どの道を歩むかを考え、どの道を選択し、どう対処していくのか……。
「…………」
……初めて出会った時はあんなにも幼く感じたその『心』は、いつの間にか私などよりも遥かに立派に成長していた。
成長したエアは本当に『優しく、強くなった』。
そんな簡単な一言で言い表せてしまうかもしれないが、その言葉の中には簡単では済まない様々な要因が詰まっている。
──つまりは、そんな精神的な面において、エアと双子達では『力』に対する向き合い方が異なっていたのだと思う。
エアは『力と心』が相応にバランスが取れているのに対して、双子達は『力』の方が大きく『心』がまだまだ未熟であり、バランスが取れていない様に感じた……とでも言えばいいだろうか。
そして、そう感じたのはレイオスとティリアにおいても同様だったらしく──
そんな双子達の歪を案じたが故に、友二人は私に双子達の事を頼んできたのであった……。
口下手だけれど、もしも双子達が失敗しそうな時には少しだけ手を貸してあげて欲しいと。
もしも両親を失った悲しみに落ち込む様な事があれば、また前を向ける様に少しだけ声をかけて欲しいと。
……ただ、もしもあの『力』の使い方を誤る様な時には、ちゃんと叱ってあげてねと──。
「…………」
……正直、それらは少しだけ私には難しい注文ではあった。
だが、それらは友の最後の頼みだったのだ。
だから、叶えたいと思った。
……それに子供達の事を頼みながらも、友二人は私に対しても『人との繋がりも忘れるなよ』と言っている気がした。そんな思いも伝わって来たのである。
あの二人はきっと、自分達が深く眠った後の事もある程度は予想が出来ていたのだろう。
そして子供達がどんな選択をするのかも……。
……それでその結果がきっと、『失敗するであろう』事もだ。
だから、二人はそんな話を私にしてきたのだと思った。
勿論、二人が本当にそう思っていたかどうかは私の想像に過ぎないが……。
ただ、二人はそれがどの様な結果であろうとも、受け入れる覚悟は出来ているという顔をしていたのであった。
『後の事は頼む。エフロム』と。
『……今まで、ありがとうね』と。
二人が残したそんな言葉は、今も尚私の頭の中と胸の奥を熱くさせる……。
「…………」
……そして、レイオスとティリアが倒れていたのを発見された時、案の定と言えるのか、双子達は悲しむよりも前に『自分達の出番だ!』と張り切っていたのだ。
『人』の寿命に関して分からない事も多いが、それまでの訓練において『人の部品』を作る事に関しては上手に出来ていたからだろう。
私達は、『両親を助ける!』と言う双子の純粋な想いを否定する事はせず、見守る事にした。
双子達はレイオスとティリアの身体をそれぞれ媒介として用いれば、友二人の『全身の代替品』も生み出す事は可能であり、そのまま両親が生まれ変われると信じていたのだ。
『身体さえ新しくすれば、レイオスとティリアの寿命もまた新しくなるだろう』と。
……実際、その結果がどう転ぶのかは、やってみるまでは分からない部分もあった。
何しろ二人の『力』は誠に『奇跡』に近く、何が起きるのかは未知数な部分が多かったからである。
だから、レイオスとティリアは『上手くいかないだろう』と思っていたかもしれないが、双子と同様に私も、心の中では密かに『上手くいって欲しい』とずっと願っていたのであった……。
「…………」
「…………」
……だが、そうして実際に『初めての全身生成』でレイオスとティリアが生まれ変わった結果──友二人は、『身体は大人』のまま、その『中身だけがまるで幼子』の様な状態で目を覚ましたのであった……。
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