第588話 驚異。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
私達が長年かけても辿り着けなかった『答え』──その解決策に一番最初に到達したのはレティエとレティロであった。
それも、その解決策は到底私達には成し得ない驚くべき方法であり、その方法を考え付き実際に実行できるようになるまでにかかった期間は凡そ十年弱と言う、なんとも早い習得である。
その期間を遅いと見るか早いとみるかは人ぞれぞれだろうが、少なくとも私は初めて聞いた時は驚嘆する以外になかった──
「…………」
──と言うのも、ある時からレティエは『火と水』から『人の血』などの内側となる部分を作り出し、レティロは『土と風』から『人の身体』の外側となる部分を作り出した。
……要は、生まれた時から『大樹の森』で暮らしてきた双子達は、この『領域』の中であれば、ありとあらゆる自然の素材を用いる事によって、『人』という存在におけるほぼ全ての『部品』を『魔法で好きに作り出す事』が出来る様になっていたのである。
それは単純に好奇心の為せる業と、言ってしまっても良いのだろうか……。
なんにしてもその『力』は言葉にする以上に凄まじいものだと私は感じた。
『人の形をした何か』ではないのである。
元はただの土塊だったものが、二人の手に掛かると完全なる『人の身体に似通った一部』として生み出されるのだ……。
「…………」
……ただ、当然の様にその『力』はどこでも揮えるものと言う訳ではないらしく──外の『世界』とは異なる場所であるこの『大樹の森』という限定された『領域』においてのみ使える技であって、尚且つこの場所『魔境』とも呼ばれる程に潤沢な魔力に満ちている場所の素材を使わなければいけないそうだ。
だが、そんな条件だけでは十分におつりがくるほどに、その『力』は素晴らしくまた恐ろしい魔法なのである。
……何しろ、私も一応『性質変化』という技が使える為によく分かるのだが、自分自身の『性質』を変えるだけでも大変な苦労を伴うのに、それを他にも施せるという点でもう、双子達の能力と感覚と認識力はずば抜けて高い事が分かるだろう。
純粋な感覚派の魔法使いであるエア以上に、二人はこの『大樹の森』という『領域』においての理解が深く──魔法使いとして『魔力』に対する扱いが繊細であり上手いのである。
……正直、『差異』も超えぬままにその技を使えている時点で双子達は親の贔屓目など無しにまごう事なき『天才』であった。
そもそも、素材自体も『大樹の森』の中に居るならば幾らでも作り出せるのだから、双子の能力は驚嘆する以外のなにものでも無かったのである。
なにしろ早い話が──この二人が居れば、いくらでも『人を作り出す事』さえ出来てしまうのだから……。
「…………」
誠に、それは『奇跡』に近しい『力』である……。
私達がそれを『奇跡』と呼びたくなる気持ちも分かると思う。
それも、双子達は作りたい対象の部品──又はその『血肉の一部』を媒介にする事によって、『その対象に似通う部品』をも作り出す事ができるのだ。
……つまりは、その『力』を用いる事によって二人は『エアの折れた角』を見事に復元してみせたのである。
『エアの折れた角と、浄化されたエアの血』を媒介とし、二人は『エアの正常な血晶角』をこの地で作り出す事ができた。
そして、二人が作り出した『綺麗な赤い双角』は確かに私の目から見てもエアの角に視えたのである。
それも、レティエとレティロの魔法によってほぼ傷跡も残らぬまま『新しい角』を受け入れたエアは、最初から自然とそこにその『角』があったのと変わらない様な状態で戻る事が出来た……。
そうして折れた事など微塵も感じさせぬままに、再びエアの額の上には『血晶角』が煌めく事となったのである……。
「……どう?エアお姉ちゃん?」
「……違和感とかない?」
──『人体生成』という離れ業をやってのけた二人は大した疲労もなく、そう言って術後のエアの顔を心配そうに覗き込んでいた。
「ううんっ、ないよ。からだがすごく軽いの──ありがとう……レティエ、レティロ」
すると、双子の魔法を受けたエアはそう言って心からのお礼を告げたのだった。
「えへへっ、エアお姉ちゃんが喜んでくれたならよかったっ」
「へへっ、頑張った甲斐があったなっ」
「……うんっ、まりょくももう大丈夫。だいぶ少なくなってるけど、これならなんとかなる。『天元』も……ぅぅ」
額に戻った『新たなる角』に触れながら、エアは既に涙ぐんでその声は震えていた。
……ただ、その潤む顔は間違いなく煌めく様な喜びの笑顔でもある。
そんなエアの喜ぶ様をみて、双子達はより一層に嬉しそうにしながら照れていた。
そして私も……いや、私達も、そんなエアと双子達の姿に、心からの喜びを感じたのである……。
「…………」
……この場に来れなかった友二人の分まで──そうして私は、その喜びを深く深く胸に抱くのだった……。
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