第587話 予感。
『想い出に歌を付けて残す』という事を始めたエアは本人も言っていた通り、凄く楽しそうであった。
『歌』も『雷石改』も今更特別なものでもないのだが……なんだかそれが特別に見えてくる程にエアの表情は良いのである。
……実際、今のエアにとっては肉体的にも魔力的にも『疲れ難い』と言うのは掛け替えのないもので、『精一杯何かに打ち込める』と言うのはそれだけで充分に価値があったのかもしれない。
ただ、周りからすると『エアの歌』にはそれ以上の効果があり、『歌』を聞いた者達は皆ほっこりとして、優しい雰囲気に包まれていくのが分かったのだった……。
「…………」
……エアがそうして楽しそうにしているだけで、私も自然と嬉しくなってしまう。
気づけばその『歌』に合わせて、自然と口ずさんでいる程に。
そしてそれは皆も同様だったのか──いつしか皆の『歌』が重なり合うと『大樹の森』にはまた音が満ちていくのであった……。
それはまるで周りの皆が、エアと同じ夢を抱いている様な感覚である。
……とても穏やかで、優しく、そして楽しいと思える一時であった。
「…………」
……実際、私達の中で『エア』という存在がどれ程に大事なのかがよく分かる、そんな一幕でもあった。
『ある程度の思い出を刻み終える』とエアの歌は自然と止むのだが、『歌』を聞いた者達は皆『──よし!』と気合を入れて『最善を尽くす』為に行動に移していくのだ。
……皆が『エアを助けたい』と、それだけ強く想っているのが窺える光景だった。
その強い想いに、もしかしたら『奇跡』でも起こるんじゃないかと言う不思議な錯覚さえ芽生える。
それはとても不思議な時間で、ふわふわとしたまま流れ去っていく様な感覚ではあったのだが──きっと、それだけ深く集中していたからこその感覚だったのだとが思う。
実際、『何かが起こりそうな気配』はずっと傍にあった──
「…………」
──そして、そんな日々が続いたとある日に、驚く事に本当に一つの奇跡は起きてしまったのである。
「──はい、エア姉ちゃん!俺が新しい角を付けてあげるねっ!」
「レティロじゃま。わたしが先にやるんだから退いて。あんたは後っ」
「なんでだよっ!別にどっちが先だっていいだろっ!」
「良くない。わたしの方があんたよりもお姉ちゃんだから」
「たった数分の差だろっ!俺達は双子なんだからそんなのっ──」
「──と言うか、その前にあんたはテンション高すぎ。キモいから落ち着いて。エアお姉ちゃんに嫌われたいの?」
「なっ!?姉ちゃんはそんな事じゃ嫌わないし、そういうレティエこそ、姉ちゃんにいつもべたべたし過ぎだろっ!もっと離れろよっ!!」
「いやでーす!わたしは女の子だからいいのー、でもあんたは男だからだめー」
「なんだよそれっ!!」
「……ははは、まあまあ、二人共仲良くね?」
「うんっ!」
「はーいっ」
「…………」
……そして気づけば、いつの間にかレイオスとティリアの子である双子達は十五歳ぐらい(?)になっており、二人共背も伸びて顔つきも大人とほぼ変わらぬ程にまで成長していたのだが──。
そんな双子達がなんと、エアに『血晶角』の代わりとなる『新しい角』を作り出してしまったのであった……。
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