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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第580話 正功。




 エア達に頼まれた通り、部屋や『聖女』に対して『防壁』や『防音』などの守りを私は強固に張り巡らせた。


そして、二人のやり取りを見守りながら、現状が未だ敵の『企みの中』であることを警戒し、外へも意識を向けているのである。



 ……勿論、いくらこの『企み』が稚拙なものだと感じても、相手の思惑通りに事が運んでいる以上は何が起こるか分からないと思ったからだ。



 二人が戦いに集中できるようにする為にも、私は油断はせずまま部屋の外にも警戒を強めていた。



「…………」




 ──だが、そうして『探知』を用いて周囲を警戒してみれば、少々不気味な事に逆にこの部屋から離れていく者達ばかりが視えて、近寄って来ようとする存在は一切無かったのである。



 ……女中達も既に部屋から去り、『聖女』がいる部屋に私だけを残しておく意味とはなんだろうかと思う。


 先ほどまであれほど『聖女』に拘っていた様に見えたこの国の要人達はこの状況に難とも思わないのだろうか。



 彼らからすれば、いきなり訪ねて来た私達と言う存在は危険な筈……。

 なのに、そんな存在をこの場に残して去る意味とは……?



 ……正直、それを思うと『おかしさ』を感じずにはいられなかった。



「…………」




 ……ただまあ、そうして私が周辺からの横やりを警戒し注意を十分に払えているのも、そもそもの前提として『エアの勝ち』が揺ぎ無いものだろうと信じていたからであった。


 エアと『傭兵』が戦う事になっても、当然の様にエアが勝利するだろうと。



 ──いや、実際、エア本人もまたその自信があったのだろう。



 もっと言うならば、私達はきっと『傭兵』の事を舐めていたのである。



 ……幾ら『マテリアルの力』によって『彼の力』が『増幅(ブースト)』されていようとも、エアに匹敵する程ではないのだろうと──




「──オラアアアアアアッ!!」


「……ぐっ」




 ──だがしかし、そんな私達の予想は最初の一撃で間違っていた事を知ったのだ。


 ……いやそれ所か、そもそもの話として『敵の企み』に対しても読み違えをしていた可能性が大いに出てきたのである。



 と言うのも、『緻密な作戦』を使う状況とは、真正面から敵を倒せぬからこそ必要なのであり──


 逆に『幼稚な企み』で仕掛けていいのは、そんな『緻密な作戦』など必要ではないと判断したからであると。



 ──つまりは、『自称神々』は『狂戦士』の『力』があれば、私達を倒せると判断した可能性が十分に出てきたのである。



 当然、最初から『幼稚な潜入作戦』が成功せずとも良かったのだ。


 『駄目で元々』で、その後に『力による殲滅をしてしまえばいい』と、最初から真正面から全てを押し通す気だったのだと……。




 ──実際、戦いが始まって直ぐにエアは『いつも通り』魔法で先ず相手の身体を拘束する事にしていたのだが……。


 

 それを『傭兵』は、あろうことか『肉体能力』のみで当然の様に弾き破ると、力づくでエアへと殴り掛かって来たのであった。


 ……その動きは凄まじく速い。



「…………」



 ……正直、その光景には私も驚いてしまったのだった。


 なにしろエア程の『魔力量』による力押しの拘束が、彼に効かないとは思いもしなかったからである。



 と言うか、『傭兵』の『マテリアル使い』としての『力』と『制御能力』は段違いであり、そこから生み出される『肉体能力』と『純粋な膂力』はとんでもない破壊力であった。



 それこそ、『差異』を超えし魔法使いの魔法を真正面から弾ける強さであると言うならば、その強さは最早説明不要の強さであろう──。



 正直、彼は私達の想像よりも、遥かに遥かに強くなっていたのだった……。



「…………」



 例えその理由やその『力』を得た方法が私達の見ている道とは逸れたものであったとしても関係ない……。


 例えその『力』が何らかの怪しい恩恵によるまがい物だとしても、上手に使いこなせるのであれば話は別だ……。



 『薬と毒』が紙一重である様に……。



 それに至るまでに乗り越えた『痛み』の先で、彼は見事にそれを使いこなして器用に『己の力』として制御するに到ったのである──。



「…………」



 ──そして、その『力』今、エアと拮抗し近接戦闘を行なえる程の強大さを得ている。


 ……それは、まごう事なき『英雄の力』であった。






 それに私は……いや、私達は『傭兵』に対してもう一つだけ勘違いをしていた様だ。


 と言うのも、先ほど彼が戦いが始まる前に、この部屋と『聖女』の守りを『敵』である筈の私に頼んできた訳だが──



 私はあれを、彼が『エアとの戦いで全力を出し切り、散るつもりなのか』と、『戦いの後にもう生き残るつもりがないのか』と──そう言う風に感じてしまっていたのだが……。



 恥ずかしながら、どうやらそれが大きな勘違いであった事に今更ながらに気づいたのであった。



「…………」


 

 ……と言うのも、私の思い違いでなければ、彼には負けるつもりなど微塵も無いのだ。


 それこそ、私にそれを頼む事によって彼は自然と『エアとの一対一の戦い』になる様な状況を作りだしたかったのだろう。



 そもそもエアは最初からそのつもりだったかもしれないが、あれによって確実に『二対一』の構図にならない様にしたかったのだと思う。


 ……少なくとも、私もあの言葉によって、二人の戦いには自然と手を出し難くなってしまったのだ。(まあ、エアの命に関わるならば別だが──)。



 それに『部屋に被害が出ない様にと守りを固めている』という事はつまり──裏返せば、この部屋が丈夫になればなるだけ、そのままこの部屋の中の『壁』も利用できるという事でもあった。



「…………」



 ……要は、最初から『空を縦横無尽に駆け巡る事が出来るエア』に対して、同等に戦える戦場を作り出すと共に、『力まかせに相手を押し付けるだけでエアを押し潰す攻撃にも使える』という攻撃策を増やした訳なのである。



 それによって、当然エアの行動範囲も狭められるし、彼にとって有利となる戦いが出来る様にした……。


 エアの動きの速さは広い場所でこそ最も効果的であるし、この部屋の中だと満足な威力の魔法も使い難い……。



 どう考えても、そうなれば近接戦闘が主軸となる戦いとなる。



 その辺りの考え方は、『魔法を苦手』とする彼だからこその発想なのか、数々の戦場を渡り歩いて来たベテランの傭兵としての経験値が故か……『傭兵』の『戦い巧者』な部分だと私は察したのだった。



「…………」




 そして、その状況を作り出す為、『敵』である私を、彼はあのたった一言で利用した訳なのである。


 私達の『心』に自然とあった『知り合いだから』という甘えがあったのだろう。

 その隙もつかれた事は確かである。



 ……それを考えれば、当然の様に彼が『本気』である事は揺るぎが無かった。


 負けるつもりなどさらさらない。彼は勝利しか見ていない。

 卑怯だとも言わない。使えるものは全て使うのは戦いに生きる者の当然の行いである。



 彼は最初からその言葉通り、『分かり易い解決策』を求めて最大限の『力』で戦っていた──。



「…………」



 それは彼の、持ち得る限りの最大で、あらん限りの全力で、『聖女』と共に居る為に戦い続ける男の真の姿であった……。



 『最愛』の為ならば、『恩人』すらもその手にかけようとも構わないと、『心を定め』ただ目の前の戦いに狂ったように集中する戦士の姿がそこにはあった……。




 『狂戦士』──その呼び名は、狂わしい程に勝ちに貪欲な『人』の姿そのものだったのだ……。





またのお越しをお待ちしております。

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