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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第579話 莫迦。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 『傭兵』の手のひらの上には、怪しげで鈍い輝きを宿す『赤い石の欠片』が乗っていた。


 ……私はそれを見て、一目でそれが『ダンジョンコア』であることを察したのである。


 『でもどうして彼があんなものを持っているのか』と、内心では驚きを隠せなかった。



「…………」



 ──ただ、私達にそれを見せびらかした彼の方はしたり顔で、次の瞬間には止める間もなく自らの口へとそれを運び、飲み込んでしまったのだ。



「──ッ!?」


「──っ!!」



 その行動に私とエアが唖然とする中、『──ゴクリ』と勢いよく嚥下してしまった彼は自慢げな表情のまま口を開いた……。



「……これは本来、とある水に少しずつ溶かしてから飲むものでな。『マテリアル』の持つ『増幅効果』を更に高めてくれる優れものなんだ。この街の外で嬢ちゃんが俺を助けてくれた時の──『化け物達』と俺が戦っていた時の姿って言えば分かるだろう?……ああなれる。これは『マテリアル使い』を更なる高みにあげてくれる『神秘の結晶』で──『人が人のままで人を超えた力を出す』為の『神の恩恵』……だ、そうだ」



 そして、唖然としているままのエアに対して得意げにも説明しながら、彼はその身体を段々と変化させていったのだった──



 『──ビキビキ、ゴリゴリ』と、普通の『人』であれば鳴る筈もない『不気味な音』を発しながら、彼の身体は『淀みの力』をまとい始めている。



 そして、直ぐにその身体は肥大化し倍以上にもなり、この部屋の天井すらも突き破らんとする勢いで変化しようとしていたのだが……そこから急に『傭兵』は意識を集中させ始めると、暴れまわる『マテリアルの力を制御』したのか、それ以上の膨張を抑えて逆に『力』をゆっくりと凝縮し始めたのであった。



 そうして、段々と身長も縮まり、元の状態から少しだけ大きいかなと思う位にまで戻った時には、彼の身体は今までにない位に『力の密度』が増している事が分かったのである。



 ……それも、時間経過と共にまだまだその変化は止まる気配がなかった──



「…………」



 ──だがしかし、間違いなくそうして変化し続けている彼の身体の中身は真面ではないだろう。


 無理矢理に『人』の形を保ってはいるものの、その身体の中は骨も筋肉も内臓も『人』のそれとはだいぶ異なる状態になってしまっている筈だ。


 ……その分確かに、彼の『肉体強度』は遥かに増大しているのは間違いないとは思うのだが、それはあまりにも無茶であると感じざるを得なかった……。



「……痛くないの?」



 ……当然、その変化の様子は思わずエアがそう問いかけてしまいたくなる程に、痛まし過ぎた。


 最低限の衣服だけ残し、素肌が見えている『傭兵』の身体の表面は全身がうっ血しているのか、段々と黒ずんでいくのが見えているのである。



 ──そして、そんな彼の表情を見れば、必死に堪えて我慢をしているのが一目で分かってしまうのだった。 



「──糞いてえさ。……でも、どうだ?嬢ちゃんから見ても今の俺は少しは強そうに見えないか?」



 ……ただ、そうして額に苦痛の汗を浮かべながらも『傭兵』はまだなんとか笑みを作りつつ、エアへとそんな言葉を返す余裕はありそうだった。


 ──いや、いっそ話していなければ、『痛み』で気がおかしくなりそうだったのかもしれない。



「……うんっ、見えるよ……けど、それって『ダンジョンコア』じゃないのっ?」



「……おぉ、流石は冒険者だな。嬢ちゃんもこれを見た事があったのか?──まあ正直、その名称は初めて聞いたが、確かにこれは『ダンジョン』でも取れるものらしい。……ただ、凄く手に入り難いものだそうだ。それと、正確には『神の恩恵』って言うそうだぜ?……まあ、俺はこれを優遇して貰ったが為に、結びたくもない契約を『向こう』としちまった訳だ」


「……本当は水に薄めるものなんでしょ?なのに、なんでそのまま一気に飲みこんじゃったの?」


「嬢ちゃん達を倒そうと思ったら、最初から無理してでも全力じゃないとな、だろ?」


「…………」


「──はは、ばかだろう?救いようもねえ大馬鹿だって、あいつにもよく怒られてんだわ。……だがな、嬢ちゃん。俺の本気は伝わってくれたか?もう救ってくれる必要はねえぞ。俺はもう自分の手でそれを拾えるから……」



 ……すると、その言葉と共に『もう戦いは避けられないのだ』と悟ったのか、『傭兵』へと向けるエアの顔つきも少しだけ変化した様に私には視えたのだ。




「……このまま、この部屋の中で戦うの?」


「……ああ。出来るならな。あいつの傍に居てやりてえんだよ。──と言うか、これ飲むとあいつの傍じゃないともう俺は真面に正気で戦えねえのさ。あいつから離れれば離れるだけ俺は狂っていくらしくてな。余計なものまで傷つけちまう可能性がある。……それに、ここでなら俺と嬢ちゃんが戦ってもロムさんが部屋とかあいつに向かう被害は防いでくれるだろう?」


「……うんっ。ロム、お願いしていい?」


「ああ……構わぬ」



 ……それ位ならば幾らでも引き受けよう。



「…………」



 ……だがしかし、そんな事よりも『傭兵』は自分のその言葉の意味をちゃんと理解しているのだろうか。


 ──それではまるで、彼は最初から『エアとの戦いしか想定してない』様にも私には聞こえてしまったのである。



 本来、彼の話の通りならば、私まで倒さねばならない筈だろうに……。

 それなのに、『敵』である私にそんな事を頼むのは、そもそもおかしい話なのだ……。



 要は、もしもそんな事を彼が無意識下で言葉にしたと言うのであれば……彼はもう──




「──さて、そろそろ戦いを始めようぜ。嬢ちゃん。全力で行くぞ。覚悟しろよ」


「……うん、どこからでも。全力でかかって来ていいよ」




 ……だがそうして、この広くはない部屋の中、エアと『傭兵』の戦いは儚くも静かに始まりを告げてしまったのだった──。




またのお越しをお待ちしております。

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