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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第572話 添加。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『異形と化した傭兵』は、まるで『異形と化した神兵達』の様な見た目になっていた。


 『神兵達』は淀みを介して発生し『人を喰らう事』で『人の性質』を得て、それぞれの姿へと変化している。


 そして、『マテリアル』と言う『人の体内にある淀み』を用いて発動するその『力』を考えれば、両者の姿が似通ってしまうのも理由としては十分に分かる話ではあった。



 ──『似た性質』を持つのであれば、近しい結果を導き出しても不思議はないのだと……。



「…………」



 ……だが、『人』に元々ある『力』をどれほど『増幅(ブースト)』すれば、今の『傭兵』と同じだけの強化を得られるのか……それを考えると途端に私は恐ろしくなった。



 『人』はある程度ならば無理が出来る存在ではあるけれども、それを超えようとすれば簡単に傷を負うものだ。


 筋肉が断裂したり、骨が折れたりするのはそんな何らかの無理が『痛み』として跳ね返って来ている証拠なのである。


 ……ただ、それは考え方を変えるならば、最終的に『命』を守るための救済措置であるとも言えた。


 それ以上無理をすれば『命』に関わるからと、そうならない様に身体が自ずと止めてくれている訳である。


 ならば、そんな『無理を抑えて、痛みを我慢できる方法』さえあるならば、『人』は更なる無理を通す事が出来る様になるのは道理だろうと……そんな考えに至れてしまう事が私は恐ろしかったのだ。



「…………」



 言わば、『傭兵』が感じたであろう『痛み』もまた、私達の想像を遥かに超えるものであったことは間違いないだろう。



 ……ただ、『求める者』からすれば、『力』を得る事の代償がそれで済むならばと、それは甘んじて選択できてしまう些細な壁でしかなかったのかもしれない。



 だがそれでも、どれほどの無理を重ねればそこまで至れるのか──それは同じ『痛み』を知る者以外には理解が及ばない事であった……。



 ──ただ、あれこそが二人の願いの結果なのだろう。



「…………」



 ──そもそも『傭兵』は、普通の『人』である。



 彼自身は、何も特別な存在と言う訳でも無ければ、物凄く戦闘に秀でていると言う訳でもない……そんな普通の男だ。



 それに、どちらかと言えば彼は魔力も乏しく、『マテリアル』に縋るよりなかった男でもあった。


 だから、そんな彼がより大きな『力』を求めようとするのであれば、無理な道を走るしかなかったのかもしれない。



 ……その為に『マテリアル』は最適だったのだろう。



 それに、一人では諦めるしかなかったその道も、愛する者が支えてくれた事で開けたならば尚更だ。


 あの二人はそんな覚悟をしながらも突き進む以外になかったのだと私は勝手に思う。




 良くも悪くも彼らは普通の『人』に過ぎなかったから……より大きな『力』を得る為の道は相応に険しかった筈である。



 それこそ、一傭兵がああして『英雄』と呼ばれてもおかしくない程の『力』を出す為には、それ相当の無理を重ね、『増幅(ブースト)』をし続けるしかなかったのだと──。




 『マテリアルの制御』を訓練する事で、彼はより『力の引き出し方』を覚えるに至ったのだと思う。

 そして、その傍には『聖女』と呼ばれる位に成長した『浄化の使い手』が居た事が大きい筈だ。


 『傭兵』は、そのおかげで無理な『力の引き出し方』にも耐えられる様になったのだと思う。



 肉が切れようと、骨が折れようと、それに耐えながら少しずつ『力』を二人は高めていったのではないだろうか。


 ただ、その限界を見定める目を二人は失っていた様に思う。



 あの二人であるからこそ、その道を選べた訳だが……その道が続く限りは立ち止まるわけにもいかなくなってしまっていたのだろう……。



 止まり時を失っていたのだ。

 ……例えその道の先が崖になっていようとも、その崖先から足を踏み外すその時までは、足を踏み出し続けるしかないと──。



「…………」



 ──正直、今の私から視て、彼らは本当に『破滅ギリギリ』の所に居た。


 ……いつその崖から足を踏み外していてもおかしくない様な状態だったと思う。



 ただ、何らかの策が絡んでいるのか、それともただ単に都合のいい話に思えるだけか……感覚的には恐らく『ダンジョンコア』に触れてしまった事により、思わぬ『マテリアルの増幅』を得て『巨大な樹木の魔獣』へと至ってしまったであろう『喫茶店の店主』と比べれば、まだまだ状態としては良い方だと思える位であった……。




 ──ただ、それはあくまでも私の意見であり、他の者達には他の意見がある。


 『まだまし』だと感じる者がいれば、そうだとは思わない者もまた当然いるのだ。



 ……要は、当然の様にエアには別の考え方があり──そんなエアからすると『狂戦士と聖女』の今の状態は到底見逃せる状態ではなかったらしい。



 ──つまるところ早い話が、エアは『本気で腹を立てていた』のだ。



 『──二人共っ、いったい何してるのっ!わたし達は、そんな無茶をさせたくてあなた達に魔法を教えたんじゃないっ!二人が無茶をしなくて済む様に、あなた達二人が幸せになってくれる様にと信じて教えたのにっ!それがなんでっ──』と。



 ……周囲の『神兵達』には一切目もくれず、完全に無視して空を翔けたエアは『異形と化した傭兵』だけを魔法で空に浮かべると、強烈な【浄化魔法】を彼に叩き込みながら説教をし始めたのであった。



 『最初にあった時と何も変わってないっ!またマテリアルで無茶して死にかけてるじゃないか!』と。

 『あなたが無茶すれば、彼女も無茶をする事になるでしょっ!そこもちゃんとわかってんのっ!』と。

 『おバカッ!!』と。



 ……すると、本当は意識も定かではなかったのかもしれないが、エアのその強力な『浄化』と『回復』によって『傭兵』は意識を段々と取り戻し始め、呻き声をあげたのだった。




 『……だれ、だ……?……嬢ちゃん?……うぐっ……』



 空に浮かべられた時点でエアの魔力で強固に拘束されていた為、彼自身は一切身動きが取れずに苦しそうな声を上げたが、下手に暴れ出さないようにエアが配慮しているのが私には直ぐに分かった。



 それも、『狂戦士』の身体は傷が見る見るうちに癒えていき、『淀みで数が増えていた複椀』や彼の『異形』だと呼べる部分は『ポロポロ』と崩れ落ちて砂と化していったのである。



 『警戒はしなくていいけど、とりあえず今はそれ以上マテリアルを使うのはやめて──大丈夫。また回復するだけだから……』


 『嬢ちゃん……』


 『……ただ、回復が終わったらもう一度説教!──と言うか、このまま彼女の所に向かうからね』


 『だめ、だ……あいつは今、おうじょうに……』


 『関係ないっ!貴方も彼女も一緒にお説教ですっ!──それに、必要なら全員にお説教するから、その覚悟もしなさいっ!』


 『……はは、ははは……かなわねぇな……』




「…………」



 ──とまあ、そうして全員を『潰す』と言っていたエアは、言葉通りの事をする為にも浮かべた『傭兵』を連れて王城の方へと颯爽と飛び去って行ったのだった。……まあ、あちらはもうエアに任せておけば大丈夫だと思う。



 それに、残された『神兵達』の様子を見て警戒しておく必要もあるだろうと思い私は残る事にしたのだ。



 ……一応、遠くから見ていた限りだと街の周囲で蠢いていた『神兵達』はエアが姿を現した途端から一様に『──ビクッ!』とし、全員が何かを感じたのか動きを止めてしまっているけれども、まだまだ安心するには早いかと思った。




 ただ、そうして暫く眺めて居ると『神兵達』はエア達が飛び去った途端に方向転換をして、方々へと散り散りになり街から走り去っていったのである……なんともまあ、まとまった動きであると感じるばかりである。





 ……ただまあ、そう言う事は、つまりは『毒』も近くで視ているのだろうと私は察したのだった。


 そもそも、走り去った『数万の神兵達』の姿もどこかで見覚えがあり、『毒』の存在は確定的ではないかと思う──。




「…………」




 ……ただ、そうすると今度は、エアは『神兵達が去る事』も見越した上で『王城』の方へと飛んで行ったのかと疑問も浮かぶ。



 それに、基本的には私達と争うつもりがないと言っている『毒』の存在ではあるものの、エアの姿を見ただけでこうまで簡単に『神兵達』を退かせてしまった事が少しだけ不思議に思えてならなかった。



 ……これは、『なんとなくの違和感』でしかなかったのだが、個人的にはどうして『毒』がこの場所に戦力を集めていたのかと、それが気になって仕方がなかったのである。



 勿論、『神兵達』が単純に大人しく退いてくれただけならば問題はないのだが──



「…………」



 ──どうにも、まだまだ一波乱がありそうだなと私は一人思うのだった。



 ……ただ、兎にも角にもそんな一抹の不安だけは残しつつ、私は脅威が去った事だけは喜ばしく思いながら、『王子の護衛達』と共に馬車に揺られて街へとゆっくり入って行くのであった──。






またのお越しをお待ちしております。

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